漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「両リョウ」 <二頭立てのくびき> と 「倆リョウ」「輛リョウ」「裲リョウ」「魎リョウ」

2023年12月11日 | 漢字の音符
  増補しました。
[兩] リョウ・ふたつ 一部

 ②
①二つの軛(くびき)がついた車。 ②くびき上部の図解。
解字 くびきは馬の首(くび)にはめて車を引かせる道具。金文は車のくびき(軛)の全体を模した形。丅字形の左右に軛(くびき)を表す𠆢𠆢を描き、丅の左右両端は下に曲げている。上につく短線は図②の中央上部の「でっぱり」である車元(これで一字)を表現したものか。篆文は真ん中の線が上の横線とつながり、旧字は軛(くびき)のかたちが「入入」になった兩になり。新字体は兩⇒両になった。二頭の馬が入るので、ふたつ(両つ)。馬車がひく車の意味などを表す。
意味 (1)ふたつ(両つ)。二つで一組になっているもの。対のもの。「両面リョウメン」「両親リョウシン」「両端リョウタン」 (2)くるま。また、車を数える語。「車両シャリョウ」(車も両も、くるまの意) (3)[国]江戸時代の貨幣の単位。一両は金貨で四分。「千両箱センリョウばこ

イメージ 
 「二頭立てのくびき」
(両・輛) 
 「二つで一組」(倆・裲) 
 「形声字」(魎)
音の変化  リョウ:両・倆・輛・裲・魎

二頭立てのくびき
輛[輌] リョウ・くるま  車部
解字 「車(くるま)+兩(二頭立てのくびき)」 の会意形声。二頭立てのくびきがついた車。二頭立ての馬車(輛)を表す。また、馬車に限らず車をいう。現在は「両」が書きかえ字となっている。
意味 くるま(輛)。また、車を数える語。「車輌シャリョウ」(=車両)「三輌サンリョウ」(3台の車)

二つで一組 
 リョウ  イ部
解字 「イ(ひと)+兩(二つで一組)」 の会意形声。二人一組になる人。
意味 (1)ふたり。密接な関係にある二人。「父子倆フシリョウ」(親子二人) (2)「技倆ギリョウ」に使われる字。倆リョウは量リョウ(能力の大きさ)に通じ、技倆とは、うでまえ・手なみの意(=技量)。
 リョウ  衤部
解字 「衤(ころも)+兩(二つで一組)」 の会意形声。衣の胸部と背部に当てて着用する衣服。「裲襠リョウトウ」に用いられる字。

舞楽装束の裲襠リョウトウ(「雅楽研究所・研楽庵」より)
意味 「裲襠リョウトウ」とは、[令義解]に「謂、一片当背、一片当胸、故に裲襠と曰(い)う也」とあり、古来、儀式の時に武官が礼服の上に着用した貫頭衣型の衣服。中央にある穴に頭・首を通す形となり、胸部と背部に当(當)てて着用し、上から帯を締める。類似した衣装を舞楽でも使用し、舞楽装束の一つも指す。舞楽装束で着る裲襠は舞の種類で大別でき、1つは剣や盾、武器類を持って舞う「武の舞」で着る金襴縁、軽快なリズムで走るように舞う「走り舞(走り物)」で着る毛縁の2つが代表的。(ウィキペディア「裲襠」を要約させていただいた)

形声字 
 リョウ  鬼部

解字 篆文をまとめた[説文解字]に魎リョウはない。虫編の蜽リョウが収録されており、蝄モウと連結した「蝄蜽モウリョウ」で、「山川の精物なり」と記されている。蜽リョウは「虫(むし)+兩(リョウ)」 の形声。リョウは霊リョウ・レイ(たましい)に通じ、死者のたましいが虫となって山川をめぐること。のち、虫⇒鬼に変化した魎リョウになった。鬼には死者の魂の意がある。
意味 魍魎モウリョウに使われる字。魍魎とは、山川の精や木石の精をいう。「魑魅魍魎チミモウリョウ」(山や川の怪物。さまざまのばけもの)
<紫色は常用漢字>

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音符 「扁ヘン」 <片開きの編戸> 「遍ヘン」 「偏ヘン」 「編ヘン」「篇ヘン」「蝙ヘン」「翩ヘン」

2023年12月09日 | 漢字の音符
  増補しました。
 ヘン  戸部           

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 上が扁、下が冊
解字 扁は「戸(片開きの戸)+冊(木や竹をつないだ形)」の会意。片開きの戸(ドア)を竹や木のへぎを組んで作った編戸の形に作る。編戸であるから、扁平(ひらたい)の意になる。片開きの戸であるから門扉(とびら)の両開きに対し、一方に「かたよる」イメージを持つ。
 下図の冊には2系統ある。ひとつは甲骨・金文の第一字で、竹簡や木簡を糸でつないだ形。二つめは甲骨・金文の第二字で防禦用や牧場のさくで「柵」の原字にあたる[甲骨文字小字典]。両者は篆文以降、同じ形になった。現代字の冊は、糸でつないだ竹簡や木簡、および、つなぐ前の竹や木のふだの意味で使われる。冊を音符に含む字は、「木や竹を並べてつなぐ」イメージがある。
 したがって扁は、片開きの戸を竹や木のへぎを組んで作った編戸の形である。下の写真は、木枠に竹の網代をはめ込んだ網代戸(あじろど)で、扁の初期のかたちを残している。

