漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「莫ボ」<草原に日がしずむ> と「暮ボ」「墓ボ」「慕ボ」「募ボ」「幕バク」「漠バク」「貘バク」「膜マク」「模モ」

2023年12月21日 | 漢字の音符
  増補しました。
 ボ・モ・バク・マク・ない・なかれ・くれ  艸部

解字 甲骨文・金文・篆文とも、「艸(草)+日(太陽)+艸(草)」で、草のあいだに日のしずむ形の会意。太陽が草原に没するさまから、日暮れの意味を表す。暮の原字。また、太陽が見えなくなることから、「ない」の意味に用いる。転じて、はてしない・むなしい意ともなる。現代字は上の艸が艹に、下の艸が大に変化した。
意味 (1)くれ(莫れ)。日ぐれ。おそい。「莫春ボシュン」(春の末。晩春。陰暦3月)「莫秋ボシュウ」(晩秋。陰暦9月) (2)ない(莫い)。なし。なかれ(莫れ)。「莫逆バクギャク・バクゲキ」(心に逆らう莫(な)し。意気投合して親密な間柄)「莫逆之交バクギャクのまじわり」(互いに心に逆らうことのない意気投合した親友=莫逆之友バクギャクのとも) (3)はてしない。「莫大バクダイ」 (4)むなしい。さびしい。「寂莫ジャクバク

イメージ 
 「かくれる・かくす」
(莫・暮・墓・幕・膜・蟇・模・摸・寞)
  かくれると何も「ない」(漠・募・慕・貘(獏))
 「形声字」(驀)
音の変化  ボ:莫・暮・墓・募・慕  マク:幕・膜  モ:模・摸  バ:蟇  バク:漠・貘(獏)・寞・驀 
 
かくれる・かくす
 ボ・くれる・くらす  日部
解字 「日(ひ)+莫(かくれる)」 の会意形声。莫は、もともと日ぐれの意。莫が、ない意で使われるようになったので、日をつけて元の意味を表した。この字には、日が二つあることから、莫が暮の原字であることがわかる。
意味 (1)くれる(暮れる)。日がくれる。「日暮(ひぐ)れ」「薄暮ハクボ」「暮色ボショク」 (2)季節・年・人生などの終わり。「暮秋ボシュウ」(秋の終りのころ)「歳暮サイボ・セイボ」(年のくれ。歳末の贈り物) (3)[国]くらす(暮らす)。くらし。
 ボ・はか  土部
解字 「土(つち)+莫(かくれる)」 の会意形声。土のなかに亡き人を埋めてかくす墓。
意味 はか(墓)。はかば。「墓穴ボケツ」「墓参ボサン」「墳墓フンボ
 マク・バク  巾部
解字 「巾(ぬの)+莫(かくす)」の会意形声。物をかくして見えなくする布。
意味 (1)おおい布。たれまく。「天幕テンマク」(テント)「暗幕アンマク」(暗くするために張る幕) (2)仕切りに使う劇場などのまく。「幕間まくあい」「第一幕」 (3)将軍が政治を行なう所。「幕府バクフ」「幕臣バクシン
 マク  月部にくづき
解字 「月(からだ)+莫(かくす)」 の会意形声。身体の筋肉や器官をおおいかくす薄いまく。
意味 まく(膜)。身体の内部や表面をおおう薄い皮。「粘膜ネンマク」「鼓膜コマク」「網膜モウマク」「皮膜ヒマク」(①皮と膜。②わずかのちがい)
 バ・バク・マ  虫部
解字 「虫(小動物)+莫(=膜。まく)」 の会意形声。皮膚や背面をごつごつした膜でおおわれるカエルをいう。

