保存鉄道車両巡りの旅2

鉄道車両の静態保存車を紹介するブログです。

ワム80000形中期型の引戸下部の戸車点検蓋について

2023-05-01 23:22:26 | 廃車体あれこれ

前回記事(ワム80000形中期型の側面下部ドアレールの長さについて - 保存鉄道車両巡りの旅2)の続きになります。ワム80000形中期型の下部ドアレールについての記事をお読みになっている前提で解説させて頂きます。

考察としては「ワム80000形中期型の製造途中で点検蓋の形状が変更されたのではないか」です。

 

ワム80000形では側面引戸の下部にある戸車を点検するための開閉可能な蓋があります。ごく初期のロットでは室内側に点検蓋があるため外から蓋が見えません。後のロットでは室外側より点検するように改良されたため、蓋自体を外から確認出来るようになりました。

前回同様にムサシノモデルの16番鉄道模型紹介ページ(16番ワム80000の写真紹介と作り分けの説明 2019.6.22 | ムサシノモデル)を参考にする形で紹介いたします。

 

ワム81461で初期型です。点検蓋が表側にありません。

ワム80000~80004、80100~82399が該当します。初期型の中でもごく初期に製造された車両です。

 

ワム82506です。こちらも初期型ですが、点検蓋が外側に変更されたロットです。蓋は四隅をマイナスネジで留めています。

ワム82400~82899が該当します。初期型のみで数えると点検蓋が外側にある車両の方が製造数は少ないですが、保存や廃貨車で現在まで残るものとなれば話は別です。

 

ワム186490です。「1969年度民有」で製造されたロットです。

中期型(2次量産車)に移行しましたが、点検蓋の形状に変化はありません。

 

右がワム187678、左の白いのがワム84242です。

ワム84242は先程までと同じ形態ですね。しかしワム187678はどうでしょうか?蓋自体が大きくなり、下部に戸車と思われる滑車が露出しています。

ワム187678は「1969年度第3次債務負担」で製造されたロットで、上記ワム186490の次のロットになります。

 

ワム188581です。グーグルストリートビューから拝借した画像なので粗いです。

この車両は「1970年度本予算」で製造され、側面上部ドアレールが車端まで延長されたロットです。しかし点検蓋は前ロットから変更されていないようです。

 

ワム188633です。同じく1970年度本予算で製造され、点検蓋も変更されていません。

 

番号不明ですが、下部ドアレールが向かって右側のみ短くなった車両です。点検蓋の形状からワム187678と同じ1969年度第3次債務負担で製造された車両と思われます。前回記事(ワム80000形中期型の側面下部ドアレールの長さについて - 保存鉄道車両巡りの旅2)で番号不明なのにロットを特定していたのは点検蓋の形状から判断したためです。

 

ワム283844で、後期型(走行安定化対策車、280000番台)です。点検蓋は以前のようにビス止めで滑車が外から見えない形状に戻っています。

 

整理すると、

・ワム80000~80004、80100~82399は外側に点検蓋無し。

・ワム82400~82899(ここまで初期型)、83000~88999、180000~187676は点検蓋あり、外から滑車は見えない(密閉型と呼びます)。

・ワム187677~188801は点検蓋あり、下部に隙間があり滑車が見える(下部開放型と呼びます)。

・ワム280000以降は点検蓋あり、密閉型に戻る。

となると思われます。

 

さらに前回記事の側面ドアレールと組み合わせると、

・ワム80000~80004、80100~82399は上部レールが短い、下部レールが長い、外側に点検蓋無し。

・ワム82400~82899(ここまで初期型)、83000~88999、180000~187676は上部レールが短い、下部レールが長い、点検蓋あり(密閉型)。

・ワム187677~188306は、上部ドアレールが短い、下部ドアレールの右側のみ短い、点検蓋あり(下部開放型)。(※ただしワム187865を除く)

・ワム188307~188801(ここまで中期型)は、上部ドアレールが長い、下部ドアレールが両側とも短い、点検蓋あり(下部開放型)。

・ワム280000以降は、上部ドアレールが長い、下部ドアレールが両側とも短い、点検蓋あり(密閉型)。

となり、中期型だけでも3形態あることになります。

 

 

続いて、ワムハチ中期型の途中より側面引戸のリブの間隔が変更されたのではないかということを考察していきます。

ワム80000形中期型の側面ドアリブ間隔の変更について - 保存鉄道車両巡りの旅2

 

※追記

1981(昭和56)年に製造されたワム89003では、1970(昭和45)年製造車を最後に採用されていなかった「下部開放型」点検蓋であることを確認しました。

ワム89003とはワム89000形の4号車です。ワム80000形280000番台の側引戸をアルミ製から鋼製に変更した車両で、重量増分は他の部分を軽量化することで相殺しています。形態的にはワム80000形280000番台とほとんど差異がありません。

