野口町をゆく(84) 大庫源次郎物語(11) 活動写真と金平糖
そのころ鉄工所の休みは、1日と15日の月2回でした。
源次郎は、休みの日には主人から20銭の給料(というより小遣い)をもらいました。
朝から晩まで働いて20銭とは、いくら物価の安い当時とはいえ安すぎるようですが、それでも源次郎はうれしくてたまりません。
昼食後、小遣いをもらい、鳥打帽のヒサシに手をかけ、勇んで外出しました。
行先は、京都一の繁華街である京極へ行って、活動写真(いまの映画)を見ることでした。
京極は、源次郎と同じような丁稚どんや、友禅工、西陣の女工たちが、はしゃぎながら雑踏の中を楽しげに歩いています。
苦しい労働からやっと開放された一日です。故郷を離れて働く少年少女たちの瞳が、この日だけは生き生きと輝いていました。
通りの中ほどにある八千代座で当時のピカ一の大スター「目玉の松ちゃん」こと尾上松之助の活動写真を見ました。
五銭でした。堪能して小屋を出ると、赤い前垂れ姿のかわいい娘が給仕してくれる小さな飲食店で、ぜんざいを一杯ゆつくり食べました。
これが一銭五厘。小豆がたっぷり入って、舌にじんと響くような甘さでした。
店を出ると、少年たちが金平糖を露地裏の屋台のじいさんから一合一銭で買います。いつもこの屋台で買うので、じいさんも顔なじみでした。
「おまけやで、ボン」一声かけて、ひとつまみ余分に入れてくれます。
そのじいさんの手の深いしわに、ふと故郷の父を思い出いだすのでした。
*挿絵:新京極の雑踏風景
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