漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符 「扁ヘン」 <片開きの編戸> 「遍ヘン」 「偏ヘン」 「編ヘン」「篇ヘン」「蝙ヘン」「翩ヘン」

2023年12月09日 | 漢字の音符
  増補しました。
 ヘン  戸部           

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 上が扁、下が冊
解字 扁は「戸(片開きの戸)+冊(木や竹をつないだ形)」の会意。片開きの戸(ドア)を竹や木のへぎを組んで作った編戸の形に作る。編戸であるから、扁平(ひらたい)の意になる。片開きの戸であるから門扉(とびら)の両開きに対し、一方に「かたよる」イメージを持つ。
 下図の冊には2系統ある。ひとつは甲骨・金文の第一字で、竹簡や木簡を糸でつないだ形。二つめは甲骨・金文の第二字で防禦用や牧場のさくで「柵」の原字にあたる[甲骨文字小字典]。両者は篆文以降、同じ形になった。現代字の冊は、糸でつないだ竹簡や木簡、および、つなぐ前の竹や木のふだの意味で使われる。冊を音符に含む字は、「木や竹を並べてつなぐ」イメージがある。
 したがって扁は、片開きの戸を竹や木のへぎを組んで作った編戸の形である。下の写真は、木枠に竹の網代をはめ込んだ網代戸(あじろど)で、扁の初期のかたちを残している。

参考写真 網代戸(あじろど)(「京町家改修用語集・網代とは」より)
意味 (1)ひらたい。「扁舟ヘンシュウ」(舟底の平らな小舟)「扁平足ヘンペイソク」「扁桃ヘントウ」(アーモンドの別称。核がやや平たい)「扁桃腺ヘントウセン」(のど奥の左右にある扁桃形のふくらみ。「扁桃」ともいう) (2)よこがく(横額)。文字や画を描いて門戸の上や堂にかかげるもの。「扁額ヘンガク」 (3)へん。漢字の左辺の部分(=偏)。

イメージ 
 「うすく平ら」(扁・蝙・翩・諞・騙・遍)
  片開きの戸から「一方にかたよる」(偏)
  「形声字」(編・篇)
音の変化  ヘン:扁・翩・諞・騙・蝙・遍・偏・編・篇

うすく平ら
 ヘン  虫部
解字 「虫(動物)+扁(うすく平ら)」の会意形声。うすく平らな羽をもつコウモリ。
意味 蝙蝠ヘンプクに使われる字。蝙蝠ヘンプクとは、蝙は、うすい羽をもつ虫、蝠は、ふくらんだ胴の虫で、うすい羽とふくらんだ胴をもつコウモリを表す。コウモリは、コウモリ目の哺乳類の総称。前肢がうすい翼に変形し哺乳類で一番よく飛ぶ動物。「蝙蝠こうもり」「蝙蝠傘こうもりがさ」(西洋風の傘。開いた形がコウモリに似ているから)
 ヘン・ひるがえる  羽部
解字 「羽(はね)+扁(うすく平ら)」の会意形声。うすくたいらな羽がひらひらとひるがえること。
意味 ひるがえる(翩る)。「翩翩ヘンペン」(身軽に飛ぶさま)「翩翻ヘンボン」(旗などが風にひるがえるさま。翩も翻も、ひるがえる意)
 ヘン・へつらう  言部
解字 「言(ことば)+扁(うすっぺらい)」の会意形声。うすっぺらい内容のない言葉を言うこと。
意味 へつらう(諞う)。ことば巧みに言う。「諞言ヘンゲン」(巧みに言う)
 ヘン・だます・かたる  馬部
解字 「馬(うま)+扁(=翩。ひるがえる)」の会意形声。ひるがえるように身軽く馬に乗ること。また、俗語で、諞ヘン(ことば巧みに言う)に通じ、だます意ともなる。
意味 (1)とびのる。身軽く馬にのる。馬の曲乗り。「騙馬ヘンバ」(馬の曲乗り) (2)だます(騙す)。かたる(騙る)。「騙取ヘンシュ」(だましとる)「騙詐ヘンサ」(だましいつわる)「騙子ヘンシ」(詐欺師)
 ヘン・あまねく  之部
解字 「辶(ゆく)+扁(平らにひろがる)」の会意形声。平らにまんべんなく行きわたる。
意味 (1)あまねく(遍く)。すみずみまで行きわたる。「遍在ヘンザイ」(行きわたってある)「遍歴ヘンレキ」(各地を巡り歩く)「遍路ヘンロ」(四国八十八箇所霊場などを巡拝すること) (2)回数を数える語。「一遍イッペン

一方にかたよる
 ヘン・かたよる  イ部
解字 「イ(人)+扁(一方にかたよる)」の会意形声。人がかたよった位置にいること。中心からそれて片すみに寄る意。
意味 (1)かたよる(偏る)。一方に片寄る。「偏在ヘンザイ」「偏差値ヘンサチ」 (2)中正でない。「偏見ヘンケン」「偏向ヘンコウ」「偏屈ヘンクツ」(性格がかたよりねじける) (3)漢字の左側の部分。「人偏ニンベン」「偏(ヘン)と旁(つくり)」 (4)[副詞]ひとえに(偏に)。

形声字
 ヘン・あむ  糸部    
解字 「糸(いと)+扁(ヘン)」の形声。[説文解字]は「簡を次する也(なり)。糸に従い扁(ヘン)の聲(声)」とし、竹簡を次する(ならべ)て糸でとじて綴ることを編ヘンという。正確に言うと、竹簡を並べるのは冊であるが、扁にも竹片をならべた側面が見えるので、これに糸をつけて編む意とした。編の意味は、さらに書物の編集、編み物、編み笠などの意にまで拡がった。
意味 (1)あむ(編む)。文を集めて書物を作る。順序だてて並べる。「編集ヘンシュウ」「編成ヘンセイ」(順序だてて並べてまとめる) (2)あむ(編む)。糸・竹など細長いものを互いちがいに組む。「編物あみもの」「編笠あみがさ」 (3)ふみ。書物。「短編タンペン」(=短篇)「前編ゼンペン」(=前篇)
 ヘン  竹部
解字 「竹(たけ)+扁(ヘン=編。あむ)」の形声。うすく平らな竹(竹簡)をならべて編んだもの。
意味 (1)ふみ。ひと綴りになった書物。「長篇チョウヘン」「短篇タンペン」 (2)詩文を数える語。「詩文三百篇」 (3)書物の部わけ。「前篇ゼンペン」「後篇コウヘン」「篇次ヘンジ」(部わけの順序)
※ 編と篇のちがい。両方の字とも竹簡を綴じたもので意味は同じ。しかし、編は常用漢字なので通常は編が使われる。篇はひと綴り(長篇・短篇)や、シリーズ物(前篇・中篇・後篇)をあらわすときに慣用的に使われることが多い。
<紫色は常用漢字>

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