14-102.バンクーバーの朝日
■配給:東宝
■製作年、国:2014年、日本
■上映時間:132分
■料金:0円(1ヶ月FP利用)
■鑑賞日:12月23日(TOHOシネマズ渋谷)
□監督:石井裕也
◆妻夫木聡
◆亀梨和也
◆上地雄輔
◆勝地涼
◆池松壮亮
◆高畑充希
◆佐藤浩市
◆宮崎あおい
◆貫地谷しおり
◆鶴見辰吾
【ストーリー&感想】(ネタバレあり)
1914~41年、戦前のカナダで活躍し、2003年にカナダ野球殿堂入りを果たした日系移民の野球チーム「バンクーバー朝日」の実話を、「舟を編む」の石井裕也監督が妻夫木聡を主演に迎えて映画化。1900年代初頭、新天地を夢見てカナダへと渡った多くの日本人が、過酷な肉体労働や貧困、差別という厳しい現実に直面する。日本人街に誕生した野球チーム「バンクーバー朝日」は、体格で上回る白人チーム相手に負け続け、万年リーグ最下位だった。ある年、キャプテンに就いたレジー笠原は、偶然ボールがバットに当たって出塁できたことをきっかけに、バントと盗塁を多用するプレースタイルを思いつく。その大胆な戦法は「頭脳野球」と呼ばれ、同時にフェアプレーの精神でひたむきに戦い抜く彼らの姿は、日系移民たちに勇気や希望をもたらし、白人社会からも賞賛と人気を勝ち取っていくが……。
1900年代初めのカナダ・バンクーバー。貧しい日本から新天地を目指してカナダにやって来た日本人たちは、想像を絶する激しい肉体労働や貧しさに加え、差別にも苦しんでいた。製材所で働くレジー笠原やケイ北本、漁業に携わるロイ永西らは野球チーム「バンクーバー朝日」に所属し、最初は白人チームにばかにされながらも、次第に現地の人々にも認められていく。
戦前のカナダにこういうチームが存在していたという事実は薄々知っていたが、実態は全くしらないでこの映画を観た。映画の中では日本が中国へ進駐してからカナダでの日系人の立場が厳しくなっていった社会情勢と、そんな中でもカナダのアマ・リーグで奮闘した朝日軍は日系人の元気の源だった様子が手に取るような分かった。
チームメイト達は厳しい労働条件下で働き家族を養いながらも、限られた時間を利用して練習に励むが、中には冷ややかな視線を送る家族もいたのは事実。それでも野球をやっている間だけは苦しいことも忘れて熱中出来ていた。だが、チームの柱である3,4番打者が家庭の事情でチームを離れたり、エースのロイも母親の介護に疲れて野球を続ける気持ちが見出せないでいた。
日系人社会の大きな期待を背負っていたチームだが、カナダチームとの体格差は如何ともし難く貧打に喘ぎ連戦連敗。そんな中で試合には敗れたものの、偶然起こったプレーが何かのヒントを与えた。体力差を補うために考え付いたのが、今で言う「スモール・ベースボール」だった。大柄な内野手の緩慢な動きをみて編み出した戦法が「バント」だった。脚力を生かしたバントは悉く相手の裏をついて、あれほど点を奪えなかった朝日軍が点を取って勝てるようになった。更に、相手の打者の打球方向や投手の投球傾向を徹底分析して守備を固めた事で失点も防ぐことが出来朝日軍は連勝街道を走る。だが、ある試合で相手投手のビーンボール(故意死球)に怒ったロイがマウンドに向かって乱闘に。これを理由にチームは出場停止処分になりチームの輪も乱れる。
だが地元カナダ人からも処分の撤回を求める声が上がり、不当な判定にもクレームが付きチームの処分は解けた。快進撃を続ける朝日軍はリーグ戦の最終試合に勝てば優勝がかかる試合に挑む。相手チームに1点リードを許して迎えた最終回、2,3塁からバントを試みるもファウルになるが動きを読まれていた。チームメイトが声を枯らして声援を送る中、投球を思い切り叩いた打球は3塁手の頭上を越え2者がホームイン、朝日軍の劇的な優勝が決まり、観戦していた日系人の歓喜の声が響き渡った。
連合国側のカナダはアジア各地に進駐する日本を警戒、カナダ政府は日系人を強制収容所へ隔離する決定を下す。この急な決定で日系人たちは生活場を奪われチームも自然解散となる。チームメイトは別々の収容所に分かれても、そこでも野球を忘れずにいた。そして、二度と再会することの無かった朝日軍、2003年にカナダの野球殿堂入りが決まった。
この映画はただ単に野球の出来事を追った作品では無く、むしろ、当時のカナダ日系人社会の様子を朝日軍を通して描いている作品であると思った。日本からカナダへ渡った佐藤浩市演じるレジーの父に代表される日本への望郷の念を抱きながらカナダ社会へ馴染めない 移民1世、カナダで生まれ育った2世は英語を話せ何とか現地に溶け込もうとする世代。だが戦争が佳境に入ると日系人には辛い状況に追い込まれていく。それでも朝日軍の活躍は日系人社会の一筋の灯りであり、勝利は明日への糧になっていた。野球がこれだけ多くの人の心の中に入り込み、もはやスポーツという枠を超えて日本人社会に一文化として浸透しているのを感じた。
最後に、若手人気俳優陣を上手くまとめた石井監督、足利市に作ったオープンセットの見事さには感服した。今年観た邦画(17本目)の中では1番良かったので、私の年間ランキングのトップ10入りも間違い無い!!!