a journal of sociology

社会理論・現代思想を主に研究する今野晃のblog。業績については、右下にあるカテゴリーの「論文・業績」から

アルチュセール・イデオロギー論の展開可能性?

2005年07月11日 | アルチュセール『再生産について』
 アルチュセールの国家のイデオロギー装置概念が、ブルデューの『再生産』に多くの影響を与えたことは容易に想像できることですが、彼の遺稿『再生産について』(西川長夫他訳 平凡社)の編集をしたジャック・ビデは、アルチュセールが『学校』(未刊行)というタイトルの著作を計画しており、実際の調査にも弟子たちを使って着手していたと述べています。また、私が参加させていただいたこの『再生産について』邦訳には、バリバールの付論がついているのですが、そこでこの『学校』について、彼が論じております。この付論は、バリバールのもとで博士論文を書き上げた、共訳者の大中氏が、バリバール自身から託されたものです。彼はそれだけバリバールから信頼されているという証左といえるでしょう。

 ところでこの『学校』という本の計画、結局、成就せずに終わるわけですが、この計画を受け継いだのがブルデューとパスロンの再生産の議論なのだとか。この『学校』という著作をアルチュセール(と弟子たち)が準備していた資料は、アルチュセールが残したアルチュセール文庫の中で見れるらしいのですが、実際にそれを調べた方からはその話を聞いたことはありません。それから、アルチュセールの愛弟子だったマシュレが、この本の計画について話しているというのも聞いたこともありません。まあ、マシュレはアルチュセールの遺稿出版には一貫して批判的なので、彼の立場は微妙なモノなのでしょうが。

 まあ、こういう話は、本質的な話ではないのですが……。

 さて、この『再生産について』の前書きにおいて、アルチュセールは、哲学と現実の政治的実践の関係を定義することからはじめます。つまり、哲学とは現実の階級闘争の反映なのだと定義しています。

 この辺の彼の著述は、やはり1960年代的ですね。時代錯誤的だとも言えるかもしれません(笑)。でも、哲学と、それを取り囲んでいる社会状況の関係を常にアルチュセールが考えていた点を考慮するのであれば、彼のこの議論にもポジティブな面を見出すことは可能でしょう。

 一見抽象的な理論でも、現実の社会と関係を持っていること、この点をもっとも真摯に考察したのがアルチュセールであり、この点に関してはデリダの比ではないように思われます。

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