幻の詩集 『あまたのおろち』 by 紫源二

幻の現在詩人 紫源二 の リアルタイム・ネット・ポエトリー

そのひとに告げられたこと (4)

2019-09-01 22:55:01 | Weblog

そのひとの視線に目を合わせると
そのひとが私に話しかけてくる言葉が
心の中で聞こえてきた

明日あなたは「幸せ」と書かれた落とし物を拾うだろう

それを持ち帰ってあなたはいろいろと調べる

でもいくら調べてもあなたは

その落とし主が誰だか分からないだろう

そのとき今から私が言うことを必ず思い出して欲しい

「それを絶対に警察に持って行ってはいけない」

次の日あなたはその落とし物の持ち主を知ることになるからだ

でもその日から私に会うことはできなくなる

だからそのとき思い出して欲しい

その落とし物をどうやって持ち主に返すことができるか

私に訊くことはできないことを

三日目にあなたは決めなければならなくなる

「幸せ」と書かれた落とし物を持ち主に返すのか

それともそれを自分の物にするのかを

そしてもしあなたが「幸せ」と書かれた落とし物を持ち主に返すことに決めたなら

また私に会うことができるだろう

でもそれを自分の物にすることにしたなら

あなたはもう二度と私に会うことはできない

そして私と会ったこともすっかり忘れてしまうだろう

そしてもう二度と私を思い出すこともない


























久しぶりに行った銭湯で (3)

2019-09-01 21:18:01 | Weblog

昨日の夜中
目が覚めてシャワーを浴びようとしたら
青いセルロイド人形のようなひとに出会った

そのとき
目から発するレーザービームのような緑色の光線を見て
ふと思った

明日久しぶりに近くの銭湯にでも行ってみようかと

住んでいるアパートから五分も歩かない路地裏に
昔ながらの銭湯がある
いつもそこを通るたびに気になっていた

今日は日曜日だから夕方の4時からやっている
入り口の看板にそう書いてあった
開店と同時に行けば空いているだろう

何年ぶり、いや何十年ぶりかもしれない
銭湯に行くなんて

この近所の誰とも付き合いはない
初めて行ったら常連さんに奇異な目で見られるだろうか
でもどうせいたとしても
生気のない年寄りばかりだろう
運が良ければ誰もいないかもしれない

小銭入れだけを持ってアパートを出た

入り口の看板に「手ぶらでお越しください。タオルも無料でお貸しします。」と書いてあるのを知っていた

入り口の下駄箱に履いてきたスニーカーを入れて中の扉を開けた

番台の上に人の良さそうなおばあさんがいた
いまだに番台がある銭湯なんて珍しいのではないか

中には誰もいない

料金を支払うと
ニコニコしながら「タオル使う?」と聞かれた
「はい」と言うと「一枚?二枚?」と聞かれた
少し迷って「じゃあ二枚」と言うと
緑色のタオルを二枚渡された

一面鏡張りの壁に沿って着替え用の四角いロッカーが並んでいる
1から順番に番号がついている
13のロッカーの前に行くと
誰かが自分を見ているような視線を感じた

番台の方を見ると
さっきのおばあさんは居なくなっている

誰もいない


ふと鏡を見ると
そこに映っているはずの自分の代わりに
誰か別の人が映っている

目を大きく見開いて
私を凝視している



























豪雨と落雷の後に (2)

2019-09-01 03:42:41 | Weblog

仕事から帰り
玄関を入るとすぐに
猛烈な雨が降りだした

叩きつける雨音
耳の鼓膜が破れそうな
頭が割れそうな
雷が鳴って
近くに落ちたのだろう
地面が揺れた

点けたはずの部屋の明かりが消えて
暗がりの中で着替えていると
窓ガラスが光った

また雷が落ちたのだろうと思った
でも音が聞こえない
バラバラと降る雨の音がするだけ

でもよく見ると
窓ガラスは濡れていない

おかしなと思って窓を開けてみた

するとなぜか降っているはずの雨は降っていない

二階から見渡せるいつもの風景が見える
遠くの新宿の高層ビルの光が見える

でもその辺りの空がなぜかネオンのように青く光っている

その夜は疲れていたから
ベッドに入ってすぐに寝てしまった


夜中に目が覚めて
シャワーを浴びに行ったら
そこに誰かが立っていた

まるで青いネオンでできているような
セルロイド人形のような人で
目は緑色のレーザービームのように光っていた