参考写真 網代戸(あじろど)(「京町家改修用語集・網代とは」より)
意味 (1)ひらたい。「扁舟ヘンシュウ」(舟底の平らな小舟)「扁平足ヘンペイソク」「扁桃ヘントウ」(アーモンドの別称。核がやや平たい)「扁桃腺ヘントウセン」(のど奥の左右にある扁桃形のふくらみ。「扁桃」ともいう) (2)よこがく(横額)。文字や画を描いて門戸の上や堂にかかげるもの。「扁額ヘンガク」 (3)へん。漢字の左辺の部分(=偏)。

イメージ 
 「うすく平ら」(扁・蝙・翩・諞・騙・遍)
  片開きの戸から「一方にかたよる」(偏)
  「形声字」(編・篇)
音の変化  ヘン:扁・翩・諞・騙・蝙・遍・偏・編・篇

うすく平ら
 ヘン  虫部
解字 「虫(動物)+扁(うすく平ら)」の会意形声。うすく平らな羽をもつコウモリ。
意味 蝙蝠ヘンプクに使われる字。蝙蝠ヘンプクとは、蝙は、うすい羽をもつ虫、蝠は、ふくらんだ胴の虫で、うすい羽とふくらんだ胴をもつコウモリを表す。コウモリは、コウモリ目の哺乳類の総称。前肢がうすい翼に変形し哺乳類で一番よく飛ぶ動物。「蝙蝠こうもり」「蝙蝠傘こうもりがさ」(西洋風の傘。開いた形がコウモリに似ているから)
 ヘン・ひるがえる  羽部
解字 「羽(はね)+扁(うすく平ら)」の会意形声。うすくたいらな羽がひらひらとひるがえること。
意味 ひるがえる(翩る)。「翩翩ヘンペン」(身軽に飛ぶさま)「翩翻ヘンボン」(旗などが風にひるがえるさま。翩も翻も、ひるがえる意)
 ヘン・へつらう  言部
解字 「言(ことば)+扁(うすっぺらい)」の会意形声。うすっぺらい内容のない言葉を言うこと。
意味 へつらう(諞う)。ことば巧みに言う。「諞言ヘンゲン」(巧みに言う)
 ヘン・だます・かたる  馬部
解字 「馬(うま)+扁(=翩。ひるがえる)」の会意形声。ひるがえるように身軽く馬に乗ること。また、俗語で、諞ヘン(ことば巧みに言う)に通じ、だます意ともなる。
意味 (1)とびのる。身軽く馬にのる。馬の曲乗り。「騙馬ヘンバ」(馬の曲乗り) (2)だます(騙す)。かたる(騙る)。「騙取ヘンシュ」(だましとる)「騙詐ヘンサ」(だましいつわる)「騙子ヘンシ」(詐欺師)
 ヘン・あまねく  之部
解字 「辶(ゆく)+扁(平らにひろがる)」の会意形声。平らにまんべんなく行きわたる。
意味 (1)あまねく(遍く)。すみずみまで行きわたる。「遍在ヘンザイ」(行きわたってある)「遍歴ヘンレキ」(各地を巡り歩く)「遍路ヘンロ」(四国八十八箇所霊場などを巡拝すること) (2)回数を数える語。「一遍イッペン

一方にかたよる
 ヘン・かたよる  イ部
解字 「イ(人)+扁(一方にかたよる)」の会意形声。人がかたよった位置にいること。中心からそれて片すみに寄る意。
意味 (1)かたよる(偏る)。一方に片寄る。「偏在ヘンザイ」「偏差値ヘンサチ」 (2)中正でない。「偏見ヘンケン」「偏向ヘンコウ」「偏屈ヘンクツ」(性格がかたよりねじける) (3)漢字の左側の部分。「人偏ニンベン」「偏(ヘン)と旁(つくり)」 (4)[副詞]ひとえに(偏に)。

形声字
 ヘン・あむ  糸部    
解字 「糸(いと)+扁(ヘン)」の形声。[説文解字]は「簡を次する也(なり)。糸に従い扁(ヘン)の聲(声)」とし、竹簡を次する(ならべ)て糸でとじて綴ることを編ヘンという。正確に言うと、竹簡を並べるのは冊であるが、扁にも竹片をならべた側面が見えるので、これに糸をつけて編む意とした。編の意味は、さらに書物の編集、編み物、編み笠などの意にまで拡がった。
意味 (1)あむ(編む)。文を集めて書物を作る。順序だてて並べる。「編集ヘンシュウ」「編成ヘンセイ」(順序だてて並べてまとめる) (2)あむ(編む)。糸・竹など細長いものを互いちがいに組む。「編物あみもの」「編笠あみがさ」 (3)ふみ。書物。「短編タンペン」(=短篇)「前編ゼンペン」(=前篇)
 ヘン  竹部
解字 「竹(たけ)+扁(ヘン=編。あむ)」の形声。うすく平らな竹(竹簡)をならべて編んだもの。
意味 (1)ふみ。ひと綴りになった書物。「長篇チョウヘン」「短篇タンペン」 (2)詩文を数える語。「詩文三百篇」 (3)書物の部わけ。「前篇ゼンペン」「後篇コウヘン」「篇次ヘンジ」(部わけの順序)
※ 編と篇のちがい。両方の字とも竹簡を綴じたもので意味は同じ。しかし、編は常用漢字なので通常は編が使われる。篇はひと綴り(長篇・短篇)や、シリーズ物(前篇・中篇・後篇)をあらわすときに慣用的に使われることが多い。
<紫色は常用漢字>

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音符 「卒ソツ」<衣に印をつけた人の集団> と 「砕サイ」 「粋スイ」 「酔スイ」「膵スイ」「翠スイ」「枠わく」

