中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

復職させる職場がない

2013年11月06日 | 情報
質問がありました。
主治医の診断書には、職場復帰を可とするが、職務は軽減措置が必要であると付記されていました。
しかし、間接業務や単純作業はアウトソーシングしており、それに、ぎりぎりの人数で会社経営をしている現状から、
復職者に相応しい、軽減業務などはない。どうしたらよいものか、という内容でした。

以下に対応策を提案します。

まず、復職可の診断書を書いた主治医に質問してください。
「職務は軽減措置が必要である」と書いてあるが、どのような理由からか、軽減措置とは、具体的にどういうことか。
ひとつは、患者である従業員の希望が、反映されている場合です。
主治医は、「患者本位」ですから、患者から強い希望があれば、職場の現状などを考慮しないままに、
「軽減措置が必要」と書いてしまうのです。特に理由はありません。
また、主治医の意思で付記する場合は、いきなり原職復帰では、荷が重いと主治医が想像してしまうということです。
なにしろ、「寛解」の状態で、復職可の診断書を発行しますので。
主治医の考えを咀嚼しながら、当該従業員の職場復帰策を検討しましょう。

次に、軽減業務が必要と判断した場合は、どうするかということです。
まず、産業医と、従業員の意見を聴取します。産業医に、主治医の診断書と、主治医の意見を報告し、
産業医から復職に関するアドバイスを受けます。
それから、従業員本人に主治医、産業医の意見・アドバイスを示しながら、会社の実情を説明し、従業員の希望を聴取します。
従業員本人が、原職での軽減業務を希望する場合がありますが、会社側はその通りにする必要はありません。
場合によっては、原職復帰できるまで休職されることも可能です。
しかし、原職と同様な業務での軽減業務でもよいと、従業員本人が希望する場合は、軽減業務に就かせることが求められます。

判例では、「新たに職務をつくるまでの必要はない」ということになっています。
従って、会社内に相応しい業務は、本当にないのか検討してください。
先日、精神科専門医の先生から聞いた事例ですが、高学歴で発達障害から回復した従業員がいたが、
今までは課題となっていた、外国の専門的な文献を翻訳する業務に就かせたら、ぴったりとはまり、
現在は生き生きと働いているとのことでした。

「そうは言っても、やはりないよ」と言うなかれ。
例えば、原職復帰できないのであれば、給与等の待遇を一時的に下げることもできます。
その原資を、派遣社員に振り向けて、二人で業務を担当するなどのことも検討できます。
ただし、この場合、就業規則にあらかじめ定めておくことが必要になりますが。

または、各部門、各担当者に共通する定型業務を集約して、復職者に担当させることも検討してください。
これにより、各部門、各担当者がクリエーティブな業務に集中することができますし、さらには残業時間の削減効果も期待できます。
ということで、必要は発明の母ですから、頭の中を柔軟にして考えてみてください。

近畿大学法学部の三柴教授の助言を紹介します。
「困難な障害を経て快復に至った労働者には、十分な快復と客観知識の習得を前提に、
組織内のメンタルヘルス対策の要とし活躍してもらう方途も考えられる。
疾病障害り患と復調の経験者であれば、対象者の状況に対する理解も及びやすく、正直に話を伝えやすい、という不調者もいるであろう。
そして、企業や職場に「大切にしてもらった」という感謝の気持ちを持ちうる人材ならば、
そのような職務のみならず、組織に貢献する職務であれば、誠実に取り組んでくれるようになる可能性もあり、
また、周囲の労働者の組織への帰属意識を高める核となる可能性もある。
不調者を不用意に切り捨てる姿勢は、そのようなチャンスを失し、
場合によっては、周囲の者の帰属意識を低下させる危険性をはらむことは、銘記されるべきであろう。」




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