構想がおもしろいミステリーといえる。ウィキペディアの「東野圭吾」を読むと、第7回中央公論文芸賞を受賞した小説である。2012年3月に単行本が出版され、2014年11月に文庫本に入っている。
盗んだ車でとある家に窃盗に入った3人組の若者たち-幸平、敦也、翔太-は、逃げる途中で車が不調になり、翔太が下見の折りに目をつけていたというあばらやに身を隠す。そのあばらやが廃業して久しい「ナミヤ雑貨店」だった。この雑貨店という空間が、たまたま3人組が忍びこんだ日になぜか現在と過去が連環し、彼等がある過去のナミヤ雑貨店という時空間に入り込むという事態になる。
この小説は彼等が徐々に自分たちが異時空間の世界に迷い込んでいるということに気づいていく不可思議なストーリー。3人組がなぜか相談事に無い知恵を絞って助言をするという形が続くというユーモラスなストーリーの展開プロセスとなる。それは読者を奇妙な感覚に誘う物語となっていく。それは、過去時点からみれば、未来に発生する事象を知っているものからの助言でもあるから・・・・。
彼等は動かなくなった車を住宅街の中にある月極駐車場に乗り捨てて、午前2時過ぎに雑貨店に身を隠す。裏口の鍵が壊れていることを事前に翔太が見つけていたのだ。彼等は夜明けまでここに潜み、その後逃げるつもりだった。雑貨店内を物色し、翔太は仏壇の引き出しに蝋燭を見つける。併せて古い週刊誌が入っているのにも気づいた。それには約40年前の日付が印刷されていた。オイルショックと称された時代の週刊誌だった。
奇妙なことが起こる。微かな物音がして、シャッターの手前に置かれた段ボール箱に何か白いものが落ちるのを見たのだ。それが始まりとなる。
表には何も書かれていず、封筒の裏には「月のウサギ」と記されていた。廃屋に投げ込まれた封筒。3人組は開封してみた。それは奇妙な手紙だった。そこには女性からの相談事が記されていたのである。、
敦也はちらっと見たその週刊誌に「ナミヤ」という文字が出ていたことに気づく。「大評判!ナヤミ解決の雑貨店」という見出しの記事がその週刊誌に載っていたのである。
廃屋であるはずのこの雑貨店に現在時点で投げ込まれた悩み相談の封書。それを開けて読んだ3人はそのことに責任を感じ返事を書くという行動に出る。
それが契機となり、「月のウサギ」さんとの手紙のやりとりが始まって行く。
そのやりとりから、徐々に3人組は自分たちの置かれている奇妙な時空間というものに気づかされていく。その相談事は過去のある時点の内容であり、手紙のやり取りがなされる時の流れの速さと、3人組が携帯電話を介して認知する時間経過の速さが違うのだ。そして、過去と自分たちが生きる現在がなぜかリンクしている。
すると、今度は茶色の封筒が投げ入れられる。それは別の人間からのものだった。
次々に封筒が舞い込んでくる。相談事の手紙、御礼の手紙・・・・。3人組は過去の事象に3人が持つ現在時点での情報と視点から、戸惑いつつもそれらの相談事に関わりを持っていく羽目になる。
「魚屋アーティスト」(松岡克郎)の物語。「迷える小犬」さんの物語。また、児童養護施設「丸光園」の名前が出てくることにより、敦也の過去の生い立ちとの接点がある話も立ち現れる。
一方で、ナミヤ雑貨店そのものの経緯のストーリーが語られて行く。雑貨店の店主・浪矢雄治が悩み相談を始めた経緯は何か。息子の浪矢貴之が父と交わした男と男の約束。それは雄治の三十三回忌の告知に関係する。貴之は彼の息子・駿吾の協力を得てその約束を守ることになる。
その三十三回忌の告知が、そもそも3人組が異時空間に巻き込まれていくことの接点だった。それは後でわかることなのだが・・・・・。
3人組が投げ込まれたナミヤ雑貨店の異時空間で、3人組がある相談事に対して助言した。それは実は現在時点のある女性の生き方に関係していた。過去と現在がその女性の存在を介して3人組にも連環しているという奇妙な展開が読ませどころとなる。
もう一つ、ここに現在時点から「ナミヤ雑貨店」に関わりを持とうとする男が登場する。和久浩介である。「ナミヤ雑貨店」が彼の運命に大きく関わっていたという。彼は、三十三回忌の告知を「ナミヤ雑貨店」の名称を使ったデマ情報と捉えていて、その事実を確かめる行動を取ろうとしていた。そのプロセスが綴られていく。
3人組による現在と過去の連環する時空間に対し、こちらは現在時点から三十三回忌の告知に登場する「ナミヤ雑貨店」へのアプローチとなる。和久浩介が己の過去を回顧しながらという形で描写されていく。
過去と現在が繋がるという異時空間での3人組の体験は、廻り廻るという連環状況を徐々に明らかにしていく。丸光園、3人組が窃盗行為を犯す動機、浪矢雄治の過去、迷える小犬さんの相談事・・・・それらの間に連環性が見えてくる・・・・・。そこが一番の読ませどころとなる。どのようにつながるのか。それは読んでのお楽しみ!
