余輩辞書の学を振起し、辞書の必要を唱道せんと欲し、茲に大辞典の基礎を置ゑ、先づ漢英対照いろは辞典といふを著はしたり、終には江湖諸君の賛成に由り之を以て我国の大ウヱブストルと為すの日あらん事を期す、然れども該辞典たる英文の対照あるが為め語数夥多にして代価亦随つて廉ならず、加ふるに未だ英字を知らざる諸君には殆ど其用なしと云ふも可なり、因て今回英語解釈を省き、又一般に必要ならざる語を略し、更に遺漏に係れる有用の和漢語凡三千を補充し、一層解釈を精密にして、此書を出版し、専ら事務鞅掌の諸君及び和漢学に従事せらるる諸君に便せんとす、葢し我国に於て西洋法に傚ひ著作したる和漢字書は此いろは辞典を以て嚆矢とす、想ふに我国亦是よりして邦語字書の有用なるを知るに至らん、
明治二十一年十一月十日 著者識
(「和漢雅俗いろは辞典」 高橋五郎輯著)