2023年12月07日 | 漢字の音符
 増補改訂しました。 
 ソツ・シュツ・おわる・にわかに・ついに  十部             

解字 甲骨文第1字は衣と筆の形から成り、衣服に筆で印をつけることを表す。第2字は筆に又(て)を加え、手で筆をもつ形の異体字。甲骨文では祭祀名の用例しかないため、それ以外の意味は不明[甲骨文字辞典]。春秋戦国時代(古文)になると、筆の形が衣の下部に斜め線をつけた形に簡略化された。篆文は上部が亠に変化し、現代字で卒になった。卒の字の下部の一以外は衣が変化した形である。
 私はこれまで[字統]の「死者の衣の襟を重ねて結びとめた形」説を引用し、この字の原義は人が亡くなる意として解字していたが、甲骨文字が筆で印をつけた形と判明したことで、解釈を変えざるをえない。後漢の許慎が[説文解字]で述べている「卒衣とは題識(識別するための印)有る者なり」が正しかったことになる。印の入ったユニホームを着た歩兵などを表し、集団で数が多い下層の人々を表すようである。
 なお、「おわる」の意味については、「歹(死ぬ)+卒(ソツ)」の「歹卒」(これで一字。発音はソツ)という字があり、ソツの発音で死ぬ・おわる・つきる意なので、この字に由来する。また「にわか」の意味は「犭(いぬ)+卒(ソツ)」の猝ソツという字があり、犬が急な動きをする「にわか」の意味があることから、この字に由来する。なお、卒の俗字に「卆」があり、卒を含む新字体では、卒⇒卆に変化する。
意味 (1)雑兵。歩兵。人夫。小者。しもべ。下級役人。「兵卒ヘイソツ」(軍隊で最下位の階級)「従卒ジュウソツ」(将校の世話をする兵)「獄卒ゴクソツ」(獄の下級役人)「隷卒レイソツ」(役所にあって特定の賤役に従事する者) (2)おおい。多くの人。あつまり。「卒伍ソツゴ」(周代の兵隊の編成単位。卒は百人一組、伍は五人一組) (3)おわる(卒わる)。おえる(卒える)。つくす。つきる。「卒業ソツギョウ」「卒章ソツショウ」(詞や文の最後の章) (4)しぬ。大夫の死をいう。「卒去ソッキョ」「卒年ソツネン」(①死んだときの年齢。②年の終わり) (5)にわか(卒か)。急に。「卒倒ソットウ」「卒然ソツゼン」「卒爾ソツジ」(にわかなさま) (6)ついに。 (7)ことごとく。

イメージ  
 兵卒などの「下級階層の集団」(卒・倅)
 下級兵卒はユニフォームを着て「そろう」(粋・萃・膵)
 意味(3)の「おわる・つきる」(酔・悴・瘁)
 意味(4)の「にわか」(猝・焠・淬・啐)
 「形声字」(翠・枠)
音の変化  ソツ:卒・猝  スイ:酔・悴・粋・萃・膵・淬・翠  サイ:砕・倅・焠・淬・啐  わく:枠

下級階層の集団・小者
 サイ・ソツ・せがれ  イ部
解字 「イ(人)+卒(小者)」の会意形声。卒は小者(集団で数が多い下層の人々)の意。これにイ(人)をつけた倅は、人に付き添う小者の意。いつもそばに付き添うので、「そえ・そえる」「副フク・つきそう」の意味になる。[説文解字]は「副也。人に従い卒ソツの聲(声)」とする。日本では「せがれ(息子)」の意味で用いる。
意味 (1)そう。そえる。副としてそなえる。「倅車サイシャ」(そえぐるま。予備の車)「倅馬サイバ」(そえ馬。予備の馬)「倅弐サイジ」(副官)「遊倅ユウソツ」(未だ仕官していない者) (2)[日本]せがれ(倅)。息子。

そろう
[粹] スイ・いき  米部
解字 旧字は粹で「米(こめ)+卒(そろう)」の会意形声。米がそろっていてまじりけがないこと。新字体は、粹⇒粋に変化。
意味 (1)まじりけがない。「純粋ジュンスイ」 (2)もっとも優れている。質がよい。「抜粋バッスイ」 (3)[国]いき(粋)。すい。あかぬけしている。「粋人スイジン
 スイ・あつまる  艸部
解字 「艸(くさ)+卒(そろう)」 の会意形声。草がそろう意でくさむらのこと。転じてあつまる意となる。
意味 (1)くさむら。 (2)あつまる(萃まる)。あつめる。「萃美スイビ」(よい物をあつめる)「萃然スイゼン」(あつまるさま)「萃聚スイシュウ」(萃も聚も、あつめる意)
<国字> スイ  月部にくづき
解字 「月(からだ)+萃(あつまる)」の会意形声で国字。消化酵素を十二指腸内へ分泌する外分泌腺とランゲルハンス島とよばれる内分泌腺を含む細胞群があつまる身体の器官。江戸時代後期の蘭方医である宇田川 玄真が造字し『医範堤綱』で使用した。中国でもこの字を用いている。
意味 すいぞう(膵臓)。胃の後ろにあって膵液とホルモンを分泌する臓器。消化と代謝に関与する。「膵臓癌スイゾウガン」「膵島スイトウ」(膵臓の中にあるインスリンを作る細胞の塊。膵臓の中には約100万個の膵島がある。ランゲルハンス島)

