前記の大内宿散策の起点となる「湯野上(ゆのかみ)温泉」は、会津線にからまるように流れる大川ラインの、渓谷のほとりに点在する素朴な温泉郷。
豊富な湯量を誇り、大部分の旅館に露天風呂があるのが目を引きますが、河原にも無料の露天風呂があって、誰でも入浴できます。混浴ですが、お湯につかっている人あり、そばで魚を釣っている人ありの、大らかな光景。
(数年前の話なので、この露天風呂が、今も現存するかは不明です)
(上: 清流に面した共同露天風呂)
温泉街を通る国道121号線を、街はずれで右手に入り、山道(車の通行可)を15分くらい登っていくと、天然記念物「中山風穴(ふうけつ)特殊植物群落地」に至ります。
中山は標高800メートルほどの独立峰ですが、その山腹には、寒冷地や高山にしかないはずの植物群落があり、植物愛好家に人気の地とか。その秘密は、山の特殊な構造にあると言われています。中山の表面は、角柱状の岩石が、至るところに堆積し、隙間の多い地下構造になっています。
(上: 無数の洞窟を内包する中山)
春、雪解け水がその隙間に流れ込み、低い地温のために凍っていたのが、外気の上昇する4月から10月にかけて、冷風を吹き上げるのではないかと考えられています。冷気の通り道が風穴で、その周辺は夏も温度が低いため、特殊な植生が見られるというわけです。
(上: 風穴から吹き出す冷気が、中山の特殊植物群落を育む)
特殊植物群落は、山の中腹の6つの地域に点在して、第3群地区からは遊歩道ができています。群落地といっても、それはロープで囲まれた、ほんの数メートルから十数メートルの一画なのですが、たとえば、そこだけに白樺が生えていたりと、ロープの内と外で、植生が違っているのが見てとれます。
花の見頃は、5月初旬から6月末くらいまで。中でも「オオタカネバラ」の群落は、ここが本州最大とか。風穴のそばに行くと、ヒンヤリした空気が肌に触れ、自然の仕組みの神秘を感じます。
中山風穴を後にして・・・
湯の上温泉駅の隣は「塔のへつり駅」という変わった名前の駅です。会津鉄道に多い無人駅の一つで、林の中のバンガローといった雰囲気。ここから3分ほど歩くと、大川渓谷に出ます。茶店や土産物店の裏手に出ると、視界の中に、いきなり飛び込んで来る巨大な石の「塔」!思わず息をのむ断崖の景観。
それが「塔のへつり」。「へつり」とは、この地方の方言で、川に沿った断崖や急斜面を意味するそうです。
(上: 浸食と風化によって浮き彫りされた塔のへつり)
「大自然は偉大な芸術家」。旅をしては、各地の風景にそんな思いを新たにしてきましたが、今回もまた・・・。
大川渓谷の向こう岸に並んで聳える断崖は、「九輪塔岩」「象塔岩」「鷲塔岩」など、その形になぞらえた名前が付いていて、主なものが10個あるので、「10の岩=塔(とう)の岩(へつり)」と呼ばれたという説もあるそうです。
吊り橋で対岸に渡り、断崖の足元に抉られた巨大な岩のアーケードを歩けば、そのスケールの大きさが、改めて実感されます。下の写真中央に、点のように見えるのが人です。
100万年の歳月をかけて、浸食と風化を繰り返し形成された大自然のオブジェ。白い岩肌に、木々の緑が彩りを添えていました。
(上: 100万年の時間をかけた大自然のアート)
帰りは、偶然来合わせたトロッコ列車に乗車。経営の苦しい第三セクターでは、どこも乗客を呼ぶために、様々なアイディアを出していますが、会津鉄道の目玉の1つは、トロッコ列車。お天気が良ければ、普通の列車より見晴らしが良く快適です。
速度も普通よりゆっくりで、景色の良い所では、最大徐行。説明のアナウンスが入ります。「皆様、左手をご覧ください。眼下の川に露天風呂がございます・・・」。みんなが、どっと左側に駆け寄ったのは、言うまでもありません。
「帽子やハンカチを飛ばさないように、ご注意ください」。こんなアナウンスを聞くのは、ずいぶん久しぶりのような気がしました。
※ トロッコ列車は、不定期運行です。会津鉄道のHPをご参照ください。