子どもの頃、近所にある樹齢1、000年というご神木を見て育ったせいか、今でも巨樹を見るのが大好きです。
山奥や深い森にある巨木は、もちろん魅力的ですが、私が、より親しみを感じるのは、人里にあり、人間の歴史を見つめてきた樹木です。
今回の「逆さ銀杏」は、東京・麻布の善福寺の境内に聳えています。
麻布十番界隈は、江戸時代から栄えていた街でしたが、昭和47年に都電が廃止されてからは、交通の便が悪くなり、地下鉄南北線や大江戸線が開通し、麻布十番駅が誕生するまでの約30年間は、都心にありながら「陸の孤島」とも呼ばれる、時代に取り残された街だったとか。
しかしそれ故に、街は独自に個性的な商店街を発展させ、江戸や明治時代創業の老舗と、お洒落な店が混在して軒を連ねる麻布十番商店街は、今、世代を超えて、人々を惹きつけているそうです。
上の写真は、商店街のポケットパークの一画に立つ「きみちゃん像」。野口雨情の童謡「赤い靴」のモデルになった少女の悲話を伝えています。
商店街を抜けたところにあるのが善福寺。都内では、浅草寺に次ぐ最古の寺院という名刹です。ここには幕末から明治8年(1875)まで、アメリカ公使館が置かれ、タウンゼント・ハリス初代アメリカ公使らが居住したそうです。山門前のハリス駐在記念碑が、維新史の一端を物語っています。
その境内に大きく枝を広げるイチョウは、樹齢750年、幹回りが10.4メートル。都内最大のイチョウの木ということで、国の天然記念物に指定されています。昭和20年の空襲で焼けて、高さが3分の1ほどになったそうですが、今も健在。何本もの気根が垂れ下がった幹には、風格が感じられます。
親鸞上人が地面に挿した杖が根付いたという言い伝えにより、「杖銀杏」の名があり、また、ツララ状の枝(気根)が何本も垂れ下がっていて、根が上の方にあるように見えることから「逆さ銀杏」とも呼ばれ、麻布七不思議の1つに数えられています。