ワムハチ後期型を大量に製造しておきながら10年の空白を経て「下部開放型」点検蓋が採用されていますが、鋼製ドアの最新図面を単純に流用したからではないかと思います。

ワムハチ後期型と同じ見た目で下部開放型の点検蓋の廃貨車があれば、番号が見えなくともワム89003だと断定出来ます(廃貨車で残っているのかは不明ですが)。


ワム80000形中期型の側面下部ドアレールの長さについて

2023-05-01 23:10:07 | 廃車体あれこれ

国鉄ワム80000形貨車のうち、ワム83000~88999及びワム180000~188801のいわゆる中期型についての話です。

このグループは「2次量産車」とも呼ばれ、1967~1970年の間に製造されたものです。形態としては初期型と比べて屋根上リブが増えたことが目立ちます。側面上下のドアレール形状や車輪軸距は初期型から引き継いでいます。

中期型の製造途中でいわゆるマイナーチェンジとして、ワム187677以降は「側面下部ドアレールを短くした」という記載を発見し、これが本当なのか現存する廃車体を調査してみました。

ちなみに上記ドアレールについての記載は、ムサシノモデルの16番鉄道模型の紹介ページのものです。リンクを貼っておきます。

 →16番ワム80000の写真紹介と作り分けの説明 | ムサシノモデル

 

まず最初に、側面下部ドアレールの長短についての紹介です。「長」だとドアストッパーの下までレールがありますが、「短」だとストッパーの下までレールが達していません(「短」で実際に戸車が載る部分だけに短縮したようなので、引戸そのものの開口幅に変化はないと思われます)。

 

ワム82056で、初期型の車両です。L字のストッパーの下までレールがありますね。

 

(画像はグーグルストリートビューより)

ワム188581で、ドアレールが短くなったロットに該当します。分かりにくいですが、ストッパーの下までレールが達していません。

 

ワム283844で、後期型と呼ばれる走行安定化対策車です。ドアレールが短く、かつストッパーの形状が変更されています。

 

以上が例題編でした。そしてドアレールが短くなったロットの廃貨車がありましたのでご紹介します。

ワム187678です。ロットは「1969年度第3次債務負担」です。

ムサシノモデルのHPによると下部ドアレールが短くなって間もない時期の車両です。現車はどうでしょうか?

 

右がワム187678、左の白いのがワム84242(中期型)です。

ワム84242のレールが長いのはいいとして、ワム187678も長いタイプです。

 

ワム187678の先程とは逆になる向かって右側です。引戸が開状態なので分かりにくいですが、ストッパーの下にレールがありませんね。

 

もう一例。こちらは車番不明ですが、上部ドアレールの長さと引戸戸車の点検蓋形状からワム187678と同じ1969年度第3次債務負担で製造されたと推察される車両です。

※引戸戸車の点検蓋形状については、こちらの記事(ワム80000形中期型の引戸下部の戸車点検蓋について - 保存鉄道車両巡りの旅2)で解説していますが、この記事をお読みになってからご覧頂いた方が良いかと思います。

 

向かって左側の下部ドアレール。ワム187678と同じように長いです。

 

向かって右側は短いです。

 

次の例として、ワム188633です。

このロットは「1970年度本予算」で、上部ドアレールが側面一杯まで長くなり後の後期型(走行安定対策車。いわゆる280000番台)と同じ形態になりました。車号ではワム188307~188801が該当します。

 

向かって左側の下部ドアレール。短いです。

 

向かって右側のドアレール。こちらも短いです。

冒頭で紹介したワム188581も1970年度本予算で製造されており、このロットは下部レールの左右とも短いのだと思われます。

 

整理すると、

・ワム187676以前の車両は、上部ドアレールが短く、下部ドアレールが長い。

・ワム187677~188306の1969年度第3次債務負担で製造された車両は、上部ドアレールが短く、「下部ドアレールの右側のみ短い」。

・ワム188307~188801の1970年度本予算で製造された車両は、上部ドアレールが長くなり、「下部ドアレールが両側とも短い」。

となると思われます。

 

ただし例外となる車両を発見しています。

ワム187865です。1969年度第3次債務負担で、下部ドアレールが「右側のみ短い」グループです。

 

しかし長いタイプのドアレールです。

 

反対側の側面も、本来短いはずのドアレールが長いです。これはひょっとすると同じロット内でも製造所によって違うのかと思ったので、別の車両も調べてみます。このワム187865は川崎重工業製です。

 

ワム187936です。上記ワム187865と同ロットかつ同じ川崎重工業製です。この車両はドアレールが短いですね。

 

反対側もやはり短いです。

つまり本来ドアレールが短いはずなのに長いものが付いているのは、製造所による差異ではなくワム187865特有の姿だということが分かりました。

 

ワム80000形には物資別適合車も存在し、車体各部は同時期の基本番台とほぼ同じ特徴を有しているそうです。しかしこちらまでは手が回らなかったため割愛します。

次の記事では、「中期型製造途中に側面引戸の戸車点検蓋の形状が変更されたのではないか」という疑問について検証します。

 

続く→ ワム80000形中期型の引戸下部の戸車点検蓋について - 保存鉄道車両巡りの旅2