ある年の10月、桂離宮を訪問しました。
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桂離宮の東側外周には、「桂垣」と呼ばれる、生きた竹を編んだ生垣が続いています。
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(上: 自生するハチクを編んだ生垣)
そして、離宮へのアプローチに沿ってある垣根もまた、「桂垣」と呼ばれています。
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(上: 離宮へのアプローチに沿って続く桂垣)
その先に現れるのが、桂離宮の正門。普段は、閉ざされています。
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(上: 桂離宮正門)
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(上: 見学開始のため開けられた門)
拝観開始。案内の方に従い、庭園めぐりの始まりです。(自由行動はできません)
桂離宮の総面積は、約6万9千平方メートルということ。その中央に、複雑な汀線を持つ広大な池があり
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周囲に、風雅な書院や茶亭が配され
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池に浮かぶ大小の中島には、土橋や板橋、石橋など趣の異なる橋が架かり
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随所に据えられた燈籠、手水鉢などが点景となって、歩を進めるごとに景色が変化する、回遊式庭園のお手本のような光景が展開します。
池は舟遊びにも使われたもので、所々、岸に舟着き場が設置されています。(下の写真)
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桂離宮の歴史をひもとけば、17世紀初めに八条宮智仁(としひと)親王により、宮家の別荘として創建されたとあります。
この智仁親王にまつわるエピソードは数奇なものです。親王は、関白・豊臣秀吉の猶子(養子)となり、次の関白の地位を約束されていたにもかかわらず、秀吉に実子が誕生したことにより、関係は解消され、八条宮家を創設します。そこで造庭の才を発揮して造営されたのが、桂離宮の始まりです。
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(上: 右端の建物が、創建当初からある古書院で、中書院、新御殿と続く)
また、兄の後陽成天皇は、智仁親王に皇位を譲ろうとしましたが、秀吉の猶子であったことを理由に、徳川家康に反対されます。そして皇位は、親王の甥にあたる後水尾天皇が継承することになりますが、後水尾天皇もまた後に、徳川幕府との確執から譲位し、修学院離宮の造営に情熱を傾けることになるのです。
後水尾天皇が修学院離宮を造営にするに当たっては、この桂離宮の存在が大きかったのではないでしょうか?
解説によれば、智仁親王が手がけた桂離宮は、親王没後、一時荒廃しますが、17世紀半ば頃、二代目・智忠(としただ)親王が復興に取り組み、新たに中書院、新御殿、月波楼、松琴亭などの茶室を増築、池や庭園にも手を加え、現在見る姿に整えられたということ。
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(上: 茶室・松琴亭と、その室内のモダンな意匠として知られる市松模様の襖)
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(上: 橋の景もまた、桂離宮の美に欠かせない)
そして、さらにずっと後のこと、昭和の初めに、ドイツ人建築家のブルーノ・タウトによって、忘れ去られていたその美が再発見され、一躍、世界に桂離宮の名が広まったことは、つとに有名な話です。
庭園を巡りながら、そんな歴史的背景に思いを馳せたのでした。
時系列に沿ってご案内すれば、桂離宮の拝観は、回遊式庭園を時計回りに巡りながら進みます。
まず案内されたのが、北側にある「御幸門」。説明によれば、オリジナルは、後水尾上皇をお迎えするにあたり、智忠親王が造られたものだが、その後失われ、再建されたということ。
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(上: 御幸門。アベマキの皮付き自然木の丸太の支柱が珍しい)
次に「紅葉山」を経て「外腰掛」へ。
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庭園巡りの際は、園路の「真・行・草(しん・ぎょう・そう)」の舗装手法にも注目。下の写真は、自然石のみを散らした「草の延べ段」
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「外腰掛」の前は、下の写真のように、自然石と切石を混ぜた「行の延べ段」になっています。
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石の並べ方も美しく、見ていて飽きません。
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下の写真は、延べ段の先に据えられた「二重枡形(ますがた)」の手水鉢と石燈籠。
