しょげかえってしまう。ここ3日ほど計算がうまくできなくて、しょげていたが、昨日、その計算がうまくいった。うまくいったからと言って、別にほめられるようなことではないのだが、一時的に気分がよくなった。
これは小川修三さんの量子力学の講義録に出てくる式のフォローができなかったのである。式を途中をまったく省いて書いてあるので、その穴を埋めることを試みたのであるが、うまくいかなかった。
そのうちに、実はこれは朝永の『量子力学』II(みすず書房)に出ていることがわかった。ところがこの計算がなかなか合わない。
朝永の『量子力学』の詳しい解説をした、本である、『朝永の「量子力学」の研究』が自費出版で出されており、そのコピーを持っているので、それも参照した。この書でも、最後のところがうまく計算できてなくて、なんだかつじつま合わせがされていたが、この根拠づけは十分ではなかった。
ところが、この本の計算で落とされていた項をつけたして、詳しく計算をしてみると、きちんと計算があった。面倒な計算なので、『朝永の「量子力学」の研究』でも計算に苦労して、単に場当たりの、つじつまあわせをしたのだろう(注)。
私にしても小川さんの講義録を自分が編纂していなければ、この式のチェックなどしなかっただろう。A4で5ページくらい要した。最後ごろになって、\Deltaと\Delta kとが消しあえば、うまくいくのにと思ったら、両方ともが実は\Delta kであった。それでうまくキャンセルした。
この計算とはまったく関係がないが、ちょっと気になることがいくつかの数学の訳本の中にある。数学の訳本で、「消える」とか訳されてある語は、たぶん英語ではvanishであろうが、辞書には訳語として「消える」とか「消滅する」と書いてある。しかし、これは「ゼロになる」とか訳さねばなるまい。誤訳とまで言うつもりはないが、やはり内容に忠実な訳とはいえないのではなかろうか。
最近、数学の訳本を見る機会があり、この「消える」という訳語にしばしばであった。もう亡くなった人の訳本では、ハウザー(柴垣和三雄氏訳)の『複素変数』I, II(森北出版)にこの語が頻出していた。ハウザーの本はいい本だと思うのだが、ちょっと訳が行き届いているとは言いかねる気がした。他の数学の訳本でも同じような訳語をつけているのを見かけた。内容を理解して訳をつけてほしいと思う。
ちなみに、私のもっている英和辞典をひいてみたが、小学館の「プログレッシブ英和辞典』でも、岩波の『英和辞典』でもvanishに「(関数とか変数が)ゼロになる」という意味をあげてある。もっとも最初の訳語ではないけれども。
(注)『朝永の「量子力学」の研究』は自費出版された書であり、土屋秀夫さんの著書である。私は東大の物理学科だったかの蔵書を遠隔借り出しをして、コピーをとった。この書は貴重なものであり、もっと一般に流布されることが望ましいが、その可能性は現在のところ少ない。
ちなみに、土屋秀夫さんは東京大学の化学工学科のご出身である。