超兵器磯辺2号

幻の超兵器2号。。。
磯辺氏の文才を惜しむ声に応えてコンパクトに再登場。
ウルトラな日々がまたここに綴られる。

干物道

2012-03-24 19:44:17 | 食べ物
日曜日は早朝竜泉寺の後、近くの片瀬漁港直売場に足を運ぶのがほぼ習慣化してきている。9時から直売が始まり昼前にはほぼ売り切れてしまう。毎月、第一日曜日は本格的な漁港の朝市として魚介以外に野菜や果物なども並ぶが、その分来場者も多く買い物用のカゴを渡される順番がくるまで1時間近く並ぶことになる。並んでいる間にどんな商品が出ているのか偵察するのは自由だから、超兵器片手に見に行くだけでも十分楽しい。また並んで待っている人達に獲れたての活き魚を捌いて振舞ってくれるのが楽しみだ。昨年10月に頂いた鯵のたたきはこれまでのベスト3に入る超美味だった。春分の日は気温は低いものの久々に快晴で、祝日ながら妻と漁港産直へ向かうことにした。写真は先週のものだが、さっきまで泳いでいた「光るヤリイカ」「小ぶりだが肝ぴっちりのカワハギ」「箸でつまんでもピンと横になるヒコイワシ」である。これら活き魚を楽しむのも目的にはあったが、もう一つは待望の「干物作り」に挑戦である。気温は低いが我が家は日当たりだけはいいので太陽さえ出ていれば部屋の中は暖房要らず、日没まで晴れていれば十分庭で干物を作ることができそうだ。

   

その日の獲物は大きなスズキ、ヒラメ、ホウボウにカワハギ、ウマヅラなどが水槽に泳ぎ、真鯛、ハナ鯛、スミイカ、ヤリイカ、マルアジ、サバなどがところ狭しと並んでいる。我が家お気に入りのイタリアン、腰越の「ロアジ」のマスターや樽寿司の主人なども大きなタモを持って水槽の魚を追っている。料理屋などは朝早くから並んで場所を獲りその日の一番の目玉をだいたいGETしていく-。社用の冷蔵車で乗り付け大型BOX何個分も仕入れて行く業者もある。彼らも業者だからと言って優遇されているわけでもなく、ちゃんと一般と同じように並んで活魚を仕入れて行くのだが、やはり我々は本業にはなるべく譲るようにしている。妻と列に並んで待っているとロアジのマスターは早々と仕入れを終え、大きなビニール袋を下げて戻ってきた。「今日はホウボウの大きいのが上がってますよ。一番大きいので5000円くらいするかなー」7~80センチくらいあるという。「ご家族用に小さいのもたくさんありましたからねー。あとカワハギもいいのがあったよー。大きいのは売り切れちゃったけど」
私はもう一度超兵器203号を首からぶら下げて偵察に向かった。なーるほど、見たこともないほどでかいホウボウが浮かんでいるぞ。スズキもたくさんいるなー。

      

我々は1杯だけ残った小さなヤリイカと水槽のカワハギ、活け締めのホウボウをカゴに入れた。カワハギの箱には私がこれまでに釣ったどれよりも大きなメジナが1匹、後ろのおじさんが購入していた。
うーむ。一度でいいからこんな大物を釣り上げてみたいものだ。私は箱の中にわずか3匹残るマルアジを発見し、すかさずサバと同時にカゴに放り込んだ。むろん帰宅して干物作りに初挑戦するためである。(ちなみに会計の際に1匹小さなサバが混じっていることに気付き、戻してもらった)

      

持ち帰った魚は十分過ぎるほど新鮮なのだ(当たり前か)が、更に美味しく食べるために晩御飯までに夜まで冷蔵庫に入れることはせずに、帰宅してすぐに妻が捌き始めた。いつもながら見事なものだと思う。と言っても他に下ろすのを見たことがないから、もっとすごい人がたくさんいるのは間違いないが、私にとってはこれで十分である。粗方捌き終わるまでに私はネットで色々と「干物の作り方」について調べていた。実にたくさんのサイトがあったが、何となく標準っぽく見えたアジ、サバのレシピを採用することにした。