二ホンヒキガエル(「動物図鑑・京都市動物園」より)
意味 (1)ひきがえる(蟇)。がまがえる(蟇)。「蝦蟇ガマ」とも書く。皮膚や背面がイボでおおわれ有毒の粘液を分泌する。「蟇(がま)の油」(ガマの分泌液を膏剤にまぜて練った軟膏) (2)ぶゆ・ぶよ。「蟇子バクシ」(ぶゆ・ぶよ)
 モ・ボ  木部
解字 「木(き)+莫(かくれる)」 の会意形声。木で本物そっくりの形をつくること。また、本物の型をとること。莫は、本物はその中にかくれている意。 
意味 (1)かた。ひながた。「模型モケイ」「模範モハン」(①模は木製の型、範は竹製の型、器物をつくる型。②見習う手本) (2)まねる。かたどる。「模造モゾウ」「模刻モコク」 (3)かたち。ありさま。「模様モヨウ」 (4)手さぐりする(=摸)。「模索モサク」 (4)地名。「相模さがみ」(旧国名。今の神奈川県の大部分)「相模湾さがみわん」「相模川さがみがわ」(神奈川県中央部を流れて相模湾にそそぐ川)
 モ・バク・さぐる  扌部
解字 「扌(手)+莫(かくれる)」 の会意形声。かくれているものを手でなでてさぐること。常用漢字でないため、模に置き換えるものがある。
意味 (1)さぐる(摸る)。手でなでさぐる。「掏摸トウバク・すり」(他人の金品をさぐるようにして盗むこと。掏も摸も、すりとる意)「摸索モサク」(=模索) (2)うつす。まねる。「摸写モシャ」(=模写)

ない
 バク・すなはら  氵部
解字 「氵(水)+莫(ない)」 の会意形声。水のない状態をいう。また、転じて、なにもないさまをいう。
意味 (1)すなはら(漠)。荒野。「砂漠サバク」「漠南バクナン」(沙漠の南。今の内蒙古自治区のあたり) (2)ひろい。はてしないさま。とりとめのないさま。「漠然バクゼン」「空漠クウバク」(なにもなく広い) (3)さびしい。うつろ。「寂漠ジャクバク」(なにもなくさびしい)
 ボ・つのる  力部
解字 「力(ちから)+莫(ない)」 の会意形声。足りていない力仕事をする人を求めるのが原義で、土木などの力役や軍役の人を求めることをいう。転じて、ひろくつのる意となる。
意味 つのる(募る)。広く求める。「募金ボキン」「募集ボシュウ」「募兵ボヘイ」(兵士をあつめる)
 ボ・したう  㣺部
解字 「㣺(心)+莫(ないもの)」 の会意形声。亡き父母など、現実にない人や身近にないものを心でおもうことが原義。故人に限らず、したう意となる。
意味 したう(慕う)。思いをよせる。「慕情ボジョウ」(恋いしたう心)「敬慕ケイボ」「恋慕レンボ」(恋いしたう)
貘[獏] バク  犭部
解字 「豸(けもの)+莫(ない)」 の会意形声。悪いものを無くしてくれるという想像上のケモノ。獏とも書く。

想像上のバク(貘)(「日本国語大辞典」の貘・獏より)

横浜動物園のバク(「横浜動物園ズーラシア」より)
意味 (1)バク(貘・獏)。中国の想像上の動物。人の悪夢を食うとされ、その皮を敷いて寝ると邪気を避けるといわれる。 (2)バク(獏)。バク。ウマ目バク科の哺乳類の総称。鼻と上くちびるが長く突き出し、成獣の体長は1.7-2m程度。
 バク・マク・さびしい  宀部
解字 「宀(いえ)+莫(ない)」 の会意形声。いえの中に何もないこと。さびしい。しずかの意となる。
意味 さびしい(寞しい)。しずか。ひっそりしている。「寞寞バクバク」(静かでさびしいさま)「寂寞セキバク」(ものさびしいさま)「落寞ラクバク」(ものさびしいさま)「索寞サクバク」(ものさびしいさま。索サクは牽(ひ)く意。=索莫・索漠)

形声字
 バク  馬部
解字 「馬(うま)+莫(バク)」 の形声。[説文解字]は「馬に上(の)る也(なり)。馬に従い莫(バク)の聲(声)」とし馬に乗る意とする。[同注]は「上馬は必ず捷(はや)し。故に引伸して猝(にわ)かと爲(な)すに乍(つく)る之(これ)を称す」と補足して、「にわか」の意味があることを述べている。
意味 (1)まっしぐら。たちまち。にわかに。「驀進バクシン」(非常な勢いで進む)「驀然バクゼン」(にわかに起こるさま) (2)のりこえる。「驀越バクエツ」(こえる) (3)馬にのる。
<紫色は常用漢字>
          
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