日本庭園こぼれ話

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柿田川湧水(再録)---自然保護と観光の間で(静岡県)

2018-06-29 | 名水

「名水百選」の中でも人気の高い柿田川湧水は、静岡県駿東郡清水町にあります。柿田川は、伊豆半島の付け根部分にある川ですが、ここは昔、富士山が噴火した時の溶岩流が到達した最南端にあたり、以来、富士山やその周辺の箱根山、愛鷹山などに降った雨や雪が、地下水となり、ここで突然湧き出して、河川を形成するのだそうです。 

この川の最上部から狩野川に合流するまでの約1.2キロの間にある、大小数十ヵ所の「湧き間」は、幅50~100メートルの清流となり、様々な生命を育んでいます

道標に従って、第1展望台へ。眼下に柿田川の清流が滔々と流れ、その水量の多さに圧倒されます。下を見ると、何ヵ所か、川底の砂が舞い上がっている場所があります。それが「湧き間」と呼ばれる湧水の噴き出し口です。

(第1展望台から見下ろす柿田川)

「昔はゴーゴーと音をたてて流れていたそうですよ」

最大日量100万トンと、日本一の湧水量を誇る柿田川ですが、1964年には、日量が140万トンもあったそうですから、これでも水量がだいぶ減少してしまったわけです。

原因は、富士山東麓地域に進出した企業による地下水の汲み上げや、開発による雨水の地下浸透量の減少などで、近年は、水質汚染もわずかながら、確認されているそうです。

「柿田川みどりのトラスト」は、このような状況から、川の自然を守るために発足したもので、キャンペーン、調査、清掃など様々な活動を実行すると同時に、流域の土地を買い上げるナショナル・トラスト運動を展開しています。

柿田川は稀少種も含め、多彩な動植物の宝庫。水中から川岸、流域の林まで、連続した生態系を見ることができ、車の往来の激しい国道のすぐ脇にある川とは、とても信じられない別世界です。

柿田川湧水の第1展望台を離れて、第2展望台へ。

ここは以前、紡績工場が工場用水を汲み上げていた場所で、水中にはその井戸の跡である大きな円形のコンクリートの枠が残っています。湧水が舞い上げる黒い砂と、ブルーの水のコントラストが幻想的。

ここからいったん川を離れ、親水広場を通って林を抜けると、再び眼前が開け、柿田川でもっとも川幅の広いスポットに出ます。

野の花々が、川岸一帯を埋め尽くし、その向こうにゆったりとした水の流れ。展望台から眺めたのとは、また違った川の姿がそこにありました。

傍らの丸い石枠の中からも、こんこんと水が湧いていますが、ここは製糸会社が利用していた井戸の跡。保護運動による規制が行われていなかったら、柿田川のこの楽園は、とっくに破壊されていたかもしれません。

 (上: 本来は、あってはならない井戸の跡だが、今では、庭の一隅のような風情ある景になっている)

柿田川を後に、木道伝いに公園を出ると、たちまち賑やかな「観光地」の雰囲気。風雅な料亭や、お洒落なレストラン、土産物店が並んでいます。そして観光バスが次々に到着していました。

大勢の人に柿田川の素晴らしさを知ってもらうことは、保護運動を促進するために大切なことですが、訪れる人々はまた、川の環境を損なう要因にもなります。自然保護の二律背反がここにもありました。

とりあえず、清流とゆっくり対面したい方は、朝の早いうちに訪れることをおすすめします。

本当は、午後の方が光の関係で、川がより美しく見えるそうですが・・・。