おわる・つきる
[醉] スイ・よう  酉部
解字 旧字は醉で「酉(さけ)+卒(つきる)」の会意形声。酒がおわるまでまで飲むこと。[説文解字]は「卒(つき)る也(なり)。其の度量(酒を入れた容器の量)が卒(つき)る。亂(みだれ)る於(に)至(いたら)不(ず)也(なり)」として、容器の酒が尽きるまで飲むが、乱れる状態にならない程度とする。新字体は醉⇒酔に変化。
意味 (1)よう(酔う)。酒に酔う。「小酔ショウスイ」(ほろよい)「泥酔デイスイ」「酔狂スイキョウ」(酔って常軌を逸する) (2)うっとりする。「心酔シンスイ」「陶酔トウスイ
 スイ・やつれる  忄部
解字 「忄(心)+卒(おわる)」の会意形声。死に近い人の状態をいい、すべてものの衰えたさまをいう。
意味 (1)やつれる(悴れる)。やせおとろえる。「憔悴ショウスイ」(憔も悴も、やつれる意)「悴容スイヨウ」(やつれたさま) (2)[和訓]しぼむ。かじかむ。 
 スイ・つかれる  疒部
解字 「疒(やまい)+卒(=悴。やせおとろえる)」 の会意形声。病でやせおとろえること。
意味 つかれる(瘁れる)。やむ。やつれる。「憔瘁ショウスイ」(やつれおとろえる=憔悴)「殄瘁テンスイ」(つかれきる)「尽瘁ジンスイ」(心を尽くして、つかれきる)「瘁瘁スイスイ」(やつれはてる)

にわか
 ソツ・ソチ・にわか  犭部
解字 「犭(いぬ)+卒(ソツ)」の形声。犬が急な動きをすることを猝ソツという。[説文解字]は「犬、艸(草)より暴(あば)れ出て人を逐(お)う也(なり)」とする。卒ソツに「にわか」の意味があるのは、同音の猝ソツによる。
意味 にわか(猝か)。思いがけぬことが急におこるさま。だしぬけに。「倉猝ソウソツ」(あわただしいさま。突然)「猝然ソツゼン」「猝嗟ソッサ」(にわかに嘆き声をだす)
 サイ・にらぐ・やく  火部
解字 「火(ひ)+卒(にわか)」 の会意形声。刀などの材料にする鉄を熱した火ににわかにいれること。こうして焼いた鉄を取り出してたたき、強い鉄をつくる。
意味 にらぐ(焠らぐ)。やく。「焠掌サイショウ」(手のひらをやく。眠気をさますため手のひらをやいて勉強する。努力することの例え)「焠刀サイトウ」(刀をにらぐ)
 サイ・にらぐ  氵部
解字 「氵(みず)+卒(にわか)」 の会意形声。刀をきたえる最終段階で、焼き入れした刀をにわかに水にいれること。にらぐ。きたえる意。また、転じて、はげむ意。
意味 (1)にらぐ(淬ぐ)。きたえる。「淬礪サイレイ」(淬はきたえる、礪はとぐ意。刃物をきたえ、とぐこと。転じて自分の修養につとめる) (2)はげむ。「淬励サイレイ」(淬も励も、はげむ意)「淬勉サイベン」(はげみ、つとめる)
 サイ・ソツ・よぶ  口部
解字 「口(くち)+卒(にわか)」 の会意形声。鳥などが口からにわかに出す音。鳥のなきごえ、よぶ意となる。また、サイの発音で、少しのむ・なめる意となる。
意味 (1)なきごえ。よぶ。「啐啄同時ソツタクドウジ」(啐はひなが孵化のとき殻の中で鳴く声、啄は母鳥が外から殻をつつくこと。逸することのできない好機をいう) (2)のむ。なめる。「啐酒サイシュ」(酒をなめる。少しのむ)「啐嘗サイショウ」(啐も嘗も、なめる意。味見すること) 

形声字
[碎] サイ・くだく・くだける  石部
解字 旧字は碎で 「石(いし)+卒(サイ)」 の形声。[説文解字]は「(磨の異体字。石臼でひく)也(なり)。石に従い卒サイの聲(声)」とし、石うすでひいて(䃺)、物を細かくすることをいう。新字体は、碎⇒砕に変化。
意味 くだく(砕く)。くだける(砕ける)。「砕米サイマイ」(細かく砕けた米粒)「粉砕フンサイ」(粉々にする)「玉砕ギョクサイ」(玉のごとく砕け死ぬ)
 スイ・かわせみ  羽部

翡翠かわせみ(「暦生活」翡翠より)
解字 「羽(はね)+卒(スイ)」 の形声。スイという名の青緑色の羽をもつ鳥をいう。[説文解字]は「青い羽の雀(小鳥)也(なり)。羽に従い卒(スイ)の聲(声)」とする。転じて青緑の色、青緑色の宝石をいう。
意味 (1)かわせみ(翠)。水辺に生息する小鳥。背の羽が青色、腹部の毛が緋色(濃い赤)なので、翡翠(かわせみ)とも書く。 (2)みどり(翠)。「翠雨スイウ」(青葉に降る雨)「翠草スイソウ」「翠雲スイウン」(碧ヘキ雲)(3)青緑色の玉。「翠玉スイギョク」「翡翠ヒスイ」(青緑色の玉。宝石の翡翠は赤い色は含まれていない)
故宮博物院の翠玉白菜(「ウィキペディア・翠玉白菜」を参照)
<国字> わく  木部
解字 「木(き)+卆(ワク)」 の形声。ワクはワクワクに通じる。この二字は糸をまきつける道具で、わく・かせ、の意がある。木偏をつけた「枠わく」は、木製の糸わくを表す国字。転じて、木枠・窓枠などの意味になる。

