職場の交流減った今こそ 社員旅行復活だ
あえて宴会、会話弾む 離職防止、参加気軽に
2017/8/21付日本経済新聞
社員旅行で職場のコミュニケーションを取り戻そうとする企業が増えている。
やりとりがメール中心になり、社員同士の接触が減ったことへの危機感が背景にある。
復活した社員旅行は参加者の要望を取り込むが、あえて旧来の宴会型にこだわる企業もある。
住宅や運動施設などの設計・施工管理を手掛ける申建築設計事務所（東京・千代田、社員９人）は５月、
1990年代のバブル崩壊後、約20年途絶えていた社員旅行を復活させた。
平日に通常の仕事を休み、金沢市まで１泊２日。旅行復活を言い出した社長の赤間太一さん（43）は
「自分と社員との間や、社員同士のコミュニケーションを改善し、同時に研修や福利厚生の機会にしたいと思った」と話す。
90年代より事務所の規模は小さくなったが、収益改善の追い風があった。
幹事はデザイン担当の伊藤貴由輝さん（40）。伊藤さんにとって社員旅行は初体験だったが
「若手に気を使わせない旅にすることを意識した」という。このため宿泊はホテルの個室で、自由時間を多く取った。
当日の参加者は28～66歳の７人。新幹線で向かった金沢市では斬新な設計で知られる金沢21世紀美術館や、
古典建築が残る金沢城跡を歩き回った。夜は海の幸あふれる夕食を楽しんだ後、街中のカラオケで盛り上がった。
赤間社長は「旅行後、ふだん無口な社員と話す機会が増えるなど変化があった。来年も続けたい」と話す。
産労総合研究所（東京・文京）の2014年の調査によると、94年には88.6％の企業が社員旅行をしていた。
バブル後の不況や成果主義導入による企業風土の変化、女性社員の増加などで中止が相次ぎ、04年の実施企業は36.5％と半分以下に。
その後じわりと見直され、14年の実施企業は46％に盛り返した。
その理由で大きいのは社員同士が直接話さなくなっていることへの危機感のようだ。
一般社団法人日本経営協会（東京・渋谷）の「ビジネス・コミュニケーション白書2015」によると、
企業や官庁で、コミュニケーションの場として「執務場所」を挙げた人は44.3％で、11年時点の調査より14ポイント強も減った。
一方、15年から選択肢に加えた「メールやＳＮＳなどバーチャルな場の利用」は51.6％にのぼる。
同協会経営研究センター主任研究員の田中康人さんは「メールでは意思疎通が一方通行になりやすいと考えている組織は多い。
対策として社員旅行や懇親会など社内イベントを挙げる企業が目立つ」と話す。
ＩＣＴ（情報通信技術）活用と同時に、社員旅行を重視する企業に技術者派遣のメイテックがある。
同社はリーマン・ショック後の09年に研修旅行を中断。ショックの影響が薄れた11年、いち早く再開した。
技術者は全員が正社員だが、働く場所は派遣先企業であることがほとんどで、日常は会社との一体感を持ちにくい。
このため「自立と支え合いの精神を再確認する機会として社内イベントを積極活用している」（広報部）という。
イベントは上期が家族も参加できるバーベキューなどの日帰り。下期が１泊研修旅行だ。
メイテックと子会社のメイテックフィルダーズ（東京・港）の計53カ所ある営業拠点単位で旅行に行く。
千葉拠点では49人が２月の土・日曜日にビール工場を見学し、つくば市の旅館に泊まった。
滋賀県の拠点では180人が大津市の温泉旅館で研修とフットサル、宴会を楽しんだ。
旧来型の宴会手法で「社内のイベント委員が演出するダンスやビンゴゲームで盛り上がる」（広報部）。
一方、「中小企業の経営者は社員旅行で離職防止を図りたいと考えている」と話すのは、
神奈川県で年間200件ほどの社員旅行を手掛ける旅行会社、旅コレクション（横浜市）の荒井佳代子社長だ。
同社はホームページに(1)ディスカッションの旅(2)宴会重視のコミュニケーションの旅(3)工場見学などインスペクションの旅――の
３種類の社員旅行を紹介し、月２万件のアクセスがある。成約の７割がコミュニケーションの旅だ。
離職防止を重視する以上、社員に参加への負担をかけないことが大切。
このため同社は宴会の演出ノウハウも提供する。例えば普段の社内序列を無視した「格付けゲーム」。
「高級ワインと安いワインを食通と呼ばれる上司に当てさせる。外しても当たっても盛り上がる」と荒井社長。
職場のコミュニケーションを改善すれば、社員がうつ病など心の病にかかることを防ぐ効果もある。
夏休み明けの９～10月、社員旅行を復活させる企業はさらに増えるだろう。（礒哲司）
