中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

(プラス情報)Z世代は有望 社会を変える力

2024年05月12日 | 情報
Z世代は有望 社会を変える力
The Economist 2024年4月30日

一つの大きな人口動態グループが成人を迎えつつある。1997年から2012年に生まれの「Z世代」だ。この集団に属する人は世界で約20億人に上る。米国と英国ではZ世代が人口の20%を占め、その割合はベビーブーム世代に匹敵する。インドとナイジェリアでは、Z世代の人口がベビーブーム世代を大きく上回っている。
それぞれの世代には特徴的な物語がある。ベビーブーマーは戦後の出産ラッシュで生まれた世代だ。ミレニアル世代は07〜09年の金融危機に大きな影響を受けた。一般的にZ世代はスマートフォンに疲れていて、上の世代より厳しい時代を生きることを余儀なくされているとされる。

精神的不安感が強い世代
欧米諸国では、今日の子どもは親世代より経済的に豊かになることは難しいと世論調査に回答する人が増えている。若い世代自身、マイホーム購入の難しさから気候変動が生活に及ぼす危機に至るまで、幅広い問題を危惧している。
人格形成期に暗いニュースや書き込みをネット上で読みあさり、FOMO(Fear Of Missing Out=取り残される恐怖感)にさいなまれてきたZ世代の間では今や、不安症やうつがまん延している可能性があると社会科学者は懸念する。
米国と英国の政治家は、16歳未満を対象とするスマホの利用禁止やSNS(交流サイト)の利用制限を検討している。親や教師はいたるところで子どものスクリーンタイム(ゲームやスマホなどの画面を見ている時間)に目を光らせている。
これだけの材料をみれば、Z世代について楽観的になるのは難しいような気もする。しかし、世界を見渡し、広い視野でよく見ると、Z世代は必ずしも不運ではないことがわかる。彼らは多くの点において、なかなか恵まれた状況にあるのだ。

新興国の高成長や技術普及が追い風
まず、前述したZ世代の一般的な説明には、重要なポイントが抜け落ちている。世界の12〜27歳の約5人に4人が新興国に住んでいるという点だ。ジャカルタやムンバイ、ナイロビなどでは高い経済成長と技術の普及を受けて、若年層は親世代よりはるかに豊かになっている。
経済的に恵まれているだけでなく、健康状態も良好で教育水準も高い。スマホを所有していれば、情報を集めて活用する力が強く人脈も広い。国連が21年に実施した調査で新興国の若者のほうが先進国の若者より楽観的だと結論付けられたのも、それほど不思議ではない。

だが、世界の中には、ここ数十年間のような急成長が二度と訪れることはないだろうという懸念が根付いている地域もある。顕著な例が中国だ。経済の先行きが不透明なことと、進学率が高まって高等教育の価値が低下するなかで、中国の学位取得者の3人に1人以上が失業している可能性があるとみられている。
先進国の状況は一般的に思われるほど悪くない。Z世代は米国では就業者数で今やベビーブーム世代に迫り、職場の中心で大いに活躍している。労働需要の強さが追い風になっている面もあるが、Z世代が賢明にもセールスポイントになるスキルを身につけていることが役立っている。理工・医学系を専攻する人が大多数であり、人文系の人気が低下しているのだ。

高い賃金上昇ペース
Z世代の賃金は上の世代より速いペースで上昇しており、富裕国では若者の失業率が数十年ぶりの低水準にある。米国で年齢が同じ時点における各世代の実質平均所得(税・社会保障調整後)を比較すると、Z世代はミレニアル世代やX世代を優に上回っている。
一般的にみて、住宅の取得しやすさは1980年代以降確実に低下している。しかしZ世代の場合、賃金上昇率が他の世代より高いため、住宅価格の年収倍率は10年前のミレニアル世代とほぼ同水準にある。さらに、今日の若年層は少なくとも、他の世代より所得に占める貯蓄の割合が大きい。
Z世代はすでに労働市場に変化を起こしている。この世代の労働者は交渉力が強く、自分たちもそれを自覚している。ミレニアル世代の多くが成人を迎えた時期には、金融危機の影響が残っていた。彼らは雇用面で不安感が強く、賃上げを要求することには及び腰だった。一方、Z世代はよりよい機会を求めて転職したり、あくせくせずに人生を謳歌したりすることをためらわないようだ。
この世代への対応に不慣れな上司は不平をこぼすかもしれない。しかし、Z世代の動きによって全社的に賃金や手当が手厚くなれば、上の世代もひそかにZ世代に感謝するだろう。