タイトルにある「奇蹟」とは何か?
私は、「名無しの権兵衛さん」に宛てて「ナミヤ雑貨店」名で書かれた「回答」が牛乳箱に入っていたことだと思う。
それが妥当な印象と言えるか? あるいはその回答がなされたのプロセスは? もちろん、このストーリーを手に取ってお読みいただくことで明らかになる。
読者の頭の中も、状況認識がぐるぐる廻ることになる・・・・・・かもしれない。おもしろい読書体験ができることだろう。
ご一読ありがとうございます。
ふと手に取った作品から私の読書領域の対象、愛読作家の一人に加わりました。
次の本を読み継いできています。こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『禁断の魔術』 文春文庫
『虚像の道化師』 文春文庫
『真夏の方程式』 文春文庫
『聖女の救済』 文春文庫
『ガリレオの苦悩』 文春文庫
『容疑者Xの献身』 文春文庫
『予知夢』 文春文庫
『探偵ガリレオ』 文春文庫
『マスカレード・イブ』 集英社文庫
『夢幻花』 PHP文芸文庫
『祈りの幕が下りる時』 講談社文庫
『赤い指』 講談社文庫
『嘘をもうひとつだけ』 講談社文庫
『私が彼を殺した』 講談社文庫
『悪意』 講談社文庫
『どちらかが彼女を殺した』 講談社文庫
『眠りの森』 講談社文庫
『卒業』 講談社文庫
『新参者』 講談社
『麒麟の翼』 講談社
『プラチナデータ』 幻冬舎
『マスカレード・ホテル』 集英社
盗んだ車でとある家に窃盗に入った3人組の若者たち-幸平、敦也、翔太-は、逃げる途中で車が不調になり、翔太が下見の折りに目をつけていたというあばらやに身を隠す。そのあばらやが廃業して久しい「ナミヤ雑貨店」だった。この雑貨店という空間が、たまたま3人組が忍びこんだ日になぜか現在と過去が連環し、彼等がある過去のナミヤ雑貨店という時空間に入り込むという事態になる。
この小説は彼等が徐々に自分たちが異時空間の世界に迷い込んでいるということに気づいていく不可思議なストーリー。3人組がなぜか相談事に無い知恵を絞って助言をするという形が続くというユーモラスなストーリーの展開プロセスとなる。それは読者を奇妙な感覚に誘う物語となっていく。それは、過去時点からみれば、未来に発生する事象を知っているものからの助言でもあるから・・・・。
彼等は動かなくなった車を住宅街の中にある月極駐車場に乗り捨てて、午前2時過ぎに雑貨店に身を隠す。裏口の鍵が壊れていることを事前に翔太が見つけていたのだ。彼等は夜明けまでここに潜み、その後逃げるつもりだった。雑貨店内を物色し、翔太は仏壇の引き出しに蝋燭を見つける。併せて古い週刊誌が入っているのにも気づいた。それには約40年前の日付が印刷されていた。オイルショックと称された時代の週刊誌だった。
奇妙なことが起こる。微かな物音がして、シャッターの手前に置かれた段ボール箱に何か白いものが落ちるのを見たのだ。それが始まりとなる。
表には何も書かれていず、封筒の裏には「月のウサギ」と記されていた。廃屋に投げ込まれた封筒。3人組は開封してみた。それは奇妙な手紙だった。そこには女性からの相談事が記されていたのである。、
敦也はちらっと見たその週刊誌に「ナミヤ」という文字が出ていたことに気づく。「大評判!ナヤミ解決の雑貨店」という見出しの記事がその週刊誌に載っていたのである。
廃屋であるはずのこの雑貨店に現在時点で投げ込まれた悩み相談の封書。それを開けて読んだ3人はそのことに責任を感じ返事を書くという行動に出る。
それが契機となり、「月のウサギ」さんとの手紙のやりとりが始まって行く。
そのやりとりから、徐々に3人組は自分たちの置かれている奇妙な時空間というものに気づかされていく。その相談事は過去のある時点の内容であり、手紙のやり取りがなされる時の流れの速さと、3人組が携帯電話を介して認知する時間経過の速さが違うのだ。そして、過去と自分たちが生きる現在がなぜかリンクしている。
