美濃屋商店〈瓶詰の古本日誌〉

呑んだくれの下郎ながら本を読めるというだけでも、古本に感謝せざるを得ない。

暗がりの牛の王国

2009年01月04日 | 瓶詰の古本

   結局、ひとりで歩く技術は誰にでも開かれている。ただ、それを習得するだけの無思慮をかき集めることは、誰にでもできるわけではない。夢に見た、ほの暗い坂道、滑走路のようにろうそく状に光る道はどこにあるのだろう。あるいは、古びた寺院の庭、汀に色様々な花が咲く池はどこにあるのだろうか。歳経た七段のきざはしで、誰に逢い、なにを告げればよいのだろうか。
   気を抜くことは偽善を避ける方法だろうか。息詰まって語ることは田舎者の仕事だろうか。そして、幻想の洞窟の奥に広がる王国だけが、胸を騒がせる。神話圏を放逐された全ての人間が識域下の底に求めるのは、たった独り暗がりの牛が知るところの王国なのではあるまいかと。
  

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« かくて明けゆく空の気色(吉... | トップ | 買った本(2008.12.2... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

瓶詰の古本」カテゴリの最新記事