美濃屋商店〈瓶詰の古本日誌〉

呑んだくれの下郎ながら本を読めるというだけでも、古本に感謝せざるを得ない。

数々の作家と作品を嘆賞して世に広く紹介することに努め、なにより怪夢から抜け出る悪鬼悪霊を登場人物として日本文学に招き入れた新次元創造者(江戸川乱歩)

2024年02月24日 | 瓶詰の古本

 私が初めてエドガー・アラン・ポーを読んだのは、大学にはいってからであった。文学青年ではなかったのでポーの文学史上の地位を知らず、ふと「黄金虫」を読んだのが病みつきとなり、乏しい語学力で難儀をしながら、ポーの諸短篇を読んだものである。同じころシャーロック・ホームズも愛読したが、ポーの方が段ちがいに好きであった。
 ポーを初読してから、私が探偵小説を書くまでには七、八年の間があった。処女作を「新青年」の森下さんに送るときに、はじめて江戸川乱歩という語呂合わせを考えた。当初は作家になるつもりはなく、ホビイとして書いていたのだから、始祖の名を僣することも気軽にやってのけたのである。作家になってからは、大いに気が引けたけれども、ついこの筆名を捨てかねて今日に至っている。戦後、私の筆名の由来がニューヨーク・タイムズ書評誌その他にのったが、アメリカ人はこのことを別にけしからんとは考えず、好意的に見てくれたようである。

(『始祖の名を僣す 鏡浦書房版ポー選集の発刊にそえて――』 江戸川乱歩)

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