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ぽかぽか春庭「ひらがな五十音・春庭漢字話」

2020-06-18 00:00:01 | エッセイ、コラム
20200618
ぽかぽか春庭ことばのYaちまた>春庭漢字話2020(2)ひらがな五十音

 春庭の日本語教師日誌から、漢字の話を再録しています。昨年夏に続けた漢字の話と同じような話題ですが、今回はひらがなの話もプラス。
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2008/12/24
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>感じる漢字(10)あいうえお五十音について

 漢字を使って、日本語の音韻を表現しようと苦心を重ねた万葉古事記の時代。
 仮名と発音について、また五十音表の成立についてお話しておきます。

myth21hideさんのコメントより( 2008-12-23 09:36)
質問その3:「いろは」ができる前に「あいうえお」?、いろはがあるのに「あいうえお」、国語として完成したのは明治時代。

春庭回答: 「いろは」ができる前に「あいうえお」?というコメントの趣旨は、江戸時代は「いろは」で手習い、明治からは「あいうえお」で仮名を習ったということから「あいうえお仮名表」明治時代からのものだ、という「一般的な誤解」について注意を喚起しているものと思われます。

 myth21hideさんは、江戸時代の国学者谷川士清が「あいうえお」配列の辞書を編纂したことをカフェ日記に記述し、明治政府が「いろは仮名」ではなく、「あいうえお仮名表」を採用したことについて書いていらっしゃる。

 ただ、「あいうえお」が梵語(サンスクリット語)研究から出発し、早い時代にすでに和語研究に取り入れられていることを見逃していらっしゃるので、補足したいと思います。

 共通語として「現代標準語」が作られたのは、明治政府の「国家語」「国民語」を作りたいという要望によってであり、上田万年ら国語学者が寄り集まって「江戸山の手語」その他を混ぜ合わせて作り上げたことは、「近代日本語の成立研究」によって知られています。

 国語教育史の上では、小学校教育用の「仮名表」の採用事情が研究されています。
 明治の国語学者たちは、江戸時代の教育との差別化をはかるために、江戸の手習いで普及していた「いろは」を捨てて、奈良時代平安時代の梵語(仏教語・サンスクリット語)研究で使われていた「あいうえお」の表を採用しました。

 江戸時代までは「いろは」、明治時代からは「あいうえお」というのは、こどもの仮名教育用にはそうであるけれど、「あいうえお」の起源は古く、文献で残されている限りでは平安時代初期にさかのぼります。「あいうえお表の成立」は「いろは歌の成立」より早いのです。
 「あいうえお」の表は、サンスクリット語の発音研究によって和語の発音にあてはめて作られたものです。

  文献でたどれる「あいうえお五十音表」は平安初期ですが、仏教や梵語、漢語が入ってきたときから、母音の「あいうえお」は、文字を読み書きする人たちには知られていたことでしょう。

 万葉集を編纂した大伴家持ら、奈良時代の知識人もおそらく知っていたことと思われます。彼らは、和語に漢字をあてること日本語を中国の文字で書き表すことと、日夜真剣に取り組んでいたのですから。
 ただし、奈良時代の母音は、朝鮮語など大陸系の母音発音の影響を受けて、八つの母音が書き分けられています。甲類と乙類合わせて八種類の母音があったことを、江戸国学者石塚龍麿らが気付いていました。この論をまとめたのは橋本進吉『上代特殊仮名遣(じょうだいとくしゅかなづかい)』
 橋本の説に異議を唱えたのは、松本克己、森重敏ら。私は松本説を支持しています。

 日本語研究は、漢字と漢文、儒教仏教の導入を行った大和飛鳥時代から連綿と続けられております。江戸時代の、本居春庭、富士谷御杖、富士谷成章、鈴木朖、東条義門ら、すぐれた国語学者の研究成果を、現代の私たちも注目してしかるべきです。

 明治期からの西洋文法を取り入れた文法研究は「国文法」として学校教育に取り入れられておりますが、奈良時代からの「和語研究」にもっと注目してよい。私は、日本語文法は西洋語(印欧語)とは別の観点で記述すべきだという立場に立っています。

 馬渕和夫『五十音図の話』などに、あいうえお五十音図について詳しいので、ご一読を。

 『ことばの散歩道』というサイトを運営している信太一郎さんは、五十音図の解説の末尾に、「私は大学に入るまで、五十音図というのは、ローマ字を教えるため、明治ごろに作られたものだと思っていた。このような精密な音の分析が古くから東洋で行われていたことは、学校でもっと早くから教えられてもいいことだと思う。」と、述べておられます。

 私も似たような誤解をしておりました。日本語学を学ぶまで、「いろは」は「あいうえお表」より古い、と信じ込んでいましたから、信太さんの感想に同感です。
http://homepage1.nifty.com/forty-sixer/50onzu.htm

