例 言
一 従来我が国で刊行せられた辞書は数多くあるが、いづれも皆、それそれ異なつたある一つの狭い目的のために編まれたもので、一般に如何なる人にも、如何なる場合にも適当であるといふ種類のものは全く無い。しかも多くの人々は、いつ如何なる場合にも間に合ふ辞書を切望してゐる。本書はこの要求に応ぜんがため、一般紳士学生の読書の友たり、かつ文章や手紙を書く時の顧問たると同時に、また新知識の注入者たらんことを期し、一切の伝統を離れた特殊の編纂法によつて作つたものである。
一 包容語は文部省国語調査会査定の常用漢字を中心として、和漢洋にわたり、各階級の現代人が日常生活上に必要なる語句を撰択収載し、更に小学中学程度の教科書中の字句は素より、各種専門の学術語、特に文化方面に於ける新語、外来語に至るまでも努めて之を採録し、これに平易明快なる口語体の解釈を施してある。
一 見出語はすべて発音のままに五十音順に従つて配列してあるから、正しい仮名遣を知らぬ人にも容易に且つ迅速に検索することが出来る。尚ほ特に仮名遣の必要な人は、見出語の下にそれそれ片仮名で明示してあるから、それに就いて知ることが出来るであらう。
一 本書の見出に於ては長音に発音されるものには ー の符号を用ひ、配列の順は あ の前に置いてある。ただしう段の長音 くう、すう、つう、ふう は仮名遣の煩ひがないから ー を用ひぬことにしてある。
一 われわれは日ごろ成るべく平易な文字や語句を用ひるべきであるが、現在通俗に使用せられてゐるものでも、到底国語調査会で査定した常用漢字だけでは間に合はない。本書では今仮りに右常用漢字以外の字には文字の肩に一一 ×印を附して、使用者の比較考究の便に供することとしてある。
一 解釈の外に語の意義を明確ならしめ、かつ活用の道を例示するために、多くの類語(◯印のもの)と成句(「 」印のもの)とを掲げてある。
一 見出の漢字の中( )で包んであるものは、その上の字の俗字または略字なることを示したので、いづれを使用しても差支ないのである。
一 巻末に附した常用漢字総画索引は、本文と対応して優に一冊の常用漢字典を成すべき組織のものである。使用者はこれに依つて索むる所の字を本文中に見出したならば、そこにはその字の訳と熟語(=印のもの)とが挙げてある。字画の数へ方は必ずしも従来の漢字典の例によらず、通俗に従つて適宜に画分けしてある。例へば 艹(草かんむり) はすべて三画に、 成 は六画に、 流 は十画に数へた如きである。
一 同じく巻末に附した国語字音新仮名遣は最近文部省国語調査会で査定せられたものである。参考のためにこれを附録として追加した。
(「掌中国語新辞典」 藤村作監修)