歴声庵

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保谷徹著 「戊辰戦争」

2008年01月18日 21時17分08秒 | 読書

 従来語られる事の少ない、「戊辰戦争」の軍事面を重視して書かれています。しかもその軍事面の中でも、戊辰戦争時の「兵站」について詳しく書かれており、非常に興味深い内容でした。
 このように軍事面を重視しているものの、幕長戦争から戊辰戦争戦後処置までに書かれた通史になっています。

 戊辰戦争時、殆どの藩は専門の補給部隊を持っていなく、宿場の助郷制度を利用していたというのは知っていたものの、詳しい内容は知りませんでした。これについて本書は、宿場と助郷制度の説明から始めてくれて、特に薩摩藩兵の小荷駄部隊を例に挙げて、戊辰当時の兵站や野戦病院について詳しく説明してくれたので、本当に勉強になりました。
 また新政府軍の戦費について、私は各藩の自弁だと思っていたのですけれども、後払いとは言え行軍費(旅費)については新政府が負担していたと言うのは本当に驚きました。尚、この新政府の戦費負担はあくまで行軍費のみで、部隊の西洋化に伴う費用に関しては、各藩の負担とさせていたというのは、西洋化に伴う費用は「軍役」として認識されていたのかと興味深く読ませて頂きました。
 他にも戊辰戦争を語るにおいて、声高に叫ばれる事が多い、新政府軍・反新政府軍双方の放火・略奪・捕虜の処置等について、感傷的にならず、冷静な視点で書かれているのが印象的でした。星亮一氏のような会津贔屓の小説家は、新政府軍の放火・略奪等には声高に叫ぶものの、会津藩兵が行なった放火・略奪には口を噤む偏狭な記述が多いので、それと比べると、本書での筆者の記述は両陣営について客観的に書かれているので、好感が持てました。
 
 以上のように本書は、戊辰戦争時の軍事面を知るには最適の本となっています。歴史家のセンセイ方の中には、軍事(武力)によって歴史が変わったと認めるのを嫌いな人も居るらしく、どうも戊辰戦争時の軍事面を軽視している風潮があると思います。その風潮を嫌っていた私としては、「いったん戦争が始まってしまえば、政治的な駆け引きではなく、勝敗はまさに軍事リアリズムによって決した」との筆者の言葉は、我が意を得たりとの気持ちになりました。
 このように本書は非常に刺激的な、そして勉強になる本でした。ただ新政府軍についての分析が多く、反新政府軍の兵站等についての記述は少なかったので、今後反新政府軍の研究も進む事を期待したいと思います。