日本庭園こぼれ話

日本の歴史的庭園、街道、町並み。思いつくままに
Random Talks about Japanese Gardens

貫井神社~美術の森・・・「はけ」の道散策(2)

2016-11-26 | 名水

前記の「滄浪泉園」を出て、坂下から続く小道を国分寺方面に、5分ほど歩くと「貫井(ぬくい)神社」です。

こんもりとした樹林に包まれた社殿の脇の崖下、岩の足下から清水が湧き出ています。

そして滄浪泉園と同様、その湧水が小流れとなり

 

 

 

 

 

 

 

池に注ぎ込んでいます。

一説には、「小金井」の地名は、この湧水「黄金井」から起こったとも言われます。

(上: 池の中につくられた亀島)

貫井神社参拝の後、その先をさらに進めば、隣の国分寺駅前には、これまた「はけ」の地形と湧水を活かした名勝庭園「殿ヶ谷戸庭園」がありますが、ここは以前ご紹介したので、今回は再び、今来た道を引き返し、「滄浪泉園」から30分ほどのところにある「はけの森美術館」と「美術の森」を訪ねることに・・・。途中からは「はけの道」の道標が目印となります。

「はけの森美術館」は、洋画家・中村研一の屋敷跡に建てられた美術館で、平成元年に「中村研一記念美術館」としてオープンしました。その後平成16年に小金井市に寄贈され、平成18年、新たに「はけの森美術館」として開館されたものです。

(上: はけの森美術館)

中村研一は、戦災で東京・代々木のアトリエを焼失した後、昭和20年にこの地に移り住み、亡くなるまでここで制作を続けたということ。

そして中村研一邸の庭だった美術館裏の緑地が、現在「美術の森」として、無料公開されています。

美術館の隣に入口があり、

その先には緑地が広がっています。

以前は、旧中村邸(下の写真)を利用したカフェがあったのですが、今年の3月から営業を休止しているとのこと。

そのせいか、住居や隣接の茶室周辺など、手入れが行き届いていない感があるのが残念。

しかし、この緑地のメインスポットは、やはり湧水です。

「東京の名湧水57選」というのがありますが、小金井市からは3ヶ所、「滄浪泉園」と「貫井神社」そしてこの「美術の森」の湧水が選出されています。

そして「美術の森」の向かいには、「はけの小路」と名付けられた遊歩道があります。

この小路沿いに流れる水路は、「美術の森」の湧水を水源としたもの。

近くを流れる野川に注ぐまでの、ほんの短い距離ですが、清らかなせせらぎが、風情を醸し出しています。

前にも書きましたが、この地は大岡昇平の小説『武蔵野夫人』の舞台としても知られているところ。特に今回ご紹介した「貫井神社」「はけの小路」「美術の森」は、その中でも主要な場面として有名です。

私はこの小説を読んだことはないのですが、抜粋された部分を読むだけでも、眼前に広がる情景と小説の描写がオーバーラップします。

 

※ 「美術の森」アクセス=武蔵小金井駅南口から徒歩15分。または循環バス「CoCoバス」他、バス便もあります。

詳しくは「はけの森美術館」の公式HPなどをご参照ください。

※ 「殿ヶ谷戸庭園」は、本ブログの2011年7月6日付けでご紹介しました。   

 

 

   


滄浪泉園・・・「はけ」の道散策(1)

2016-11-13 | 日本庭園

東京都小金井市には、高低差15~20mの段丘崖(国分寺崖線)が東西に走っています。古代多摩川の浸食によって形成されたという、この段丘崖の下部の砂礫層からは、昔から、清らかな地下水が豊富に湧き出し、土地の人は、この地形を「はけ」と呼んでいます。

大岡昇平の小説『武蔵野夫人』の舞台にもなった、この地には、こうした地形と湧き水を活かした庭園や公園、神社が点在しています。

最初に訪れたのは「滄浪泉園(そうろうせんえん)」。JR中央線・武蔵小金井駅の南口を出て、徒歩10分ほど。深い木立に囲まれた一画に正門があります。

滄浪泉園は、案内によれば、明治・大正期に三井銀行などの役員、外交官、衆議院議員などを歴任した波多野承五郎により、別荘として利用されてきたということ。その名の由来は、元首相・犬養毅(雅号・木堂)が、大正8年、ここに遊んだ際に「手足を洗い、口をそそぎ、俗塵に汚れた心を洗い清める泉」のある場所として命名したそうです。入口に立つ門標「滄浪泉園」の文字は、木堂自らの筆によるものとか。

門をくぐったところから、モミジなどの木立のトンネルの下を、幅広の石畳の道が下り坂に、訪れた人々を緑濃い林へと導いていきます。

園の一隅には、水琴窟。

湧水を受けた木の葉の先から、したたり落ちる水滴が、静けさの中、水琴窟の仕掛けによって、密やかな金属質の音を奏でます。

この後、園路は石段となり、さらに下に続いて行きます。

木々の間から下を見ると、周囲の樹木を映した鏡のような水面が・・・

園内は、古い武蔵野の面影を残し、深い緑の中には、都会では絶滅危惧種となった貴重な植物も、数多く見られるとか。

そして緑と水を求めて群れ集まる鳥も多く、ここは野鳥の楽園でもあります。

訪れたのは開園まもない時間、まだ他に人影はなく、文字通りの静寂郷。

その中を、「はけ」の清水が、コンコンと湧き出し・・・流れをつくり・・・

池に注ぎこみ・・・

そして、最後は滝になって落ちて行きました。

池のほとりには「おだんご地蔵」という名の地蔵尊が。今から266年前に念仏供養のために祀られたというお地蔵さま。名前の由来は何でしょう?

 

 

 

 

 

 

 

そしてもう一体。こちらは「鼻欠け地蔵尊」(信仰のため何度も触られ。目や鼻が欠け落ちてしまったらしいとか)という、ユーモラスな異名をもつ、市内最古の石仏。

樹齢100年以上といわれるツバキの根元に安置され、眠ったような時の流れを見つめています。

市街地の中にあるとは信じられない自然の残る滄浪泉園。当初は3万3千平方メートル余りあったという庭園ですが、次々に宅地化の波に洗われ、3分の1程度の約1万2千平方メートルとなり、一時期、マンション建設計画によって、存続が危ぶまれたこともあったとか。

しかし、市民の熱心な保存運動が実り、昭和52年に東京都の買収により、緑地保全地区に指定。その後、小金井市が整備、管理を行い、今日に至っているそうです。

 

入園料=15歳以上100円 6歳以上15歳未満および60歳以上=50円

 開園時間=午前9時~午後5時(入園は午後4時まで)

 休園日=毎週火曜日および年末年始(12月26日~1月4日)

その他、詳しくは公式HPなどをご参照ください。

なお、紅葉の見頃は11月下旬から12月初旬とのこと。また、余談ですが、夏期は園内に蚊が非常に多いそうなので、その時期には、対策を講じてお出かけになることをお勧めします。