糸枠(「麻絲の縁 道具・材料」より)
意味 (1)わく(枠)。①糸をまきつける具。「糸枠いとわく」②木や竹・金属などの細い材で器具の縁としたもの。「木枠きわく」「窓枠まどわく」③輪郭の線。「枠でかこむ」 (2)かこい。制約。「枠組み」(物事の仕組み)「予算の枠」(予算の制約)
<紫色は常用漢字>

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音符「単タン」<二又の武器> と「簞タン」「憚タン」「弾ダン」「戦セン」「獣ジュウ」「嬋セン」「蟬セン」「禅ゼン」 

2023年12月05日 | 漢字の音符
  増補しました。
[單] タン・セン  ツ部

解字 甲骨文の初形は、二又になったY形の棒の先に矢じりなど尖ったものを装着した武器と思われる。のち二又の付け根に一や□、日などの付いた形に発展したが、これらは付け根を補強するかたちが発達したものと考えられる。(Yに口や日がついた形から盾とする見方もあり、私も以前この見解を取っていたが今回改めた)。単の音符のなかで、甲骨文からあるのは獣だけである。獣の甲骨文は「単(二又の武器)+犬」で、二又の武器を用い犬とともに狩りをするかたち。この字は狩シュの甲骨文字と同じでシュの発音で狩りを、ジュウの発音で狩りで獲たケモノを表している。
 しかし、単は甲骨文字で武器の意でなく、王都の郊外の地名として使われているという[甲骨文字辞典」。のち、この武器は一人がひとつ持つことから、ひとつ・ひとりとなったと思われ、さらに一つのまとまり、ただ・たんに等の意味にひろがった。字形は篆文・旧字で單となり、新字体で使われるとき、單⇒単に変化する。
意味 (1)ひとつ。ひとり。「単独タンドク」「単身タンシン」(2)ひとまとまり。「単位タンイ」(3)たんに。ただ。混じりけがない。「単調タンチョウ」「簡単カンタン」(4)ひとえの着物(=襌)。「単衣タンイ・ひとえぎぬ」(5)うすいもの。かきつけ。カード。「名単メイタン」(名刺)「伝単デンタン」(宣伝ビラ)

イメージ
 「ひとつ」
(単・襌・嬋・蟬)
 「二又の武器」(獣・戦・・闡)
 「形声字」(禅・簞・弾・憚) 
 「その他」(騨)
音の変化  タン:単・襌・簞・憚  ダン:弾  ダ:・騨  ジュウ:獣  セン:戦・嬋・蟬・闡  ゼン:禅 

ひとつ
襌[褝] タン・ひとえ  衣部
解字 「衤(ころも)+單(ひとつ)」 の会意形声。ひとえの衣。
意味 (1)ひとえ(襌)。裏地のない着物。「襌衣タンイ」(2)はだぎ。「襌襦タンジュ」(襌も襦も、はだぎの意)
 セン  女部
解字 「女(おんな)+單(=襌の略体。ひとえの衣)」 の会意。ひとえの薄い衣を着たあでやかな女。
意味 あでやかで美しいさま。たおやかなさま。「嬋娟センケン」(美しくあでやかなさま=嬋妍センケン)「嬋媛センエン」(あでやかで美しい)
蟬[蝉] セン・ゼン・せみ  虫部
解字 「虫(むし)+單(=襌の略体。ひとえの衣)」 の会意。ひとえの衣のような薄い羽をもつセミ。[説文解字]は「旁(かたわら)を以(もち)いて鳴く者(もの)。虫に従い單の聲(声)」とするが、実際は羽をお腹にこすり腹の中の共鳴室で大きくして鳴いている。また方言集の[揚子方言]は「蟬、楚で之(これ)を蜩と謂う」とし、蝉の方言の蜩チョウに言及している。
意味 せみ(蟬)。セミ科の昆虫の総称。「蟬時雨せみしぐれ」(蟬の鳴き声が時雨の音のように聞こえること)「蟬羽ゼンウ」(蟬のはね)「空蟬うつせみ」(蟬のぬけがら。転じて、魂がぬけた状態の身)「蟬脱センダツ」(①蟬のぬけがら。うつせみ。②世俗を抜け出る。=蟬蛻センゼイ。)「残蟬ザンセン」(秋の末まで生き残った蟬。秋の蝉)

二又の武器
 ジュウ・シュ・けもの  犬部

解字 甲骨文から金文まで、「單(二又の武器)+犬(いぬ)」 の会意。二又の武器をもち猟犬をつれて狩をすること。もと、狩りをする意で狩の原字(音符「守シュ」を参照)。篆文から単の下に口がついた形になり、旧字で単の下部の一が上下に分離した獸になり、新字体で獣となった。意味は狩りで獲たケモノの意。下部についた口の意味は分からないが、覚え方として、「單(二又の武器)+口(かこい)+犬(いぬ)」 で、二又を持ち犬とともに囲いに獲物を追いこんで捕まえたけもの、と解字すると覚えやすい。狩猟の意は同音代替字の狩シュが受け持ち、発音はシュ。ケモノの意はジュウの発音を用いる。
意味 (1)けもの(獣)。けだもの(獣)。しし(獣)。「猛獣モウジュウ」「野獣ヤジュウ」「怪獣カイジュウ」(2)狩りをする。
 セン・いくさ・たたかう  戈部
解字 金文から現われる字。旧字までは戰で「戈(ほこ)+單(二又の武器)」 の会意。戈(ほこ)を持った者と、單(二又の武器)を持った者が戦うこと。新字体で、戰⇒戦に変化した。
意味 (1)たたかう(戦う)。いくさ(戦)。試合。「戦争センソウ」「観戦カンセン」(2)おののく(戦く)。おそれる。ふるえる。そよぐ(戦ぐ)。「戦慄センリツ」(戦も慄も、おののく意)
 ダ・タ  黽部おおがえる
 春日大社の太鼓

