歴声庵

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『歴史REAL』V0L7収録 中村彰彦著「病死説と毒殺説、孝明天皇死因の真相は?」について

2012年06月10日 16時09分27秒 | 戊辰戦争・幕末維新史

 現在でも会津ファンや新撰組ファン、また陰謀論好きから人気がある「孝明天皇暗殺説」について、小説家の中村彰彦が雑誌『歴史REAL』の最新号で書いています。以前同じく小説家の星亮一が、『偽りの明治維新』で孝明天皇暗殺説を強弁した時に、私は「学会では歴史研究家の原口清氏が、平成元年に発表した「孝明天皇の死因について」「孝明天皇は暗殺されたのか」の二つの論文によて病死説が主流になったのに、その原口説に触れずに暗殺説を強弁するのはおかしい」と書きました。実際、暗殺論者は原口説に触れずに、自分の都合の良い資料のみを持ち出して暗殺説を強弁するばかりでした。
 そのような中、小説家の中村彰彦が雑誌『歴史REAL』上で、原口説に批判して暗殺説を書くと言う事で読んでみました。しかしいざ読んでみたら、原口説を批判すると言いながら、実際に原口説の引用は無く、原口説の主幹である中山慶子の日記の記述は無視して、原口説を否定すると言う体たらくな物でした。しかも中村彰彦が暗殺説の根拠としているねずまさしの暗殺説は、そもそも原口説の前に書かれている物です。つまり中村は時系列を入れ替えて、既に原口説に否定されている論文を持ち出して、原口説を否定しているのです。これは後述しますが、引用史料名だけを書いておけば、多くの人は引用元までを読まないだろうと言う、陰謀論者お得意の手法であり、読者を馬鹿にした行為と言わざるを得ません。更に中村はこの時系列の矛盾を突かれるのを警戒したのか、自分の暗殺説に詳しくは別の本に掲載した自分の論文を読んで欲しいと逃げを打っています。結局は偉そうな事を書いておきながら、本雑誌では自説の根拠は述べず、責任をねずまさしに転換出来るように巧妙に書かれた物です。秦郁彦著『陰謀史観』に陰謀論者の特徴として、「問題提起者は挙証責任を放棄し、受け手に転換してしまう仕掛けにしているのである(P247)」と書かれていますが、中村の責任転換の手法は正しく陰謀論者の特徴と言えましょう。
 この原口説を論破したと勝ち誇っていながらも、実際には何の反論になっていないだけでも、中村の主張は荒唐無稽なのですけれども、今回の中村の記事最大の問題は、原口説が間違っているから自分の暗殺説が正しいと結論している事です。百歩譲って原口説が間違っていたとしても、それが暗殺説を証明するものではありません。それを「原口病死説が誤り=中村暗殺説が正しい」と言う中村の主張は議論のすり替えに過ぎなく、学問ではなく陰謀論だと言うのを如実に表していると言えましょう。

 こう書いても、未だ「暗殺説は正しい」との想いを捨てきれない人は多いでしょう。私としては暗殺説の支持を続けるのは構わないものの、一度原口氏の二つの論文を読んで頂きたいとお願いです。原口説を読めば孝明天皇の容態が急変したと言うのは誤りで、それを根拠とした暗殺説に疑問を持って頂けると思います。何より中村のような陰謀論者が一番恐れるのは、自分が引用した史料や文献そのものを読者に読まれる事です。前述の秦郁彦著『陰謀史観』にも書かれていますが、陰謀論者は引用史料を持ち出せば多くの人が信じて、引用史料その物は読まないと、言わば見下して陰謀論を振りかざすのです。ですので暗殺説を支持する人にも、中村の陰謀論を鵜呑みにせずに、自分自身の目で原口氏の論文を読んで判断して頂く事を切に望みます。
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