医科栄養学・栄養医学ブログ

医学部で医科栄養学を学んだ経験と最新の栄養医学をこのブログに反映したいと、考えています。

ギャバと統合失調症の病態生化学的関係について 栄養医学ブログ 日本ビタミンC研究会 藤井毅彦

2021-05-05 09:40:35 | 栄養医学、ニュートリシィオナル サイエン

トマトなどに含まれる栄養成分のギャバGABA)は、統合失調症を始め睡眠障害などいろいろな病態との関係が注目されています。また、その疾患の病態生化学的機構は大変複雑で、病態生理学、病態生化学の専門家も頭を抱えていますが、いろんなアプローチで次第に解明されつつあります。なお、ギャバはトマト、バナナ、ブドウ、ケール、漬物、ヨーグルト、パプリカ、メロンなど身近な食材に含まれています。

Tiago Reis Marques博士らの研究によると、ギャバシグナル伝達の低下は精神病薬の投与を受けていない統合失調症患者では、脳の海馬領域のα5-GABAARs値がより低値であり、GABAシグナル伝達の機能低下は、その障害の病態生理の基礎となる仮説と一致しています。

上記の研究は、抗精神病薬の投与を受けていない統合失調症患者は、海馬でのギャバ受容体がより低値で、主にα-5-サブタイプであり、抗精神病薬の治療を受けた統合失調症患者では見られません。これらの発見は、ギャバのシグナル伝達の機能低下は、その障害の病態生理の基礎となる仮説と一致しており、統合失調症に対する治療標的としてのギャバ作動性調整因子の可能性に焦点が当てられています。

Anouk Marsman博士によると、ギャバとグルタミン酸塩は、7TのH-MRSを用いて、統合失調症患者と健常者において調べられました。統合失調症患者では大脳の前頭葉前野のギャバ値が著しく低く、グルタミン酸塩では変化は見られませんでした。前頭葉前野のギャバ値は統合失調症患者の全IQと負の相関が見られました。これらのことは、前頭葉前野皮質でのグルタミン酸塩値とは別に、ギャバと関係するメカニズムが存在することが示唆されます。ギャバは統合失調症患者の前頭葉前野皮質における代償性機能を有する可能性があります。

以上、これらの研究は、全研究の一部ですが、ギャバと統合失調症の関係に関する研究は、内外で活発に行われていますので、近々に解明に近づくものと思われます。なお、ギャバは、経口摂取では脳血液関門を通過できないとのことですが、ある種の乳酸菌やギャバの経口摂取により、腸にあるギャバ受容体が刺激を受けて、その刺激が脳と腸を繋ぐ中枢神経系を伝わって大脳に届き、大脳内でのギャバ産生能が高まるとの研究もありますので、ギャバの経口摂取も統合失調症患者には有益でないかと考えられます。ギャバは副作用も大変少ない栄養成分なので、試してみる価値があるのではないかと考えています。更なる研究を期待しています。

References

Alessandro Guidotti, et al. GABAergic dysfunction in schizophrenia. Psychopharmacology. 2005 Jul;180(2):191-205

Albert C Yang,et al. New targets for schizophrenia treatment beyond the dppamine hypothesis. Int J Mol Sci. 2017 Aug;18(8):1689

A Wasser,et al. GABA and Schizophrenia. Clin Psychopharmacol. 2003 Dec23(6):601-40

Tiago Reis Marques, et al. GABA-A receptor differences in Schizophrenia. Molecular Psychiatry(2020)

Anouk Marsman, et al. GABA and Glutamate in Schizophrenia. Neurolmage:Clinical. Vol6,2014. pages 398-407