解字 甲骨文は二股の武器である単の上部をつけた亀に似た水棲動物を描く。[甲骨文字辞典]は、①単タンを声符とする(ワニのような)動物。②二股の武器を口に持つワニのあごになぞらえた亦声エキセイ(会意形声)か、と推測しているが、原義での用例がなく吉凶語(おそらく凶の意)で用いられている、という。金文は鼉鼓ダコの皮の太鼓)の用例がある。篆文は「單+黽」の形になり、楷書から單の下の十⇒一になったになった。後漢の[説文解字]は、「水蟲なり。蜥蜴とかげに似たり。長さ丈ばかり」とありワニとしている。
意味 (1)揚子江わに。わにの一種。揚子江(長江)中下流に棲み現在も生息するが絶滅危惧種。以前、この皮で太鼓を作った。「江鼉コウダ」(揚子江わに)「鼉鳴ダメイ」(の鳴き声)「鼉太鼓ダダイコ」(ダの皮を張った太鼓。日本では屋外の舞楽演奏に用いる太鼓で、左方・右方で一対となり、周囲の火焔に左に龍、右に鳳凰を彫刻している)
 セン・ひらく  門部
解字 「門(もん)+單(二又の武器)」の会意形声。二又の武器で門をひらかせること。転じて、門を開いてあきらか・あきらかにする意となる。
意味 (1)ひらく(闡く)。あける。 (2)あきらか。あきらかにする。「闡究センキュウ」(きわめあきらかにする)「闡幽センユウ」(かくれたものを明らかにする) (3)ひろめる。ひろまる。「恢闡カイセン」(恢は、ひろい意、闡はひろめる意。広くひろめる意)

形声字
[禪] ゼン・ゆずる  ネ部  
解字 旧字は禪ゼンで「示(神をまつる所)+單(セン⇒ゼン)」 の形声。[説文解字]は「天を祭る也(なり)。示(神をまつる所)に従い單ゼンの聲(声)」とする。[同注]は「封(土盛り)して壇ダン(土を盛上げた場)と爲(な)し、地を除(はらい)て墠ゼン(祭りの庭)と爲(な)す」とし、古くは墠ゼンとも書いた。この祭儀は天子が位を譲りうけるときに行うので、ゆずる意がある。また、仏教語の「禅那ゼンナ」(「精神を統一して真理を追究する」という意味のサンスクリット語「jhana・ディヤーナ」の音訳語から、仏教の禅宗の意味で用いる。
意味 (1)まつる。「封禅ホウゼン」(天子が天地の神に即位を知らせ、天下太平を感謝する儀式) (2)ゆずる(禅る)。天子が位をゆずる。「禅位ゼンイ」(位をゆずる)「禅譲ゼンジョウ」(天子がその地位を子に世襲させず徳のある者に譲ること) (3)仏教の禅宗のこと。座禅により悟りをひらき人生の真の意義を悟ろうとする仏教の宗派。「禅寺ぜんでら」(禅宗の寺院) (4)[仏]精神を統一して真理を悟ること。「坐禅ザゼン」「禅定ゼンジョウ」(精神を統一して真理を考えること)
簞[箪] タン・はこ  竹部
解字 「竹(たけ)+單(タン)」 の形声。タンは儋タン(かめ・にないがめ)に通じ、竹の容器の意。竹以外の小さめの容器にも使う。
意味 (1)わりご。竹で編んだ丸い飯びつ。「簞食タンシ」(わりごの飯) (2)はこ(簞)。竹で編んだこばこ。こばこ。「簞笥タンス」(箱形の収納家具) (3)ひさご。ひょうたん(瓢簞)。
 ダン・タン・ひく・はずむ・たま  弓部

解字 甲骨文は弓に丸い玉をつけた形で、はじき弓をあらわす。篆文・旧字は彈で「弓+單(ダン)」の形声。ダンは団ダン(まるい)に通じ、弓でまるい玉をとばすこと。また、はじき弓のたまが、はずむこと。日本でも正倉院に弾き弓がある。弓の弦の中央に丸座とよばれる玉を受ける台座をはめて、そこに玉を置き、弓を引いて飛ばす。
 
復元された弾き弓(左)と、弦につけた丸座(兵庫県立考古博物館)
意味 (1)はじき弓。たまをはじきとばす弓。「弾弓ダンキュウ」(はじきゆみ)(2)たま(弾)。はじき弓のたま。鉄砲のたま。「弾丸ダンガン」(3)はじく(弾く)。はずむ(弾む)。「弾力ダンリョク」「弾性ダンセイ」(4)ただす。せめる。「糾弾キュウダン」「弾劾ダンガイ」(罪や不正をあばき追及する)(5)[琴や琵琶などの弦をはじくことから]ひく(弾く)。かなでる。
 タン・はばかる  忄部
解字 「忄(こころ)+單(タン)」 の形声。タンは弾タン・ダン(問いただす=糾弾)に通じ、糾弾されておそれる心。おそれつつしむ意となる。
意味 はばかる(憚る)。おそれる。さしひかえる。「忌憚キタン」(いみはばかる。遠慮)「忌憚キタンのない意見」(遠慮することのない意見)「畏憚イタン」(おそれはばかる)「敬憚ケイタン」(敬いはばかる)

