日本庭園こぼれ話

日本の歴史的庭園、街道、町並み。思いつくままに
Random Talks about Japanese Gardens

屋久島・・・「もののけ姫の森」へ(再編)

2020-06-21 | トレッキング

屋久島は、1993年、ユネスコの世界自然遺産に登録され、もともとの名声をさらに高めましたが、それをブームにまで押し上げたのは、宮崎駿監督の「もののけ姫」だったでしょう。あの美しく神秘的な「シシ神の森」が、屋久島の森をモデルにしたと言われたからです。

その森のある「白谷雲水峡」は、「登山をしなくても屋久島の魅力を満喫できる」場所として人気。私は地元ガイド付きのツアーに参加しました。

白谷雲水峡は、標高800メートルのところに位置し、照葉樹からヤクスギ林に至る原生的な森林を容易に観賞できるスポットとされています。

清流沿いの遊歩道を歩いて行くのですが、実際には、岩がゴロゴロ、アップ・ダウンが多く、急流の沢渡りもあり、「ハイキング初級」のイメージとは、ちょっと違うかな?と、参加した一行は前途に不安を感じるのでした。それでも、次々に展開する森の美しさに背中を押されて前進。

 

 

 

 

 

 

 

森は完全に緑の世界。

照葉樹林の中に早くも姿を見せるヤクスギ。ちなみに「ヤクスギ」の名を冠するのは、ここでは樹齢1,000年以上のスギに限られ、それ以下のものは「コスギ」と呼ばれて、まだまだ半人前。

スギというのは一般に真っ直ぐな木というイメージがありますが、ヤクスギの幹には、ゴツゴツした瘤(こぶ)がたくさん見られます。樹脂の塊だというその瘤が、ヤクスギに表情を与え、1本1本の木がとても個性的。

特別の巨樹や形状の変わったヤクスギには、それに応じた名前が付けられています。一番有名なのが「縄文杉」ですが、他にも「弥生杉」「紀元杉」「三本足杉」「仏陀杉」などなど。

(上: 仏陀杉=ヤクスギランド入場券の写真より)

しかし、ここの森の魅力は、単にヤクスギの巨木が多くあるだけでなく、その倒木や切り株の上に、新しいスギや他の木々が着生し生長した「倒木更新」や「切り株更新」という、森の自然再生が見られることです。

まさしく、森は生きている。それらもまた、オブジェのようなユニークな形で、私たちの目を楽しませてくれるのでした。そしてそれらのすべてが、様々な種類の美しいコケに覆われています。

屋久島には300種類のコケがあるそうですが、森を埋め尽くす緑のグラデーションは圧巻。「もののけ姫の森」まで、もう一息。

道は清流に沿って進み、「飛龍おとし」のような豪快な滝もあれば、岩肌から滴る清水もあり、そこかしこに水が湧き出ているので、水筒いらず。

(上: 飛龍おとし)

屋久島は「上空に空中ダムを持つ」と言われています。島は水温の高い黒潮に囲まれ、亜熱帯の太陽に照らされ発生した水蒸気は、2000メートル近い山岳の山肌を一気に上り、山上で積乱雲となって蓄えられます。

それが雨となり、森を潤し、川となって村々に注ぎ込まれ、海へと戻り、再び山上へと運ばれる。この水の循環が、屋久島の生命を育んでいるのです。

(上: 屋久島では、至る所に清冽な水の流れがある)

また台風の進路にあるところから、屋久島に降る年間雨量は、平地でも5000ミリ近く、山ではその2倍とか。「屋久島はひと月に35日雨が降る」と言われる所以です。

ヤクシカやヤクザルにも遭遇しながらのハイキング。やがて巨木の根元がトンネル状になった「くぐり杉」を抜けると、まもなく「もののけ姫の森」です。

(上: くぐり杉)

入口からゆっくり歩いて約1時間。白谷雲水峡の奥深い森の中で、特別に「もののけ姫の森」と名付けられ、保護されたその一画は、これまでにも増して深く、青味さえ帯びた緑の世界。

樹木と岩が渾然一体となり、その全てがコケに覆われ、霊気を感じる静寂感に包まれたその森の情景に圧倒されました。

どこからか「コダマ(『もののけ姫』に出てくる森の精霊)」がひょっこり現れそうな・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 


白神山地(3)・・・こぼれ話

2020-06-17 | トレッキング

世界自然遺産登録後は、訪れる人々で大盛況の白神山地ですが、以前は、ほとんど無名の存在で、マタギなど山で生活している人や、ごく一部の登山者と釣り人しか入山しなかった所だったとか。

意外なことに「白神山地」という名称自体、かなり新しいもので、それまでは「津軽の奥山」という漠然とした概念しか、なかったといいます。

しかし、白神山地のブナ林が今日まで残されたのは、それが幸いしたのです。縄文時代に形成され、かつては東北地方全体の山々を覆っていたブナの森が、戦後、次々に伐採されて、杉などに植え替えられた時に、「白神山地」のブナ林が残ったのは、山が都市から遠い場所にあり、伐採や木の搬出が難しかったためだそうです。

そのブナ林に危機が迫ったのは、白神山地を縦断する「青秋林道」建設計画でした。これを機に、秋田・青森両県の自然保護団体を中心に、ブナの原生林を守る運動が展開されます。

その運動に大きな役割を果たしたのが「クマゲラ」です。クマゲラは、古くから東北地方のブナ林に棲息する日本最大のキツツキ。体調は45センチほどで、体は真っ黒、頭のテッペンだけが赤く、赤いベレー帽をかぶっているような、愛嬌のある鳥です。この「幻のキツツキ」と呼ばれる希少種のクマゲラが、白神山地で発見され、保護運動が一気に盛り上がってということです。

紆余曲折がありながらも、地元から発信された、ふるさとの森を守る運動は、世界遺産となって結実しました。しかし今日、白神山地には新たな問題が浮上しているといいます。それは遺産の保護と観光をめぐる論議。おそらく多くの世界遺産の地が抱える悩ましい問題に違いありません。

ブナ林散策から受けた癒やしの恩恵に感謝しながらも、訪れる人の多さ、そのための観光施設がもたらす、自然への影響を考えさせられました。

・・・おわり・・・


白神山地(2)・・・ブナの森に点在する「渓谷と滝」(改編)

2020-06-12 | トレッキング

雨で終わった「十二湖めぐり」でしたが、翌日は雲一つないハイキング日和。「暗門の滝」へ向かいます。暗門の滝入口駐車場から歩き始め、暗門大橋を渡り、渓谷の間を流れる「暗門川」を遡っていきます。

最初は広かった川幅も道幅も、上流に行くに従い狭くなり、「暗門の滝まで1㎞」の標識を過ぎる頃には、渓谷が両側に迫り、深山の趣。景趣に富んだ流れと、奇岩のそそり立つ絶壁に目を奪われます。

        

やがて視界が開け、「第三の滝」が見えてきます。落差26mと、それほど高さのある滝ではありませんが、ゴツゴツした岩肌を伝い落ちる水の模様を脇役にした美しい滝です。

 

 

 

(上: 岩肌を伝う水の模様が美しい「第三の滝」)

しばらく眺めた後に、さらにその上へ。滝の横手についた歩道は狭く、急な石段で、滑りやすいので要注意。ここまではハイキングでしたが、ここからは山登りといった感じ。

15分ほどで「第二の滝」に到着。落差は37m。黄葉、紅葉に彩られた絶壁を切り裂くように、大量の水がドーッと落ちてくる様は見応えがあります。

       

(上: 豪快に落ちる「第二の滝」)

そしてまた、急な坂や階段を上り、「第一の滝」を目指します。「第二の滝」からさらに15分。出発から約1時間で「第一の滝」に到着。

      

(上: 暗門の滝めぐりの終点「第一の滝」。見上げる人々の顔には感動と満足の笑みが・・・)

落差は42m。岩壁に響き渡る轟音とともに、飛沫をあげて落ちてくる滝の豪快さに、満足感がいっぱい。    

 

* ところで、滝の名称は、下流から「第一」「第二」「第三」と数が増えていくのが一般的だと思いますが、ここで順序が逆なのは、昔は下流から登ってくるのが困難で、山側から滝を見ていたからだそうです。

* 「暗門の滝」をシーズン中に訪れる場合は、なるべく早い時間の出発をお勧めします。滝近くは道幅が狭く、一本道なので、混んで来ると、上る人と下る人とのすれ違いが大変で、何度も足を止めることになります。さらに、撮影の時に「第一の滝」を良いアングルでとらえるスポットが狭く、順番待ちとなるかもしれません。

・・・つづく・・・

 


白神山地(1)・・・ブナの森に点在する「十二湖」(改編)

2020-06-07 | トレッキング

青森県と秋田県にまたがる世界最大級という広大なブナの原生林が、鹿児島県・屋久島とともに、日本で初めてユネスコの世界自然遺産に登録されたのは、1993年(平成5年)のことでした。世界に誇れる貴重な動植物の宝庫がここにあります。

先年、白神山地の西の玄関口・十二湖と暗門の滝をめぐる、1泊2日のハイキングツアーに参加しました。

現地ガイドさんの案内で、ハイキング開始。初日は、ブナの森の中に点在する湖沼を巡ります。

(上: 早くも森の精気が伝わって来るブナの森の入口)

十二湖と言っても、実際には33の湖沼群の総称で、これらは1704年の大地震により、付近の「崩山」が崩壊した時に、堰き止められた川から形成されたものとか。これが何故「十二湖」と呼ばれるのかというと、地滑りを起こした「大崩」から眺めると、12の湖沼が見えるからなのだそうです。

森はブナを中心に、サワグルミ、カツラ、ホウなどで構成される落葉広葉樹林。自然歩道に足を踏み入れると、足元は腐葉土でフカフカ。とても足に優しい小径です。

(上: 天然のエコサイクルで、多様な生態系を育むブナの森)

歩き始めるとすぐに「鶏頭場(けとば)の池」が見えてきました。十二湖の中でもっとも面積の広い池で、複雑な汀線が鶏の頭の形に似ていることが名前の由来。(下の写真)

さらに歩いて行くと、なにやら甘い焼き菓子のような香りが漂っているのに気がつきました。ガイドさんによれば、これは「カツラ」の木が黄葉する時に発する香りなのだとか。ここは、地元の人々にとっては、暮らしの森。有用木や根元の山菜、キノコの説明を受けながら森の奥へと進みます。

小径は上り坂となり、やがて斜面の中腹から下を見ると、本日の目玉?「青池」がありました。

(上: 眺めていると、吸い込まれそうな気分になる青池)

名前の通り、湖面はインクを流したような青色。この青の色が天候や時間によって変化するのだそうです。この日は曇りのためか、深いネイビーブルーでした。透明度も高く、周囲の木々を映した水面に、水底にある枯れたブナの木が透けて見える様は神秘的。小さい池ですが、十二湖のシンボルと言うにふさわしい存在感です。

風の強い日だったため、森を通る風が木々の枝を揺らし、頭上から聞こえる音は、不思議なことに、海の波の音を連想させました。そんな中を歩き、「長池」、ブナの倒木が横たわる涸れ池の「四五郎の池」を見て、「金山の池」に到着です。

(上: 水が涸れている四五郎の池。しかし雪解けから8月頃までは、水があるという)

「金山の池」は湖沼群の中では大きい方で、対岸には「崩山」。300年前に崩れた痕が、いまだに生々しい山肌を見せています。

(上: 金山の池の背景は、十二湖の誕生の元となった崩山)

この後、「子宝の池」を経て、休憩所のある十二湖リフレッシュ村で昼食タイム。

午後の目玉は「日本キャニオン」と「沸壺の池」です。

「日本キャニオン」は、長い年月の間に崩壊と浸食が繰り返されて、白い石灰岩が露出した絶壁。その姿がアメリカのグランドキャニオンを連想させることから、名付けられたということですが、アメリカ人の観光客には「ベビーキャニオン」だと笑われたとか。

 (上: 石灰岩の白い肌が、異様な雰囲気を創出している日本キャニオン)

 確かに「ベビーキャニオン」ではありますが、崖が間近に迫る展望ポイントからの眺めは、かなりの迫力。自然が創り出した異次元空間を見る思い。山肌の白さは雪山と見紛うほどで、そこに深い襞が刻まれています。

その後は「玉池」「越口の池」「中の池」「落口の池」などの展望が連続する車道を進み、再び森の中へ。「沸壺の池」を目指しました。

この池は、湧水が流れ込み、先ほどの「青池」同様、澄んだ青色の水面が見られるというので、楽しみにしていたのですが、途中で突然の雷とドシャブリの雨。池を観賞できないまま、大急ぎで帰途につき、この日のハイキングは終了となりました。残念。

全行程約9㎞、ゆっくり歩いて、約5時間の散策でした。

・・・つづく・・・