日本庭園こぼれ話

日本の歴史的庭園、街道、町並み。思いつくままに
Random Talks about Japanese Gardens

安芸市・土居廓中(地方色豊かな武家屋敷)・・・高知県(改編)

2021-01-06 | 歴史を語る町並み

土佐くろしお鉄道「ごめん・なはり線」。何か謝っているようなユーモラスな名前ですが、高知の東「後免」から、土佐湾に沿って室戸方面「奈半利」に至るローカル線です。高知県出身の漫画家・やなせたかし氏によるキャラクターが沿線各駅や車両を飾り、目を楽しませてくれますが、なによりの魅力は車窓からの太平洋の雄大な眺めです。

海を見て、ゴトゴトとワンマンカーに揺られていると、慌ただしい日常を忘れます。のんびりした気分で安芸に到着。目的地は駅から北へ約1.6キロほどのところにある、藩政時代の武家屋敷の面影を残す「土居廓中(どいかちゅう)」という一画です。

散策の起点となるのは野良時計。(下の写真)

明治20年頃、野良仕事をする村人たちに時を知らせるために作られた櫓(やぐら)時計で、当時、地主であった畠中源馬が、舶来時計を参考にして、独学で組み立てたというもの。田園風景の中に建つ一群の蔵造りの建物の屋根に聳える瀟洒な時計は、安芸市のシンボル的存在。

野良時計からさらに150メートルほど北に進むと、土居廓中の家並みが見えてきます。家々の外周を流れる清冽な水によって、清々しい雰囲気。

さて、どう行こうかと、土居公民館の庭にある案内板を眺めていると、不意になつかしい童謡のメロディーが聞こえてきました。「叱られて」です。なつかしいと言うと年齢が分かってしまいますが、足元を見るとそこに歌碑がありました。安芸は、「春よ来い」「浜千鳥」「鯉のぼり」など、童謡の名曲を数多く世に出した作曲家・弘田龍太郎の出身地でもありました。安芸市ではこれらの「曲碑」を随所に建立し、童謡の里づくり活動が行われています。

そして、土居廓中。これは安芸城跡の周囲にある家並みで、すなわち城の「土居」の外に整備された家臣団の居住地「廓中」を指します。写真のように、武家町からイメージされるいかめしさはなく、家々の外周に、清らかな疎水が走り、土用竹やウバメガシの生垣がずーっと続いている、すっきりした家並みが印象的。

「日本風景街道」の一つであり、「重要伝統的建造物群保存地区」でもあります。

個人宅のため、外からの見学ですが、雨から壁を守るために「水切り瓦」を壁面に取り付けた土佐漆喰の土蔵や、土壁に石や瓦を塗り込めた「練り塀」など、風が強く雨の多い土佐の風土に合わせた造形を垣間見ることができます。

その中で、上級家臣であったという野村家の内部のみが公開されています。家屋は簡素ですが、武士の住まいらしく、敵の襲撃を防ぐための工夫のあれこれ、たとえば、塀の内にも門のある「塀重門」や、立ち回りが困難となる狭い玄関、そして「武者隠しの壁」などが興味深いことでした。 

表の間に面しては狭いけれど手入れの行き届いた庭。また裏手には広い菜園があり、味噌部屋や布を織る機屋もあったということで、自給自足的な暮らしぶりも窺えます。

そして、三菱グループの創始者・岩崎弥太郎の生家がこの近くにあるということを、後で知りました。


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