世の中には「ありそうだけどないもの」と「どう考えてもないもの」があります。「読んで面白い取扱説明書(ユーザーズ・マニュアル)」は間違いなく後者でしょう。なぜ取扱説明書(以下トリセツ)は面白くないのでしょう。
まず考えられるのは、面白くする必要がないということです。新しいコンピュータやスマートフォンを買ったときにトリセツを読むのは、使い方を知るためです。必要な情報さえ入手できればあとは要りません。とは言っても、この先またわからないことが出てきたときに手元にないと困るから、まあ捨てずに置いておくか、といったところです。
次に考えられるのは、「面白い」ということと「正確に情報を伝える」ということが両立しにくいからです。読み手に必要な情報を正確に伝えるためには、論理的で簡潔な文章でなければなりません。論旨があいまいで冗長な文章で綴られトリセツでは、本来の役目を果たすことができません。こうなると「読んで面白いトリセツ」とは形容矛盾(互いに矛盾している複数の表現を含むこと)であるとさえ言えそうです。
ところで、私はトリセツが必要になったので探してみたけれど見つからない、といった経験を数多く持っています。当面使わないからどこかにしまったはずだが、さてどこにしまったのか、いっこうに思い出せない。捨てたかな?いや絶対捨てていない。じゃあ、どこにあるんだ?
これでは「困ったときに役に立つ」というトリセツの存在意義が失われてしまいます。もちろん、ネットを探せばほとんどのユーザーズ・マニュアルは入手できます。どこかへやってしまった自分がいけないことも、重々承知しています。それでも新製品を手に入れたときに同梱されていた、あのトリセツをなくしてしまったことが残念でなりません。
こうした悲劇を避けるためには「読んで面白いトリセツ」を作るしかありません。実際、面白い読み物はそう簡単になくなったりはしません。なにより、面白ければ読み返すこともあるでしょう。ひょっとすると愛読書になるかもしれません。自宅の本棚にいろいろな電気製品や自動車、家具などのトリセツがずらりと並んでいる様子を思い浮かべてみました。暇なときはそこから1冊のトリセツを手に取ってページをめくってみます。そこに書いてある内容は・・・
残念ながら私の妄想もここで止まってしまいました。面白いトリセツは、どう考えても世の中にないもののひとつのようです。
大手メーカーで取扱説明書を担当されている方々に無理を承知でお願いいたします。ぜひ「読んで面白いトリセツ」に挑戦してください。