美濃屋商店〈瓶詰の古本日誌〉

呑んだくれの下郎ながら本を読めるというだけでも、古本に感謝せざるを得ない。

死せる魂(承前)

2010年08月05日 | 瓶詰の古本
   老人が各所で消失しているという話は、今どき日本の家族のあり方に事寄せて論じる向きが出て来たり、平均寿命を巡る頓珍漢な統計論議が持ち出されたりしながら、的の外れた平板なコメントへと収斂して行く。常套陳腐の言葉で急拵えにまとめ上げようとするが、この話の本当の貌は一向に見えて来ない。引出しを探しあぐねた末に、落ちのない無害無益の談話を語る者は、せめて有識者の風味を利かせようと訳の分からぬ警鐘を鳴らす。           
   死せる魂は、市井の不可解な一事案として四囲の薄皮めいた配慮の懐に留められ、混沌とした下世話の事情、小暗い界隈の囁きは言及されることのないまま、時代の表層を滑り落ちて行く。
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