高い環境意識
Z世代は他の面でも社会を変える可能性がある。若年層は気候変動に対する危機感が強い。彼らが選挙権年齢に達すれば国は政策を実施することを迫られるだろう。より大局的には、世論調査によるとZ世代は大きな政府を求める傾向があることがわかっている。自分たちの納税額が増えるとわかればZ世代も考えを変えるかもしれないが、大きな政府を志向し続ける可能性もある。
Z世代は概して真面目だ。上の世代と比べて夜更かしや深酒、不特定多数との性交渉に浸ることが少ない。これにはマイナス面もある。人と面と向かって交流することや性交渉が少なく、孤独を訴えることが多い。
欧米のほとんどの国では、不安症やうつを訴える人の割合が上昇している。メンタルヘルスに関してオープンに話そうとする風潮の高まりを反映している可能性はある。しかし、それ以外の要因も関係しているとみられる。
SNSが若者の精神にどの程度ストレスを与えているかという点については様々な議論がある。欧米では、SNSの普及と同じタイミングで心理的不安が増大した。だが、その因果関係を証明するデータは限られているし、そのほとんどは富裕国の成人を対象とする調査で得られた結果に基づいている。

技術革命の最前線に立つ世代
明らかに言えるのは、Z世代が技術革命の最前線に立っているということだ。スマホに続いてSNSアプリが世界で急速に普及した結果、ユーザー、特に若者たちは競って有効に活用する方法をマスターしようとした。SNSは娯楽のほか、人や情報とのつながりなどの利点をもたらしたが、その利用には代償も伴った。コンテンツの中には有害なものがあり、勉強や睡眠にあてられたはずの時間が、画面のスクロールに費やされた。
革新的な技術は往々にして欠点を伴うが、人間はこれまでそうした問題に対処してきた。車の危険性に対して、シートベルトと交通規則が安全確保の役割を果たしたことを考えればよい。前向きな動きとして、SNSの利用者はその弊害と利点を比較検討し、使い方を変え始めている兆しがある。
一例として、自分自身のプライベートな情報に関する投稿を不特定多数に公開するのではなく、メッセージアプリの非公開グループに公開する人が増えている。
これまでのところ、若者のスマホ利用を全面的に禁止することを正当化するようなデータや研究結果はない。だが、学校が教室でのスマホ利用を禁じるのももっともであり、親が子どものスクリーンタイムを制限するのもまっとうなことだと言える。
年長者が若者を心配するのは自然なことだ。それでメンタルヘルスへの対応が改善されたり、住宅規制が緩和されて建設件数が増えたりすれば、悪いことではない。Z世
代が持つ創意工夫する力と実際に成し遂げている成功をきちんと評価するべきだ。

(c) 2024 The Economist Newspaper Limited. April 20, 2024 All rights reserved.
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(プラス情報)「職種限定なら同意必要」

2024年05月12日 | 情報
「職種限定なら同意必要」配転めぐる最高裁判決、労働現場はどう変わるか?
5/9(木) 弁護士ドットコムニュース編集部

最高裁第二小法廷(草野耕一裁判長)は4月26日、職種や業務内容の限定について労使合意がある場合、労働者の同意なく配転命令をすることはできないとする初判断を下した。
原告の男性は、技術職として長年働いていたが、事務職への配置転換を命じられたことを不服として裁判を起こしていた。
この最高裁判決によって、転勤や異動に変化は起きるのだろうか。労働問題にくわしい中井雅人弁護士に聞いた。

●企業の配転命令権は「当然に」あるわけではない

――そもそも会社側(使用者)は、労働者の合意なく転勤や異動をさせられるのでしょうか?
一般に、転勤や異動は次のように区別して使われていると思います。
・転勤=勤務場所の変更
・異動=同一勤務地内での勤務部署や職務内容の変更

しかし、裁判実務等においては、これらをまとめて「配置転換」ないし「配転」と呼んでおり、今回の最高裁判決にもそのように記載されています。
大前提として、使用者は労働契約を締結したからといって当然に配転命令権を有することにはなりませんし、使用者に配転命令権があることを規定した法律はありません。
そのため、配転命令が有効になるには、使用者が配転命令権を有していることが必要になります。

●配転めぐる裁判での「二段階審査」

――どんな場合に配転命令権があると言えるのでしょうか?
配転命令権を有していると認められるのは次のような場合です。
・労働者と使用者の間に事前の合意がある場合(雇用契約書の記載等)
・就業規則、労働協約に定めがある場合
ただし、就業規則に定めがあったとしても、労働契約上、勤務地や職種等の限定がされていれば、配転命令権は有していないとされます。

使用者が配転命令権を有していない場合、合意のない配転は法的根拠を欠き無効となります。このことを判示したのが今回の最高裁判決でした。
他方、リーディングケースとされている「東亜ペイント事件(最二小判昭61.7.14)」は、使用者が配転命令権を有していることを前提に、その行使が権利濫用となる(無効となる)判断基準を示したものでした。
つまり、次のような場合では配転命令が有効になり、「労働者の合意はいらない」ということになります。
(1)使用者が配転命令権を有しており、
(2)その行使が権利濫用にならない場合
配転をめぐる裁判ではこの二段階の枠組みがあり、今回は(1)に関する判断が示されました。

●企業側への影響は? 

