日本庭園こぼれ話

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Random Talks about Japanese Gardens

日本庭園の中の「借景」

2017-08-05 | 日本庭園

「借景」とは、文字通り「景を借りる」こと。庭園の外にある山や樹林などの風景を、庭園内の風景として取り込むことにより、庭園の内と外の景色が一体化し、庭園の景に、大きな広がりを持たせることができるという造園手法です。

(上: 京都・天龍寺庭園)

下の写真は「養翠園」(和歌山市)。広々とした池泉回遊式庭園です。中国の西湖堤を縮景したという石橋が、湖面の景を引き締め、背後にある章魚頭姿山(たこずしやま)という、名前通りにタコに似た山が借景として、特徴的な景観を造っています。

 湾を隔てて聳える桜島の勇姿が、丸ごと借景となり、雄大な庭園風景が眼前に迫るのは、下の写真の「仙厳園」(鹿児島市)

下の「栗林公園」(高松市)の借景となっているのは紫雲山。借景というより、庭園の一部のような配置です。

借景として組み込まれるのは、主として、山が多いのですが、下の写真の「揚亀園」(弘前市)では、庭園の植栽の背後に、弘前城の老松の景が連続し、奥行きのある景観を創出しています。

また、「依水園」(奈良市)では、池の対岸に、こんもりとした築山、その向こうに、東大寺南大門の瓦屋根と参道の並木、さらにその先には若草山、春日山などのなだらかな稜線の連なりと、視線がリズミカルに導かれ、借景が実に効果的に取り入れられているのを実感します。

下の写真は、京都御苑内の一画にある「拾翠亭」からの眺め。縁高欄(えんこうらん)」と呼ばれる手摺りを巡らせた広縁の前に池が広がり、借景として、眺めの中景に、御所へのアプローチとなる石橋。その背後には鬱蒼をした森があります。これはこれとして、素晴らしい借景なのですが、樹木が茂る以前は、その先にある東山が借景となっていたそうで、その姿も眺めてみたかったと思います。

借景は、庭園外にある風景なので、時代の変遷とともに、その眺望を維持できないことも、しばしばあります。下の写真は、小石川後楽園。この庭園は借景庭園ではありませんが、このように、庭園の近くに大きな建物ができて、借景が隠された庭園は、近年、数が多くなっています。

桂離宮庭園では、宮内庁が私有地を買い取り、初期の庭園風景を維持している場所もあるとのことです。それはなかなか難しいこととは知りつつも、借景庭園の美が、出来るだけ保存されることを願うばかりです。

(上: 群馬県・楽山園=造庭中の写真です)

日本庭園は、中国大陸から朝鮮半島を経由して日本にもたらされたのが始まりですが、韓国人の著作の中で、日本の造園手法について、「日本人は山や海を狭い庭の中に引き込もうとしてきた」と、借景について書かれた一文を読んだことがあります。韓国では、そういうことはないそうで、ルーツは同じでも、風土や美意識、国民性の違いによって、庭園構成の手法が、大きく異なってきたのを感じます。

(上: 東山を借景に、風雅な景が展開する会津若松市の「御薬園」)

 

 

 


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