美濃屋商店〈瓶詰の古本日誌〉

呑んだくれの下郎ながら本を読めるというだけでも、古本に感謝せざるを得ない。

和漢雅俗いろは辞典小序(高橋五郎)

2010年08月07日 | 瓶詰の古本

余輩辞書の学を振起し、辞書の必要を唱道せんと欲し、茲に大辞典の基礎を置ゑ、先づ漢英対照いろは辞典といふを著はしたり、終には江湖諸君の賛成に由り之を以て我国の大ウヱブストルと為すの日あらん事を期す、然れども該辞典たる英文の対照あるが為め語数夥多にして代価亦随つて廉ならず、加ふるに未だ英字を知らざる諸君には殆ど其用なしと云ふも可なり、因て今回英語解釈を省き、又一般に必要ならざる語を略し、更に遺漏に係れる有用の和漢語凡三千を補充し、一層解釈を精密にして、此書を出版し、専ら事務鞅掌の諸君及び和漢学に従事せらるる諸君に便せんとす、葢し我国に於て西洋法に傚ひ著作したる和漢字書は此いろは辞典を以て嚆矢とす、想ふに我国亦是よりして邦語字書の有用なるを知るに至らん、
明治二十一年十一月十日 著者識

(「和漢雅俗いろは辞典」 高橋五郎輯著)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

死せる魂(承前)

2010年08月05日 | 瓶詰の古本
   老人が各所で消失しているという話は、今どき日本の家族のあり方に事寄せて論じる向きが出て来たり、平均寿命を巡る頓珍漢な統計論議が持ち出されたりしながら、的の外れた平板なコメントへと収斂して行く。常套陳腐の言葉で急拵えにまとめ上げようとするが、この話の本当の貌は一向に見えて来ない。引出しを探しあぐねた末に、落ちのない無害無益の談話を語る者は、せめて有識者の風味を利かせようと訳の分からぬ警鐘を鳴らす。           
   死せる魂は、市井の不可解な一事案として四囲の薄皮めいた配慮の懐に留められ、混沌とした下世話の事情、小暗い界隈の囁きは言及されることのないまま、時代の表層を滑り落ちて行く。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

死せる魂

2010年08月04日 | 瓶詰の古本
 死せる魂。住民基本台帳の中で齢百歳を超えて生き続ける。しかも、生死不詳とされる理由が、「どこかへ出て行ったきり帰って来ない」行方不明であると。各所の親族縁者から、今更にして聞かされる口実が似たり寄ったりなのは、奇っ怪と言うべきか、開いた口がふさがらないと言うべきか。まさか、どこぞの誰やらが指南していたということでもなかろうに。
 世紀をまたがって長い年月払われ続けながら、真の受給権者はどこにも存在しなかったかも知れない扶助料やら福祉、遺族年金やら、これをしも暗冥に霧消した年金の族とでも称したらいいのか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

コンロンの山並みを越えて

2010年08月03日 | 瓶詰の古本
   コンロンの山並みを越えて、憂愁の一隊がやって来る。珍奇、幻妖の品々が薄絹につつまれ運ばれた。美髯豊かな男どもは、峨々たる山々をものともせず、山神あるいは虎、熊、獅子の呪い、祟りを蹴散らし、長い旅をして来たのである。
   里の者どもは、一人残らず大通りに出迎えた。喜びは街中に溢れ、見るもの、聞くものことごとくが宝物であった。手に触れては笑いさざめき、話を聞いては躍りまわり、街は煌々と輝き渡り、人々の顔は華やかな松明となる。
   そこで手に取るもの、異国の財宝。桑虫の衣装、白銀の輪軸、処女の眸の遠眼鏡。紫水晶の影法師。千年を経た瑠璃の溜息。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大言壮語して恥じない(論語)

2010年08月01日 | 瓶詰の古本

○子曰。其言之不怍。則為之也難。  

子曰く、其の之を言ふこと怍ぢざれば、之を為すこと難しと。

   孔子が曰はれるに「人は其の行ひを顧みる時は、言行の一致されない場合を恐れて、容易に口に出せないものである。然るに大言壮語して、少しも恥づる心のない様なものは、初めから実行が出来るか否かを考へない人だから、其の言を実行することは誠に困難である」と。

(「修養論語講話」 江口天峰)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする