島根県安来市にある「足立美術館」は、昭和45年、地元出身の実業家・足立全康氏により創設された美術館です。収蔵品は近代日本画壇の巨匠といわれる画家の作品が中心。中でも、横山大観のコレクションは、その数と質において傑出しています。
(上: 足立美術館入口)
しかし、近年において、そのコレクションよりも美術館の存在感を高めているのが、庭園の名声です。なにしろ、アメリカの日本庭園専門誌『Journal of Japanese Gardening』の日本の庭園ランキングの中で、「桂離宮」をはじめとする数々の歴史的名園を退け、11年連続の日本一に輝いているのですから。(もちろん、選定の基準が日本人とは異なるとは思いますが・・・・)
また、フランスの著名な旅行ガイドブック、ミシュラン発行の『ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン』でも、「三つ星」を獲得しています。
と、前置きが長くなりましたが、さすが、評判に違わず素晴らしいというのが、訪れた感想です。
入館するとすぐに眼前に開ける主庭の広大な風景
この庭園のコンセプトは、創設者・足立全康氏の「庭園もまた一幅の絵画である」という言葉に包括されます。
庭園のどこを切り取っても「絵になる」のです。全体を眺めて良し、細部を眺めて良し。
近景から遠景へと視線を移せば、「亀鶴の滝」。高さ15メートルの人工の滝ということ。
そして、文字通り「一幅の絵」を象徴するのが、「生の額縁」や「生の掛軸」と名付けられた一画。
(上: 窓枠が額縁の役割を果たす「生の額縁」の景)
美術館の庭であるが故に、この趣向は一層、効果的である気がします。
また、広い面積を占める美術館の建物も、庭園観賞のためにあるかのように、数ある展示室に移動する道すがらにも、様々な風雅な景が目に入ってきます。(下の写真)
(下: 苔、白砂、松、切石の橋といった庭園要素の配置の妙)
(下: 日本画の「朦朧体(もうろうたい)」の手法を思わせる一画)
足立美術館の庭園は、上記のように、卓越した構成美をもつ庭園ですが、特筆すべきは、その維持管理の見事さです。
前記『Japanese Garden Journal』の記事の中にも、「(足立美術館庭園の)成功の一端は、その維持管理システムによるものであり、毎日、すべての美術館スタッフがそこに関わっている」とあります。
訪れた時は、団体の特典として、一般の開館時間前の入館だったので、その評判の手入れの様子を、この目で見ることができました。
(上: 清掃や手入れをするスタッフが、あちこちに見られる開館前)
下の写真は、横山大観の名作「白砂青松」をイメージして造られたという庭園の景。
ここでも、大勢の人がそれぞれの持ち場で、隅々まで行き渡る作業をしていました。手入れを怠り、荒れてしまった名園も少なくない中、足立美術館の庭園管理には脱帽です。
ただ、落葉樹の下に落ち葉がない景色を見たり、景観を保つために、生長した松を植え替えるという話を聞くと、「庭は生き物」という私の考えからは、少々、人工的すぎる庭園美に、ちょっと疑問が湧かないわけではありません。
しかし、庭園が「一幅の絵画」であるというコンセプトに従うならば、「原状維持」に力を注ぐということが、当然なのかもしれません。
* 足立美術館庭園は、この記事の後も、2020年度版まで連続1位の記録を伸ばしています。