日本庭園こぼれ話

日本の歴史的庭園、街道、町並み。思いつくままに
Random Talks about Japanese Gardens

仙厳園・桜島を借景とする庭園・・・鹿児島市(改編)

2022-08-23 | 日本庭園

先日、テレビ番組の中で、桜島の雄大な姿を見たので、その島を借景とした庭園をご紹介したくなりました。

「仙厳園(せんがんえん)」です。南国の雄藩・薩摩。鹿児島は、江戸時代、遠く鎌倉時代より南九州を統治してきた島津七十七万石の城下町として栄え、また幕末において、近代国家日本への推進役を果たしたことはご存じの通りです。

錦江湾に面している仙厳園(名勝)は、万治元年(1658)、19代島津光久によってつくられた別邸が始まり。「磯仮屋」あるいは「磯庭園」と呼ばれていたそうで、実際、当時は波打ち際が今よりずっと間近にあったとか。仙厳園には、この光久から明治時代の29代忠義まで、230年間にわたる歴史の断片が、5万平方メートルという広い園内の随所に残されています。

(上:南国を実感するアプローチ)

受付を兼ねた長屋門をくぐって、南国の植物が繁茂するアプローチを抜け、錫門(すずもん)をくぐると、本庭の景観が開けるわけですが、その途端、ほとんどすべての来園者の口から、歓声ともため息ともつかない声が発せられました。

明るく開放的な芝生の庭、その先に錦江湾のきらめき、そして対岸には威風堂々の桜島。この日はあいにく、頂上に雲がかかっていて、火山の噴煙を見ることはできませんでしたが、それでも眼前に迫る山の存在感に圧倒されました。

錦江湾を池に、桜島を築山に見立てたというその庭景は、究極の借景庭園と言えるのではないでしょうか。

振り返れば、起伏のある芝庭の一段高いところに、雁行する瀟洒な建物。「磯御殿」です。背後には照葉樹の原生林に覆われた裏山が迫っています。

(上:前面に桜島を望み、原生林を背景に佇む磯御殿)

島津家の別邸として建てられたこの御殿は、明治維新後は、島津家の鹿児島における生活の拠点となり、特に29代忠義は、明治21年から10年間、ここを本邸として使用。当時の暮らしぶりを伝えるのが、現在の御殿です。

往時の3分の1しか残っていない、といってもまだ25もあるという部屋数の多さに驚くとともに、簡素な中にも贅を凝らした内部の意匠が見事。ベンガラの紅い壁や、コウモリの形の釘隠などに、中国との密な交流の様子が偲ばれますが、それは庭園内の所々でも目にするものです。

眼前に迫る桜島を見ながら、園内散歩。

広々とした芝庭の中央で、一際目立つ巨木はヤクタネゴヨウ。五葉松の一種で、屋久島と種子島のみに自生する稀少種。その足元に建つ異国的な四阿(あずまや)は「望嶽楼」。19代久光の時代に、琉球王から送られた建物です。

 

その辺りから振り返ると、御殿の背後の山の中腹に、「千尋巌(せんじんがん)」の文字を刻んだ巨岩が望めます。20代斉興の命により、延べ3,900人と3ヵ月の月日を要して完成したもので、3文字の長さは11メートルにも及ぶとか。

岩に文字を刻む作庭手法は、日本庭園には珍しく、これも中国文化の影響かと、案内にありました。前を見ても、後を見ても豪快な庭園です。

 

桜島に対面する芝庭の中に、形の良い石燈籠があります。鶴が羽を広げたようなイメージの笠石を乗せた「鶴燈籠」です

 

これは日本で最初にガス灯がともされた燈籠だということ。安政4年(1857)、28代斉彬が、蘭学者らにガス灯の用法を翻訳させ、園内にガス室を設置して、石燈籠に点火したそうです。横浜でガス灯が点火されたのが明治5年(1872)ということですから、薩摩ではそれよりも15年も前に、ガス灯がともったわけです。

 

 

歩を進めて裏手に回ると、そこには発電用のダム跡、曲水の庭、日本で初めて移植された孟宗竹の林、珍しい猫神様の祠、濾過池、大砲を造るために築かれた反射炉など、他の庭園では見かけない異色の見どころが数々あります。

一般には、日本の近代化は明治維新とともに始まったとされますが、ここ仙厳園を訪れると、薩摩では、それより10数年も前に近代化の設計図が描かれていたことを認識します。

その旗頭となったのは、28代藩主島津斉彬。仙厳園に隣接する尚古集成館は、斉彬が推進した近代産業を伝える博物館です。

斉彬の取り組みは、単に軍事力の強化だけでなく、産業の育成、社会基盤の整備にも及び、時代を先取りしたその功績を知ると、後に西郷隆盛や大久保利通らに受け継がれた明治維新が、薩摩から始まった必然を感じます。仙厳園は、薩摩の歴史を集約する庭とも言えるかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

 


片倉城跡公園・キツネノカミソリ(パート2)・・・東京都八王子市

2022-08-06 | 四季の花話

8月6日、片倉城跡公園を再訪しました。

一週間前に訪れた時は、目当ての「キツネノカミソリ」が、ちょっと少なく、「ウバユリ」も、あまり開花していなかったのですが・・・

今日は、公園に入った途端、満開のキツネノカミソリの姿がありました。

一気に期待がふくらみ、群生が見られる奥の沢へと上っていきました。

 

キツネノカミソリが、見頃となっていました!

谷の斜面を埋め尽くすように

あっちにも、こっちにも

そして、ウバユリも開花して

期待通り、キツネノカミソリとウバユリの競演も見られたのでした。

満足、満足

それにしても、花の見頃の時期は、難しいものです。

昨年より、一週間も遅い満開でした。