美濃屋商店〈瓶詰の古本日誌〉

呑んだくれの下郎ながら本を読めるというだけでも、古本に感謝せざるを得ない。

過去を変えられる額縁を持ちながら待っている男と出会った夢

2023年11月03日 | 瓶詰の古本

 天を摩する建物の一階、頭上へ目を凝らしても終端は霞んで見えない高く伸びた吹き抜けの底面、高名なホテルのだだっ広いホール、分厚い絨毯に足を取られながらそこいら辺を漫然歩いていると、左側前方に額縁を抱えた男が立っている。明らかに私を待っているのである。私は直角に左へ折れてその人物の面前を通り過ぎる。と、今通り過ぎた私の姿が額縁の絵の中にそのまま写されるのだ。その男は私の肩越しに、もし過去の出来事を変えたいとお望みならば変えられますよ、と声を掛ける。
 試みに逆戻りに歩いてみると、額縁の中の私は男の面前をさっきとは逆方向へ歩く絵姿に変わっている。何だかよく分からないが現在は過去であり、過去を変えるために現在を生きていると告げられたのかなどという考えが頭に浮かぶ。
 現在は過去となって写され、だからその絵はいつでも、どのようにでも変えられますよと額縁を持った男は言う。

 ホールに設えられた何基ものエレベーター、いざ乗ろうとするとタイミングを外されあっちこっち扉を開け閉てされほとほと翻弄された末、辛うじて乗り込んだエレベーターで屋上階まで昇る。外へ出ると通路は建物全体を廻る回廊の造りになっていて、とにかく前へ進んで行くと遊園地が華やかな傾斜地に展がり、何組もの親子が遊び戯れている。たしかビルの屋上階に当たる空間なのに、だだっぴろい丘が青い穹窿へ連なるようになだらかに迫り上がっている。
 頭がぼうっとしてきて、あの額縁の運び屋に無性に会いたくなる。エレベーターで下のホールへ降りようとするのだが、案の定、下まで降りるのがなかなか到着してくれない。今度こそ来そうな一基の前に走って行くと、別の一基が素知らぬ顔で扉を開け、息せき切ってそこまで行くと鼻先で扉は閉まる。気が付くと今の今まで待っていたエレベーターにもやり過ごされてしまう。いっそ、階段を使った方がいいかも知れない。

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