その他
驒[騨] ダ・タン  馬部
解字 「馬(うま)+單(タン)」 の形声。タンという名の馬。毛にまだら模様のある馬をいう。單のイメージは不明。新字体に準じた騨を使うことが多い。漢音はタン・呉音はダ。
意味 (1)まだら馬。連銭あしげ。毛に灰色の丸い斑点のまじった馬。(2)地名。「飛騨ヒダ」(旧国名。岐阜県北部。古くは「斐太」や「斐陀」と書いた)「飛騨市ヒダシ」(岐阜県北部の市)
<紫色は常用漢字>

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音符「氐テイ」<人が前かがみになり地面に手をつける>「低テイ」「底テイ」「抵テイ」「邸テイ」「砥シ」「鴟シ」「祗シ」「胝チ」

2023年12月03日 | 漢字の音符
  詆テイ・觝テイを追加しました。
 テイ  氏部


上が氐テイ、下が氏
解字 「氏(人が前にかがまる)+一(下の面)」の会意。氏は人が身を前にかがめる形(音符「氏シ」を参照)。それに一(下の面)がついた氐は、人が身をかがめて地面に手を触れること。ふれた地面から、もと・いたる意となる。
意味 もと(本)。いたる。おおよそ(=抵)。

イメージ 
 手が地上に「あたる・ふれる」(氐・抵・詆・底・砥・觝・胝・鴟)
 手をふれる姿勢が「ひくい」(低・祗)
 「形声字」(邸)
音の変化  テイ:氐・抵・詆・低・底・觝・邸  シ:砥・鴟・祗  チ:胝

あたる・ふれる
 テイ・あたる  扌部
解字 「扌(手)+氐(あたる)」の会意形声。手が地面にあたること。あたる意から転じて「相当する」、あたりに対する反発(さからう)の意ともなる。
意味 (1)ふれる。あてる。「抵触テイショク」 (2)あたる(抵たる)。相当する。「抵当テイトウ」(抵も当も、あたる意。借金のかたや担保をいう)「大抵タイテイ」(おおいに相当する。おおよそ) (3)こばむ。さからう。「抵抗テイコウ」 
 テイ・そしる  言部
解字 「言(いう)+氐(=抵。さからう)」の会意形声。相手にさからって言うこと。そしる意となる。
意味 (1)そしる(詆る)。人の悪口をいう。「詆毀テイキ」(詆も毀も、そしる意)「詆欺テイギ」(そしりいつわる)「詆辱テイジョク」(そしりはずかしめる) (2)あたる(=抵)「詆罪テイザイ」(罪にあたる。罪になる)
 テイ・そこ  广部
解字 「广(建物のやね=建物)+氐(地面にあたる)」の会意形声。建物の地面に当たるところ。転じて、そこをいう。
意味 (1)そこ(底)。もっとも下の部分。「底辺テイヘン」「湖底コテイ」「心底シンそこ」「徹底テッテイ」(底までつらぬく。残る所なく行き届かせる) (2)もとになるもの。「根底コンテイ」「底本テイホン」(もとになる本。原本)
 シ・と・といし  石部
解字 「石(いし)+氐(あたる・あてる)」の会意形声。刃物を当てる平らな石。刃物を当ててとぐ砥石をいう。
意味 (1)と(砥)。といし(砥)。「砥石といし」(刃物をとぐ石)「砥礪シレイ」(①といし。砥は目がこまかいといし、礪は目が粗いといし。②学問・修養につとめる) (2)とぐ(砥ぐ)。みがく。
 テイ・ふれる  角部
解字 「角(つの)+氐(ふれる)」 の会意形声。動物の角がふれること。動物の角がふれるとは、角を突き合わせることであり、ぶつかる意ともなる。
意味 (1)ふれる(觝れる)「觝触テイショク」(觝も触も、ふれる意。=抵触) (2)ぶつかる「角觝カクテイ」(角を突き合わせる。優劣を争う)「觝排テイハイ」(ぶつかって排除する。おしのける)
 テイ・おひつじ  羊部
解字 「羊(ひつじ)+氐(=觝。角にふれる)」 の会意形声。羊の角にふれること。すなわち角のある雄のひつじをいう。
意味 おひつじ(羝)。「羝乳テイニュウ」(羝(おひつじ)が授乳する。ありえないこと)「羝羊触藩テイヨウ ショクハン」(おひつじが、藩(かきね)に角を触れて動けなくなる。勇気にまかせて猛進する者は失敗する)
 チ・たこ  月部にく
解字 「月(からだ)+氐(ふれる)」 の会意形声。身体にいつもふれる部分が、厚くなって固くなること。
意味 (1)たこ(胝)。表皮の堅く厚くなったもの。まめ。「胼胝ベンチ」(胼も胝も、たこの意)「ペン胝だこ」「座り胝だこ」 (2)同じことのくりかえし。「耳に胝たこができる」
 シ・とび  鳥部
解字 「鳥(とり)+氐(ふれる)」の会意形声。空から地上にふれるようにして獲物をとる猛禽類をいう。トビやフクロウ、中国ではハイタカを指す。
意味 (1)とび(鴟)。とんび。タカ科の大形の鳥。「鴟尾シビ」(瓦葺屋根の大棟の両端につけられる飾り。訓で「とびのお」と読むが、実際は魚の尾を象ったものといわれる) (2)ふくろう。「鴟梟シキョウ」(鴟も梟もフクロウの意。また、心の曲がった悪人)「鴟目シモク」(ふくろうのような目つき)「鴟目虎吻シモクコフン」(ふくろうのような目つきと、虎の口つき。凶悪で残忍な人相のたとえ)