<つづく>

2008/12/26
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>春庭の漢字検定(12)牛の角文字で大丈夫

 学生に課したニホンゴクイズの出題。教師の例題は、よく知られた「父には二度会へども母には一度も会わず」答えは「くちびる」
 日本語の発音変化の一端がわかる問題です。(解説は一番したに)

 教師例題が「後奈良院のなぞなぞ」だったので、日本語学受講生の2年生レイナさんは、吉田兼好が『徒然草』のなかに書き留めている「なぞなぞ」をトリビアクイズとして出題しました。兼好の時代に流行っていたなぞなぞのひとつ。昔の人もクイズは好きだったのですね。
 ある恋文に書かれた文面、ひらがなの書き方についてのなぞなぞになっています。

クイズその2:「ふたつ文字 牛の角(つの)文字 直ぐな文字 歪(ゆが)み文字とぞ 君は覚ゆる」と、書いてある手紙、いったい何を伝えたかったのでしょうか。

 答えは「恋しく」。ふたつ文字=「こ」、牛の角文字「い」、すぐな文字「し」、ゆがみ文字「く」。
 「い」を牛の頭の2本の角に見立てています。牛の角文字を「ひ」と解く答えもあります。「ひ」の下の丸い部分は牛の顔。左右の横に出ている部分を角に見立てた場合。この場合は「恋しく(こひしく)」となります。どちらにしても、手紙の相手への「恋心」を訴える文面と言うことになります。

 このクイズの解説として、教師が変体仮名の話をすると、日本人学生達「そんな文字があったなんて、初めて知った」と言います。高校で古文を選択しなくてもよい学校も増え、古文授業を選択したとしても古典文法と読解中心ですから、入試には出題されることのない変体仮名のことなど、授業では扱わないのです。

 日本語教師養成コースに在籍している中国人学生ルイさんは、「私は日本の小学校中学校高校に通い、中国語と同じくらいに日本語ができるから、すぐに日本語教師になれると思っていたけれど、まだまだ日本語について知らないことがたくさんあることに気づいた」と、授業の感想コメントを書いていました。
 そうです。まだまだ知らないことが山のようにあり、日本語の世界は奥深いのだと気づくことが日本語教師への第一歩。

 ルイさん出題のトリビアクイズは「日本語と中国語で意味が異なる漢字熟語」
 日本人が誤解しやすい中国語をクイズにしました。
例題)愛人→中国語では「配偶者・奥さん」。手紙→中国語では「トイレットペーパー」。

 では、次の漢字の語、中国語ではどんな意味になる?
クイズその3:1)大丈夫 2)工作 3)湯 4)走 5)飯店 6)汽車 7)娘 8)看病 9)経理 10)改行

答え:大丈夫→中国語では、強い夫。工作→中国語では仕事。湯→中国語ではスープ。走→中国語では歩く。飯店→中国語ではホテル。汽車→中国語では自動車。娘→中国語では、目上の既婚女性(母親も含む)。看病→医者による診察。経理→経営者。総経理→社長。改行→商売を変える・転職する。

 日本人学生たち、漢語は中国語から来ているので、筆談すれば中国人と会話できると信じていたので、まったく意味が異なる中国語もあるのだ、ということに興味を抱いていました。これは、日本語教師が中国人学習者に注意を呼びかける漢字熟語の例でもあります。中国出身の日本語学習者の中に、日本語の漢語は簡単に意味が覚えられると、甘く考えている学生もいるからです。
 かわいい日本の女性から「手紙ください」というメモをもらったのに、なぜトイレットペーパーなど欲しがるのか不思議だったので放って置いた、という失敗例を笑い話として紹介し、しっかり日本語の意味を覚えないと、せっかくの恋のチャンスも失うことになるよ、と注意するのです。

 さて、「注意」という語、日本語では「ちゅうい!」ですね。それではクイズです。
クイズその4:ベトナム語で「注意」にあたることばは何というでしょうか。

 答え:チューイ

 この一致は、偶然ではありません。ベトナム語語彙の70%は、漢語を基にしているのです。

<つづく>
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20200612
 後奈良院(105代天皇1497-1557)のなぞなぞの解説です。「母はは」の発音は大昔は、PaPaでしたが、しだいにFaFaに変化しました。江戸時代以後、FaFa→HaHaに変化。現代語発音で「はは」と発音しても唇はくっつきませんが、後奈良院の周囲で「はは」が「FaFa」の発音だったとすると、上下の唇は近づきます。「はは」と発音すると、上下の唇は二度近づきます。一方「ちちTiTi」は唇はくっつきません。母の発音で2度合い、父の発音では1度も合わない。答えは「くちびる」 
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