私の義母はとてもお洒落な人である。
ピアスもネックレスも「お気に入りをしっぱなし」のような私と違って、幾つになっても、洋服に合わせてアクセサリーもきちんと変えてこられる。
「海ちゃん、ちょっと来て」と、宝石のコレクションを見せらえた時は圧倒された。
そんな義母が楽しみにしていたことは、息子のお嫁さんがきたら、そんなコレクションの中から
「これは長男のお嫁さんに、これは次男のお嫁さんに…」
と、それらをプレゼントすることだった。
でも残念ながら、私には宝石など豚に真珠で、殆ど興味がなくて、そのようなものを頂いても価値がよくわからなかった。
若かった私があっけらかんと
「お母さん、それは私は要りません」
と言ってのけたら、慌てた夫が必死にフォローした。
「こいつは何と言うか、はっきりしてるだけなんだ。宝石に興味ないだけだよ」
プレゼントしたがりの義母は考えて、それじゃあとコート二枚をプレゼントしてくれた。
サーモンピンクの上質な素材でできた柔らかい、その年流行りのハーフコートと、薄いブラウンのそれを。
黒とか紺ばかり着ていた私には、当時それが新鮮だった。
シングルボタンで、襟の形が洒落ていて、すごくセンスがよかった。
会社に着ていったら、2着ともいろんな人から褒められたので驚いた。
義母はそんなふうに、嫁と一緒にお洒落を楽しんで、それから趣味の手芸でレース編みなど一緒にやりたかったんだと思う。
だけど、私はその手のことは申し訳ないけれど兄嫁に任せて、実は全然違うことを考えていた。
私は、義母の広いキッチンの大きな食器棚にある、豊富な食器をひたすら見つめていたのである。
夫が「昔はカレーなんか作っても、ルーはレストランみたいに、銀のカップ(グレービーボート)から出て来たよ」という食器を、台所を手伝いながらつくづくと眺めていた。
昭和でこれを使っていたのはハイカラだったんだろうな。
根から料理好きだった田舎の実母も、本当はこんな食器で料理を盛りつけたかったに違いない…
同じように「手作り」にこだわった、境遇があまりにも違った二人の母親を一人思っていた。
私が目に留まったのは、何ともいえない鮮やかなブルーの、陶器でできたアイスペールだった。
ガラスやステンレスのアイスペールは知ってたけど、陶器の、蓋つきのそれを私は初めて見た。
「これ素敵ですね。どこで買ったんですか?」
と不躾に尋ねたら
「夫のゴルフ大会の商品で、宝物なのよ」と嬉しそうに返ってきた。
私は宝石より、実はこのアイスペールが欲しくてたまらなかったんだけど、さすがにそれは言えなかった。
これに大きなロック氷を入れて、賑やかにテーブルを囲んだ宴は幸せだったろうな…と実家へ行く度、私は見知らぬ義父とそれを毎回想像している。
ピアスもネックレスも「お気に入りをしっぱなし」のような私と違って、幾つになっても、洋服に合わせてアクセサリーもきちんと変えてこられる。
「海ちゃん、ちょっと来て」と、宝石のコレクションを見せらえた時は圧倒された。
そんな義母が楽しみにしていたことは、息子のお嫁さんがきたら、そんなコレクションの中から
「これは長男のお嫁さんに、これは次男のお嫁さんに…」
と、それらをプレゼントすることだった。
でも残念ながら、私には宝石など豚に真珠で、殆ど興味がなくて、そのようなものを頂いても価値がよくわからなかった。
若かった私があっけらかんと
「お母さん、それは私は要りません」
と言ってのけたら、慌てた夫が必死にフォローした。
「こいつは何と言うか、はっきりしてるだけなんだ。宝石に興味ないだけだよ」
プレゼントしたがりの義母は考えて、それじゃあとコート二枚をプレゼントしてくれた。
サーモンピンクの上質な素材でできた柔らかい、その年流行りのハーフコートと、薄いブラウンのそれを。
黒とか紺ばかり着ていた私には、当時それが新鮮だった。
シングルボタンで、襟の形が洒落ていて、すごくセンスがよかった。
会社に着ていったら、2着ともいろんな人から褒められたので驚いた。
義母はそんなふうに、嫁と一緒にお洒落を楽しんで、それから趣味の手芸でレース編みなど一緒にやりたかったんだと思う。
だけど、私はその手のことは申し訳ないけれど兄嫁に任せて、実は全然違うことを考えていた。
私は、義母の広いキッチンの大きな食器棚にある、豊富な食器をひたすら見つめていたのである。
夫が「昔はカレーなんか作っても、ルーはレストランみたいに、銀のカップ(グレービーボート)から出て来たよ」という食器を、台所を手伝いながらつくづくと眺めていた。
昭和でこれを使っていたのはハイカラだったんだろうな。
根から料理好きだった田舎の実母も、本当はこんな食器で料理を盛りつけたかったに違いない…
同じように「手作り」にこだわった、境遇があまりにも違った二人の母親を一人思っていた。
私が目に留まったのは、何ともいえない鮮やかなブルーの、陶器でできたアイスペールだった。
ガラスやステンレスのアイスペールは知ってたけど、陶器の、蓋つきのそれを私は初めて見た。
「これ素敵ですね。どこで買ったんですか?」
と不躾に尋ねたら
「夫のゴルフ大会の商品で、宝物なのよ」と嬉しそうに返ってきた。
私は宝石より、実はこのアイスペールが欲しくてたまらなかったんだけど、さすがにそれは言えなかった。
これに大きなロック氷を入れて、賑やかにテーブルを囲んだ宴は幸せだったろうな…と実家へ行く度、私は見知らぬ義父とそれを毎回想像している。