まず「漬け汁」作りである。お友達からもらってきた発泡スチロール箱を用意した。何々?水1リットルに対し塩を30~100グラム?ずいぶん幅があるんだなー。サバがかなり大きいから大き目の箱を用意したが、1リットルでは水深が足りず全部浸からないので、ペットボトルのミネラルウォーターを2リットル丸々使い、大さじ7杯の食塩をぶち込んだ。レシピには輸入自然塩とか自然海塩他ニガリの効能など色々な裏技が紹介されていた。他に酒、みりん、味の素などすべてお好みでといういい加減さ。。。とりあえず適当に入れてみた。「魚の状態や気温、日光、塩加減などによって全て異なります。試行錯誤を繰り返してみてください」というコメントが気に入った。自分なりのレシピを作り上げればよいということだな。(このいい加減さは我ながら理系とかけ離れていると思う)
全部の材料を入れて念入りにかき混ぜて少しねっとりした正直気味の悪い液体が完成した。。。

  

次は「魚を開く」ことだが、結論から言うと苦戦というより諦めて妻にお願いした。。。刺身にするため3枚に下ろすことはできるのだが、腹からかっ捌いて頭も真っ二つにする「開き」工法はどうやってもうまく行かなかった。しまいには自分に向けて包丁の刃をすっとばす羽目になり、すごすごと妻が開くのを横で見ていた。頭を落とさず背中の皮一枚残して開くなんて芸当は相当練習が必要だ・・・

  

私がやりかけた背中まで刃が通ってしまったアジも含めて3枚、さっき作った妙な液体にしっかり漬けこんだ。漬ける時間を調べると数十分から半日、また一晩と一定しない。また干す時間も同様に千差万別であったので、晩御飯に焼いて家族で食う時間から逆算し、漬け時間は1時間、干す時間は日没までの約6時間とした。

  

太陽光パネル発電のようにバーベキュー用の金網を太陽に向け、頭を下にしたほうがよいと書いてあったのでしっぽを洗濯バサミで挟み込んでセットした。日照時間は問題ないだろう。そのままにしておくとたぶんネコやカラス(まさかハクビシンはないだろう)の攻撃を確実に受けるから、前側もネットで覆い横を洗濯バサミで再び止めた。

    

こうして後は干物として出来上がるのを待つばかり・・・午後から引っ越しのために色々な家財をいただけるというお友達の家を訪ねることになるのである。「どうも心配だなー。ウチにはネコ除け超音波ないしなー。カラスだってオレのバッグから財布だけクチバシで取り出したくらい利口だしなー」「アナタは『干す』ということをしたかったわけね」結局干物の元は自分が捌くことになった妻が皮肉っぽく言った。帰宅すると午後6時近く薄暗くなっていたが、作品は無事に出来上がっていたようだった。

  

焼き上げてもらうと姿だけはちゃんとした干物のように見える。何かと味にうるさい息子甘辛も「うめえじゃんか!」と箸をつついていた。私としてもそこそこの味だとは思ったのだが、どうも何か脂のノリが少し足りないようだ。これは素材の問題かな。また味の沁み方がもう一つ足りないようで、醤油をたらして丁度よいくらいだった。つまり単なる焼き魚と比較的近かったわけである。
まあ、初めてにしてはいいところだろう・・・魚の捌きも覚えなければならないな。また塩や調味料、漬け汁の濃度、漬け時間、干す時間・・・組み合わせでいくと無限に近いパターンが存在してしまう。。。
次にやってみようと考えているのは、「にがりとして海水を使う」という作戦である。漬け汁に海水をそのまま使うのは雑菌が多くてよろしくないと小夏師匠の御教えだ。しかし「にがり程度」なら丁度よいのではないか?と考えたわけだ。これから漁港へ買い物に行く時は必ず干物作製用の魚を購入してこよう。あっと驚くオリジナル傑作を目指し、深き干物道を歩むことにしたのである。