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園内には、この他にも数多くの手水鉢や燈籠の名品が、巧みに配され、景を引き締めています。中には、さりげなくあって、目立たないものもあるので、お見逃しなく。
外腰掛の前は、「蘇鉄山」になっています。薩摩の島津家から献上されたと伝わるもので、この一角だけ異国情緒が漂います。
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外腰掛からは、池のほとりの園路に沿って、「松琴亭」に向かいます。途中、目に入るのが、扁平な石を敷き詰めた「州浜」で、先端の燈籠を、岬の灯台に見立てて、海を演出しているとか。
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また、その背後に見える、中島を石橋でつないだ景は、「天の橋立」に見立てたと言われています。
そして、ちょっと足がすくみそうな切石の橋を渡ると「松琴亭」(下の写真)。
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松琴亭は、桂離宮でもっとも格式の高い茶室ということですが、次に現れる茶室「賞花亭」(下の写真)は、園内でもっとも高い位置にある建物だそうです。
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大きな中島の小高い所に位置し、避暑のために造られたという建物は、涼しげな造作です。
さらにその先、庭園の一番南に位置する茶室が「笑意軒(しょういけん)」(下の写真)。
何か頬がゆるみそうな名前ですね。
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(上: 笑意軒の室内)(下: 襖の引手は、舟の櫂(カイ)の形)
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この茶室の外観は、田舎家風で、窓からの眺めも田園風景です。しかし窓の下部には、金箔とビロードが貼られ、侘びと豪奢が共存している意匠になっています。(下の写真)
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そして、背後の風景は、宮内庁が、約7000平方メートル私有地を買い取り、近隣農家に委託する形で、田んぼを作ってもらい、当時の風景を維持しているのだそうです。庭園の景観を保持することの大変さを、改めて感じました。(桂離宮の総面積6万9千㎡の中には、この田地面積も含まれています)
笑意軒を過ぎれば、そろそろ拝観の順路の終わり。
池をぐるりと巡って、拝観の終盤は、桂離宮のハイライト、書院群です。古書院、中書院、楽器の間、新御殿によって構成され、「御殿」と総称されるこの建物の最大の特徴は、「雁行形」と呼ばれる建物配置。
雁の群れが隊列を組んで空を飛ぶ様から名付けられたというこの建築は、日本建築史上最も美しいとも評価されています。(下の写真)
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「古書院」は、八条宮家初代・智仁親王によって造営され、続く「中書院」「楽器の間」「新御殿」は、二代・智忠親王によって増築されたのですが、全体の調和が実に見事。
内部もまた、有名な「桂棚」の意匠など見事なはずですが、拝観ができないのが残念。
古書院は池に面し、建物前に「月見台」と呼ばれる竹製の濡れ縁が設置されています。(下の写真
=台上には上れないので、撮影位置が悪く、風雅さが感じられませんが・・・)
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この離宮には、月を眺めるための仕掛けが、随所に施され、「月の桂」と言われた所以を納得します。
書院の玄関「御輿寄(おこしよせ)」へは、中門から切石を敷き詰めた「真の延べ段」が続き、格式の高さが窺われます。
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また、その先、石段上の沓脱石(くつぬぎいし)は一枚石で、6人の沓を並べられることから、「六つの沓脱」と言われているそうです。
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(上: 御輿寄と延べ段、一枚岩の沓脱石)
古書院の隣にある「月波楼」は、その名の通り、月を眺めるのにふさわしい茶亭。
開放的で、部屋が池に張り出すようにあります。
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化粧屋根裏の垂木(たるき)が、舟の底のように組んであり、額にも薄くはなっていますが、舟の絵が描かれています。茶室を月見の舟に見立てたのでしょうか。
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拝観は、この月波楼で終わり。
中門をくぐって外に出れば、風流の世界から現実へと引き戻されるのでした。
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拝観時間は、約1時間。かなりの面積があり、見所が満載の桂離宮では、あっという間。欲を言えば、この倍くらいの時間がほしいところです。また、立ち止まって解説が入る場所も、限られているので、知らないうちに通り過ぎてしまうポイントも・・・。出来れば、予め、見どころなどの知識を仕入れてから見学することをお薦めします。
* 桂離宮の拝観には、予約が必要です。その他、注意事項もいろいろありますので、公式HPなどで、ご確 認ください。