――最高裁判決の影響という点では、企業側の対応に大きな変化は出るのでしょうか?
今回の最高裁判決が判断したのは、上記のとおり、職種や業務内容限定の合意があれば、使用者には配転命令権がなく、合意のない配転はできないということです。これは下級審判例や学説が前提にしてきたことであり、大きな考え方の変化があったわけではありません。
しかし、二段階の判断枠組みのうち(2)の「権利濫用」が注目されがちでしたが、最高裁の判断が示されたことにより、(1)の「配転命令権の有無」が今まで以上に厳密に判断されるようになることを期待します。
職種・業務内容・勤務地限定の雇用契約が以前よりも増えているようです。そうした雇用形態の実際からすれば、今回の最高裁判決が示したように、(1)の判断が厳密になされる必要がより増すでしょう。

●「限定の合意」、柔軟な判断も?

――今回の事件では、職種・業務内容の限定合意について明確な書類等はありませんでしたが、「黙示の合意」が認められました。どういう場合、限定の合意があったと考えられますか?
合意があったか否かを判断する要素の例としては、次のようなものが考えられます。
・労働契約締結に至るまでの使用者の説明
・職種の専門性
・転勤や異動の慣行
一般論として、求人票や労働条件通知書の記載だけでは、合意が認定される可能性は極めて低いでしょう。これらの書面は、入社直後の業務内容や就業場所を明示するに過ぎないからです。
もっとも、2024年4月から労働基準法施行規則が改正され、入社直後の業務内容・就業場所だけでなく、それらの「変更の範囲」を明示しなければならなくなりました。この「変更の範囲」次第では、合意が認められる可能性が高まるでしょうし、その逆もあるでしょう。
今回の最高裁判決でも、当該労働者が「福祉用具センターにおける上記の改造及び製作並びに技術の開発に係る技術職」という職種の専門性の高さ、2001年に雇用されてから長年にわたって同技術職として勤務してきたこと等が、原審において「職種及び業務内容を上記技術職に限定する旨の合意」を認定する根拠になっていると思われます。
このように、職種・業務内容の合意が、「黙示の合意」だとされている点も注目されるべきです。
これまでも下級審判例では職種や就業場所について「黙示の合意」の成立を認める裁判例もありましたが、今回の最高裁判決も「黙示の合意」を前提に判断したことから、今後類似事例において、より柔軟に「黙示の合意」の成立が認められるようになることを期待します。

●「合意のとり方」もポイントに

――合意に至る経緯も問題になってきそうです。不利益を示唆されるなどして強引に同意がとられたりしないでしょうか?
上記のとおり、今回のような限定合意のケースも含め、使用者が配転命令権を有していない場合、合意のない配転は法的根拠を欠き無効となるわけですが、それにもかかわらず、その配転を実施したい場合、使用者は、配転に合意するよう説得を試みることがあり得るでしょう。
社会通念上相当な説得であれば適法です。しかし、社会通念上相当な範囲を超える説得は不法行為と評価される可能性があります。
また、社会通念上相当な範囲を超える説得や提供するべき情報を提供しない等の状況下でなされた労働者の「合意」は、自由な意思に基づいてされたものと認められないとして、無効とされる可能性もあります(山梨県民信用組合事件・最二小判平28.2.19)。

――このほか、気になる論点はありますか?
職種・業務内容や勤務地の限定の雇用契約の場合、当該職種・業務や勤務地が廃止される場面での解雇が問題になり得ます。

しかし、結論から言えば、従来から判例で積み重ねられてきた整理解雇(経営上の理由による解雇)の4要件をみたさなければ当該解雇は無効です。
整理解雇の4要件とは以下のとおりですが、当然今回の最高裁判決によって左右されるものではありません。
(1)人員削減の必要性
(2)解雇の必要性(解雇回避措置の履践等)
(3)人選の合理性
(4)解雇に至る手続が労使間の信義則に反しないこと
職種等廃止による整理解雇の場合、職種等を廃止する必要性・合理性を当該労働者に十分に説明すること、当該労働者の適正や希望等を考慮しながら職種等の変更を伴う配転の同意を求めること等が特に重要になります(4要件のうち(2)や(4)と関連)。

【編注】今回の裁判も、発端は原告の男性が従事していた事業の廃止にあったとみられます。男性は同意のない配転後、精神疾患を発症したといい、休職期間満了で退職扱いとなり、現在は退職無効を求める別の訴訟も起こしています。

【取材協力弁護士】
中井 雅人(なかい・まさひと)弁護士
日本労働弁護団、大阪労働者弁護団、大阪弁護士会人権擁護委員会国際人権部会(2020年度より部会長)などに所属。残業代請求、解雇、労災、労働組合事件など労働者側の労働事件に専門的に取り組んでいる。入管事件や名誉毀損・差別問題にも取り組んでいる。
事務所名:暁法律事務所
事務所URL:http://www.ak-osaka.org/



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