a journal of sociology

社会理論・現代思想を主に研究する今野晃のblog。業績については、右下にあるカテゴリーの「論文・業績」から

米大統領選について考えたこと

2016年11月09日 | 社会問題
 米大統領選挙は、トランプの勝利で終わった。これは多くのメディアの予想に反する結果だった。

 私も、ネット上のマスメディアを見ていた限りだが、クリントンの勝利で終わるだろうと予想していた。そうした意味で、この結果には驚いたのだが、ただ他方で、既視感のある現象だとも思った。

 私は、NHKBSでABCの開票速報を見ていたのだが、午前中(日本時間)のある時点で、引退したアンカーマンが涙目でコメントをしていて、「あ、これは何かありそうだな」と私は考えたのだった。

 というのは、私が仏に留学していた時、2002年に仏の大統領選挙があった。そこでは、極右勢力の国民戦線の当時代表だったルペンが、第一回選挙で勝ち残り、第二回選挙に進んだのだった(仏は、一回目の投票の上位2人がのこり、第二回目の投票で決選投票が行われる)。当初は、当時の大統領シラクと、社会党党首で首相だったジョスパンが決選投票に残ると考えられていたが、開票速報では、出口調査からルペンが残るという予想が出て、深刻なームードが漂っていたのを覚えている。

 これは単なる「ハプニング」ではなく、選挙運動終盤のルペンのキャンペーンは明快で、首相であるジョスパンに入れても現状は変わらない、現体制への批判を表明するなら自分に投票しろ、というものだった。

 今回のトランプの主張するのはまさにこれで、現体制への批判票を掘り起こし、投票につなげたようである。

 それから、クリントン陣営は選挙の最終盤で、ビヨンセやレブロン・ジェームスやブルース・スプリングスティーンらが応援に駆けつけたのだが、彼らはみな億万長者で、そうした人々がクリントンを応援するというのは、「既存の体制vsそれへの不満」という構図を裏付けてしまったのではないかと、個人的には思う。無論、こうした「構図」がどれだけトランプへの投票行動に結びついたかは、わからないが。

 それから、ABCでは、選挙の分析を専門とする人々が、普段は選挙に行かないが、現行の社会制度に不満を抱えていた人々が今回は投票所へ足を運び、事前の調査はそうした人々を余り重視してこなかったことを反省していた。

 これは、英のEU離脱に関する国民投票でも見られた現象である。

 社会行動や社会関係の複雑性は、単に世論調査や投票行動に還元されないということを、もう一度考える必要があると言えるのではないだろうか。

 といったことをこの時点で考えたのだが、続きは別の機会に。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。