ひくい
 テイ・ひくい・ひくめる・ひくまる  イ部
解字 「イ(人)+氐(ひくい)」の会意形声。人の背が低いこと。また、人が姿勢を低くすること。人以外にも及ぼして使う。
意味 (1)ひくい(低い)。高さ・位置がひくい。「低地テイチ」「低空テイクウ」 (2)程度がひくい。少ない。「低級テイキュウ」「低額テイガク」 (3)たれる。うなだれる。「低頭テイトウ
 シ・つつしむ  示部
解字 「示(神)+氐(ひくい)」の形声。神の前で姿勢をひくくすること。つつしむ意となる。また、助字で「まさに」ともなる。祇(くにつかみ)とは別字。
意味 (1)つつしむ(祗む)。つつしみ。「祗畏シイ」(つつしみおそれる)「祗役シエキ」(①つつしんで任務にでる。②[国]参勤交代の江戸勤番。)「祗服シフク」(つつしんで従う)「祗候シコウ」(①つつしんで貴人のそばに仕える。②給仕の役。) (2)まさに(祗に)。

形声字
 テイ・やしき  阝部おおざと
解字 「阝(=邑。都市)+氐(テイ)」の形声。テイは亭テイ(宿)に通じ、地方の諸侯が都に上ったとき宿泊にあてる屋敷をいう。
意味 (1)公用の屋敷。「藩邸ハンテイ」「官邸カンテイ」「公邸コウテイ」 (2)やしき(邸)。大きな家。「邸宅テイタク」「豪邸ゴウテイ」「私邸シテイ」 (3)やど。「旅邸リョテイ」(やどや)
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音符「覃タン」<ふかい> と「譚タン」「潭タン」「鐔タン」「簟テン」

2023年12月01日 | 漢字の音符
  増補しました。
覃[覃] タン   襾部

解字 金文は、底が尖った深い壺形のものに、何か載っている形だが、これは篆文で鹵(岩塩)になっているので、おそらく塩であろう。深い壺のなかに塩を入れ、尖った先を土に挿して食物を長期間保存している形と思われる。篆文は、上が鹵(塩)、下が亯キョウ(祖先を祀る高い建物)の倒立字に変化し、現代字は上が襾、下は早に変化した覃タンとなった。意味は、深い器の中で長期にわたって塩味がつき熟成する意から、ふかい・ながい・(味が)うまい意となる。音符として用いられるときJISでは、上部の襾⇒覀の字体(異体字)になる。
意味 (1)ふかい。深くひろい。「覃思タンシ」(ふかく思う)「覃研タンケン」(ふかい研究) (2)およぶ。ひろがる。のびる。「覃及タンキュウ」(ひろがって及ぶ)「葛(かずら)の覃(の)びる兮(や)中谷(谷間)に施(うつ)る」(詩経・周南・葛覃) (3)うまい。おいしい。味がよい。熟成される。「覃は長味也(なり)」(説文解字)

イメージ 
 深い壺から「ふかい」(覃・潭)
 意味(2)の「およぶ・ひろがる」(簟)
 長期にわたり塩漬けされ「熟成される」(譚)
 「形声字」(鐔)
音の変化  タン:覃・潭・譚・鐔   テン:簟

ふかい
 タン・ふち  氵部  
解字 「氵(水)+覃(ふかい)」の会意形声。ふかく水をたたえている「ふち」をいう。
意味 (1)ふち(潭)。水が深くよどんでいる所。「潭潭タンタン」(水を深くたたえているさま)「碧潭ヘキタン」(あおあおとした深いふち) (2)ふかい。奥深い。

およぶ・ひろがる
 テン・デン・むしろ  竹部
解字 「竹(たけ)+覃(ひろがる)」の会意形声。細かく割った竹で編んだむしろをいう。
意味 (1)竹のむしろ。たかむしろ。竹すのこ。「竹簟チクテン」(たかむしろ)「簟席テンセキ」(たかむしろ)「君は簟席テンセキを以(もち)い、大夫は蒲席(蒲がまのむしろ)を以(もち)いる」(礼記)。「簟床テンショウ」(竹すのこ)

熟成される
 タン・ダン・はなし  言部
解字 「言(ことば)+覃(熟成される)」の形声。長期にわたって熟成された、歴史上や土地に伝わる興味深い話をいう。
意味 (1)はなし(譚)。ものがたり。「奇譚キタン」(珍しく面白い物語や言い伝え)「譚歌タンカ」(神話や伝説などの物語に材料を取って作詞した歌曲)「譚海タンカイ」(はなしの海)(2)はなす。かたる。

形声字
 タン・つば  金部
解字 「金(金属)+覃(タン)」の形声。[説文解字]は「剣(つるぎ)の鼻(はな=とびでた所)也(なり)。金に従い覃タンの聲(声)」とする。[同注]は、「人が握る處(ところ)の下(した)也(なり)」と補足して、人が握る剣の柄(つか)の下に出て居る突起とする。すなわち、刀身と刀の柄(つか)の境目にはさむ金属製の「つば」をいう。

鐔(つば)(「いわの美術」のHPより)
意味 (1)つば(鐔)。刀のつば。刀身と柄(つか)のさかいにはめて手を保護する金具。鍔とも書く。「鐔迫(つばぜ)り合い」(互いに打ち込んだ刀を鐔で受け止めたまま押し合う) (2)小さい剣。短剣。 (3)釜(かま)の胴のまわりに、うすく張り出した部分。 (4)帽子の下部の周囲に張り出した部分。


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