すると、今度は茶色の封筒が投げ入れられる。それは別の人間からのものだった。
次々に封筒が舞い込んでくる。相談事の手紙、御礼の手紙・・・・。3人組は過去の事象に3人が持つ現在時点での情報と視点から、戸惑いつつもそれらの相談事に関わりを持っていく羽目になる。
「魚屋アーティスト」(松岡克郎)の物語。「迷える小犬」さんの物語。また、児童養護施設「丸光園」の名前が出てくることにより、敦也の過去の生い立ちとの接点がある話も立ち現れる。
一方で、ナミヤ雑貨店そのものの経緯のストーリーが語られて行く。雑貨店の店主・浪矢雄治が悩み相談を始めた経緯は何か。息子の浪矢貴之が父と交わした男と男の約束。それは雄治の三十三回忌の告知に関係する。貴之は彼の息子・駿吾の協力を得てその約束を守ることになる。
その三十三回忌の告知が、そもそも3人組が異時空間に巻き込まれていくことの接点だった。それは後でわかることなのだが・・・・・。
3人組が投げ込まれたナミヤ雑貨店の異時空間で、3人組がある相談事に対して助言した。それは実は現在時点のある女性の生き方に関係していた。過去と現在がその女性の存在を介して3人組にも連環しているという奇妙な展開が読ませどころとなる。
もう一つ、ここに現在時点から「ナミヤ雑貨店」に関わりを持とうとする男が登場する。和久浩介である。「ナミヤ雑貨店」が彼の運命に大きく関わっていたという。彼は、三十三回忌の告知を「ナミヤ雑貨店」の名称を使ったデマ情報と捉えていて、その事実を確かめる行動を取ろうとしていた。そのプロセスが綴られていく。
3人組による現在と過去の連環する時空間に対し、こちらは現在時点から三十三回忌の告知に登場する「ナミヤ雑貨店」へのアプローチとなる。和久浩介が己の過去を回顧しながらという形で描写されていく。
過去と現在が繋がるという異時空間での3人組の体験は、廻り廻るという連環状況を徐々に明らかにしていく。丸光園、3人組が窃盗行為を犯す動機、浪矢雄治の過去、迷える小犬さんの相談事・・・・それらの間に連環性が見えてくる・・・・・。そこが一番の読ませどころとなる。どのようにつながるのか。それは読んでのお楽しみ!
タイトルにある「奇蹟」とは何か?
私は、「名無しの権兵衛さん」に宛てて「ナミヤ雑貨店」名で書かれた「回答」が牛乳箱に入っていたことだと思う。
それが妥当な印象と言えるか? あるいはその回答がなされたのプロセスは? もちろん、このストーリーを手に取ってお読みいただくことで明らかになる。
読者の頭の中も、状況認識がぐるぐる廻ることになる・・・・・・かもしれない。おもしろい読書体験ができることだろう。
ご一読ありがとうございます。
ふと手に取った作品から私の読書領域の対象、愛読作家の一人に加わりました。
次の本を読み継いできています。こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『禁断の魔術』 文春文庫
『虚像の道化師』 文春文庫
『真夏の方程式』 文春文庫
『聖女の救済』 文春文庫
『ガリレオの苦悩』 文春文庫
『容疑者Xの献身』 文春文庫
『予知夢』 文春文庫
『探偵ガリレオ』 文春文庫
『マスカレード・イブ』 集英社文庫
『夢幻花』 PHP文芸文庫
『祈りの幕が下りる時』 講談社文庫
『赤い指』 講談社文庫
『嘘をもうひとつだけ』 講談社文庫
『私が彼を殺した』 講談社文庫
『悪意』 講談社文庫
『どちらかが彼女を殺した』 講談社文庫
『眠りの森』 講談社文庫
『卒業』 講談社文庫
『新参者』 講談社
『麒麟の翼』 講談社
『プラチナデータ』 幻冬舎
『マスカレード・ホテル』 集英社