前にメトロポリタン美術館クロイスターズ分館について書いたが、その時にトマス・ホーヴィング著『謎の十字架』について触れた。
https://blog.goo.ne.jp/kal1123/e/88932aa8a7b77b4558ffd7d4dfeccd6c
なんだか懐かしくなり、図書館で借りて再読してしまった。三十数年ぶり??
当時は美術にあまり関心も無く、ただストーリーを面白く追うだけだったが、今回はその細部を極めて興味深く読むことができ、しみじみ、再読して良かった~!!と思ってしまった。初読から今回の再読までの歳月、その間の自分の美術追っかけ経験が決して無駄ではなかったと思わせてくれたからだ。
昔はよくわからず読んでいた事柄が、今はまざまざと了解できる。なにしろ、のっけからアンニバレ・カラッチのファルネーゼ天井画と素描についてのホーヴィングお手柄話が出て来るんだもの(だから繋がりでマルケのカルトーネ)(笑)。
物語は、ホーヴィングがクロイスターズで働くことになる経緯から始まり、「謎の十字架」の実物を見る機会を得、その素晴らしさに魅せられ、何とかMETに入手得しようと奮闘する物語である。セイウチの象牙に彫られた十字架の出自の謎解きだけではなく、怪しげな収集家や競合する美術館との駆け引きなど、ミステリー冒険小説のような趣もあり。なにしろ、ホーヴィングがフィレンツェのバルジェッロ国立博物館でボンド顔負けの離れ業をしたりするし。
クロイスターズにて撮影。
ちなみに、METサイトでは…
https://www.metmuseum.org/art/collection/search/470305
「Provenance」には「Ante Topic-Mimara, Zurich (sold 1963)」とだけ書いてある。そう、このミマラが曲者なのよねぇ(笑)。
ホーヴィングはこの十字架を、12世の名匠ヒューゴによる英国サフォーク「ベリ・セント・エドマンズ修道院」起源としたが、その後、英国起源説に異論が出ており、現在ではどうやらそれが主流になっているようだ。もちろん、METは英国説のままだけどね。
材料のWARLUSという単語は鏡の国のアリスのWarlus and Carpenterで覚えました。
一応、ホーヴィングの専門はヨーロッパ中世美術だそうなので、一応 信用していいのかなあ。。
メトロポリタンの解説には、この十字架の銘文に、反ユダヤ的なものがあるのは、云々と長々弁明してますが、どこにあるかわからないほどですね。サイトで銘文を読むと、ほとんどは旧約聖書、または聖書外典:つまりユダヤ人の著作からの引用です。USAでは悪しきポリコレで神経質になっているのでしょうか。
ホーヴィングは彫刻や記銘文から推論し、この彫刻プログラムには反ユダヤ的なものがあるとしています。私には旧約聖書や外典は難し過ぎてわからないのが残念です。
で、弁明(?)は確かにUSAのポリコレもあるでしょうし、それに、METの理事や後援者にユダヤ系富豪もいるかもしれないですしね(^^;