花耀亭日記

何でもありの気まぐれ日記

鎌倉日帰り旅行(2)

2005-10-22 04:54:27 | 国内旅行
昼食の後に葉山に向かったのだが、葉山の御用邸前が物々しい警備体制と、沿道に人波が見られた。きっと皇族のどなたかがいらっしゃるのだろうという話だった。でも、見物している余裕は無い。
海岸線に沿って行くと目指す美術館はあった。Nさんとはここで一旦別れて分派行動をすることになっていた。Nさんは葉山のお友達のところでお茶、私はこのために来た「シュヴァンクマイエル展」だ。


<神奈川県立近代美術館葉山館>
「映像と造形の魔術師―シュヴァンクマイエル展 GAUDIA―幻想のプラハから 」
http://www.moma.pref.kanagawa.jp/museum/exhibitions/2005/Svankmajer050726/index.html

私がヤン・シュヴァンクマイエルを知ったのはクエイ兄弟のパペットアニメを観てだった。近年チェコ・アニメは世界的にも注目されており、特にヤンの創り出す奇妙で幻想的な映像は様々な作家に影響を与えている。入口正面一際目を惹くように展示されていたのも、奇妙な樹の根の人形「オテサーネク」で、同名映画の主人公だ。今回の展覧会は映像の「映画祭」、ヤン&エヴァ夫妻の絵画と造形中心の「展覧会」に分けられており、私が観たのは「展覧会」になる。

シュヴァンクマイエル夫妻により『GAUDIA(ガウディア)』(ラテン語で「悦び」「楽しみ」)と題された今回の展覧会は「マニエリスム的蒐集物の陳列室の一部を成す、主要なテーマ群のひとつ」で「グロテスクで滑稽であり、風刺的、諧謔的であるような作品のこと」だそうだ。『GAUDEIA』の展示は6章から構成されていた。
第Ⅰ章「博物誌」、 第Ⅱ章「形成」、 第Ⅲ章「触覚主義」、 第Ⅳ章「夢/物語/エロチシズム」、 第Ⅴ章「ドローイング/アニメーション」、 第Ⅵ章「人形/映画」

ヤンは幼少時に家庭用人形劇セットをプレゼントされ、シュルレアリスムの洗礼を受けながらも、国立アカデミーで人形劇の演出と舞台美術を学ぶ。ヤンの作品の多くはルドルフⅡ世のヴィンダーカマー(驚異の陳列室)やシュルレアリスムから得影響を受けたと思われる作品が多い。今回、私的に一番面白かったのも、第Ⅰ章「博物誌」のまさにルドルフⅡ世のマニエリスム的蒐集世界を髣髴する作品だった。

第Ⅰ章「博物誌」に展示されていた『シュヴァンクマイヤー百科事典』は人間の臓器や自然界の生き物、植物をコラージュし、全く別の幻想的動物や昆虫を創造したインクによるペン画作品である。ヤンの想像力という魔術は現実の断片の寄せ集めから超現実的な生物や世界を活写して見せる。その立体版コラージュである「博物誌のキャビネット」や「食虫動物」「三本足の鉱物」もグロテスクでありながら目の離せなくなる驚異の生物だ。しかし、その造形物には不思議な魅力が宿っている。ブラックユーモア的な生命の循環を感じてしまった「黒い聖母」など錬金術的世界を表わしているらしい。

16世紀、プラハに遷都した神聖ローマ帝国皇帝ルドルフⅡ世も錬金術の世界にのめり込み、その宮廷ではあのジュゼッペ・アルチンボルドが活躍した。ヤンは「自然」と題する作品でこのマニエリスム宮廷画家へのオマージュを奉げている。海洋生物を散りばめた横顔の絵はまさにアルチンボルド作品を彷彿するのだった! 野菜から構成された「アルチンボルド風の頭部」と題された像(造形)などそっくり。ヤンの第Ⅰ章はまさにルドルフⅡ世的なクンストカマー(蒐集物の陳列室)を呈していた。どうも私的にはこの第Ⅰ章だけで大満足となった。と言うことで、第Ⅱ章から第Ⅵ章も興味深い作品が多かったのだが、敢えて感想は省略する(笑)。後はRUNさんのご感想に期待する花耀亭であった(^^;;;

「グロテスク、遊戯、魔術という聖なる『三位一体』は、ありとあらゆる蒐集物の陳列室の基本的な柱を表しており、想像という魔術世界、すなわち現代の実用本意で功利的な文明に対立するもうひとつの世界の窓となることを目指している」(エヴァ・シュヴァンクマイエロヴァー&ヤン・シュヴァンクマイエル)

なにやらアンドレ・ブルトン『魔術的芸術』を想起してしまう。ヤン・シュヴァンクマイエルはきっとプラハというルドルフⅡ世の幻夢の世界で育まれたシュルレアリストなのだろうと思った。


美術館前でNさんの車に再び拾ってもらい、眺めが良いという音羽の森でお茶するために、ホテルの急な坂を上る。


<葉山ホテル音羽の森>
http://www.hotel-otowanomori.co.jp/hayama/
お洒落なリゾートホテルという感じ。テラス・カフェでお茶したのだが、目前に海が開けているロケーションに、シチリアで泊まった カポ・タオルミナのレストラン(グラン・ブルーの♪)を思い出した。生憎の曇り空だったが、湘南のおだやかな海は東北の海とはちょっと違う感じだ。
食べたもの:本日のおまかせデザートセット(オレンジケーキ・ジェラート添え+紅茶)
 
紅茶のおかわりをした後、鎌倉に戻り、Nさんに感謝しつつ解散。充実した鎌倉旅行だった♪