「閑(しづ)かさや 岩にしみいる 蝉の声」
ちょっと時期ハズレになりましたが、耳にかぶさるように鳴いている、暑苦しい蝉の声を聞きながら、いつも思い出すのは、この俳句。松尾芭蕉が『おくのほそ道』で詠んだ数々の名句の中でも、もっとも有名な句の一つです。
この句の舞台は、「山寺」として親しまれている山形県立石寺。山形駅から仙山線で約15分、山寺駅で下車すると、眼前に迫る奇観。駅の前方正面に聳える山全体が目指す「山寺」です。
山寺は、正式には宝珠山立石寺(ほうじゅさんりっしゃくじ)といい、貞観2年(860)、清和天皇の勅願により、延暦寺の別院として、慈覚大師が開いた天台宗の名刹。山の所々に、巨大な奇岩が露出し、いくつもの堂宇が点在しています。
登山口を入った正面にある大きな建物は、根本中堂(重要文化財)。初代山形城主・斯波兼頼が再建したもので、ブナ材の建築物としては、日本最古といわれているそうです。その隣には、あの芭蕉の「閑さや・・・」の句碑が。
(上: 根本中堂)
そして、鎌倉時代の建立という山門をくぐると、そこからは長い階段が続きます。
(上: 山門)
1,000段以上あるという話を聞いただけで、くたびれてしまいそうですが、次々に現れる由緒ある堂宇や、深い緑の中に覗く岩肌の奇観に目を奪われ、実際にはそれほど大変な行程ではありませんでした。
山寺は山形県で人気のある観光地の一つ。訪れたのは暑い時期でしたが、にもかかわらず、かなりの人出でした。しかし、山中の深い木立に雑音が吸収されてしまうのか、人が多い割には、森閑とした雰囲気。蝉の声が岩にしみいるのが実感できるかも。
四寸道、せみ塚、弥陀洞、仁王門など、それぞれに由緒ある場所を通り、いくつかの支院が並んだ参道を過ぎて、さらに登ると、頂上の奥の院と大仏堂に到着。途中で道を左に折れると、開山堂と五大堂があります。五大堂からの眺めは絶景!
(上:1,000段の階段を登って辿り着いた先には、絶景が待っている)
芭蕉は旅の途中、人々に勧められ、逗留していた尾花沢という所から7里の道を、予定とは逆方向に引き返して、ここを訪ねたのでしたが、その芭蕉の満足感が伝わってくるような・・・・。
(上: 芭蕉と曾良の像)