国鉄ワム80000形貨車のうち、ワム83000~88999及びワム180000~188801のいわゆる中期型についての考察です。
過去に側引戸下部の戸車点検蓋についてと側面下部ドアレール長さについての記事を投稿しており、これらの続編になります。出来れば以下の2記事をご覧になってからお読み頂いたほうが良いかと思います。
ワム80000形中期型の側面下部ドアレールの長さについて - 保存鉄道車両巡りの旅2
ワム80000形中期型の引戸下部の戸車点検蓋について - 保存鉄道車両巡りの旅2
今回の考察は「中期型の途中で側面ドアリブの間隔が変更されたのではないか」ということです。
公式の記録として、ワム183700より側面の検査票差しを移動させたという記載があります。そこで現存する廃貨車を調査および計測してみました。
結論から言いますとワム183700以降の車両では、それ以前の車両より側面ドアリブが約3cm移動しています。1方向に単純に移動したわけではなく、下画像の赤矢印の方向にずれています。
(注:画像の車両はリブ移動後の車両「ではない」と思われます)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/26/1a/27efc8d41e07f51f2acf5d3a5989c88b.jpg)
これは下画像の黄色実線の部分が太くなったため、干渉するリブを移動させた結果です。おそらくはドアを閉めた際に接触する部分を強化するための改良だったのかと思います。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6b/fd/2dd8a2d4c34e88a42519da085305f90e.jpg)
リブ移動前か移動後かを判別するのに、一番簡単な方法は側面中央部の側引戸の合わせ目を計測することです。移動前の車両であれば、側引戸閉じ状態で凸部の縁から約14cmです(画像はワム88687)。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/53/5d/9fe24dcd139ef383a03f2d525fe988ef.jpg)
移動後の車両であれば、ここは約20cmです(画像はワム186412)。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/11/0f/440a5e97189c6bb4880f22cee0201683.jpg)
ドア2枚で6cmの差ですから、ドア1枚で約3cm移動したと分かります。
全体の見た目ではほとんど分かりません。手すりやU字状のフックと凸部のバランスで違いがありますが、遠方からだと判別困難かと思います(画像はワム88687)。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7d/dd/6a777689812a5669a20fa793c84ae249.jpg)
同じアングルのワム186412(コンテナが邪魔で申し訳ありません)。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5c/e2/f4702205005320630529e258d873cc08.jpg)
肝心の検査票差しですが、何両か計測しましたが位置はまちまちといった感じでした。本来ならワム183700以降では内側に約3cmずれているはずですが、個体によっては逆に外側に寄っているものもありました。参考までに画像を載せます(画像はワム84242。リブ移動前の番号)。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/01/34/63d3e9edca7ecc62031ed221119c5275.jpg)
こちらはリブ移動後のワム187678です。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/66/32/af3cf7be306f63666c4bbfb29f340fdb.jpg)
この検査票差しのまちまち具合が、製造所による差異なのか後年の修繕でこうなったのかは不明です。なお、車番下の大きな票差しはリブ移動前後でも位置は変わらいようです。
この結果を踏まえて、ワム80000中期型の形態差をまとめてみましょう。
・ワム83000~88999、180000~183699、188807~188818は、上部レールが短い、下部レールが長い、点検蓋が密閉型、側引戸リブは移動前。
・ワム183700~187676は、上部レールが短い、下部レールが長い、点検蓋が密閉型、側引戸リブは「移動後」。
・ワム187677~188306(ワム187865を除く)は、上部ドアレールが短い、下部ドアレールが「右側のみ短い」、点検蓋が「下部開放型」、側引戸リブは移動後。
・ワム188307~188801は、上部ドアレールが「長い」、下部ドアレールが「両側とも短い」、点検蓋が下部開放型、側引戸リブは移動後。
中期型の汎用車だけで4形態に分類出来ます。
ワム187865は、上部ドアレールが短い、下部ドアレールが『長い』、点検蓋が「下部開放型」、側引戸リブは移動後。という他に例の無い姿になっています。製造時からこの姿だったのか、補修等でこうなったのかは分かりません。
このワム187865を1形態に区分すれば、中期型の汎用車は5形態あることになります。
よくワム188307~のグループに分類されるワム188802~188806は側柱省略試験車で、形態は中期型ながら高さが60mm高くなっているそうです。そのため上記の分類からは除外しました(6cmの差なので遠目では判別不可能だと思いますが)。
また、ワム180808~180819はオートバイ輸送用の物資別適合車に改造・改番(583000番台)されたため、2代目がワム183700と同時期に製造され穴埋めされています。この2代目はワム183700と同形態だったのか元番号と同じ形態だったのか不明です(つまり1代目と2代目で形態が異なる可能性がある)。なおこのオートバイ輸送用の583000番台は1981年に汎用車に復元されています。しかし元番号はすでに穴埋めされていたため新たにワム188806の続番が振られています(ワム188807~188818)。
さらに他の物資別適合車や事業用車への改造が発生しているため後に欠番が発生しています。物資別適合車については追い切れていないというのが正直なところです。
このように国鉄時代には多数派でJRへ引き継がれたものがわずかなため総じて地味な印象があるワム80000中期型ですが、調べてみるとこんなにも形態差があって驚いているところです。貨車研究の奥深さを実感しています。
重箱の隅レベルの話なので、こち亀の中川に「全部同じじゃないですか」と言われそうですけどね。