医科栄養学・栄養医学ブログ

医学部で医科栄養学を学んだ経験と最新の栄養医学をこのブログに反映したいと、考えています。

腸管バリア機能障害と炎症性腸疾患への食物繊維、酪酸塩、L-カルニチンの効果について その三 栄養医学ブログ 藤井毅彦

2023-02-24 17:20:47 | 栄養医学、ニュートリシィオナル サイエン

腸内細菌の重量は約1.5kgほどあり、腸内細菌は腸内環境に大きな役割を果たす一方、腸管は一層の粘膜上皮に囲まれた空間で、粘膜上皮によって体の内部と外部が区切られています。粘膜上皮は、栄養素の消化・吸収だけでなく、有害物質や細菌の体内への侵入を防ぐバリアとして、腸管免疫系に関わっています。また、腸管上皮細胞は多様な細胞群で構成され、腸内環境を調整すると考えられています。

腸管フローラと腸管免疫

研究によると、腸管バリア機能の低下が自己免疫性膵炎の発症に関係し、腸内環境の悪化により、免疫系に異常を起こし、腸管バリア機能の低下をもたらし、病原性細菌(シウリ菌)が血中に漏れ出、膵臓に炎症を発症さすと考えられます。すなわち、腸内細菌のバランスの乱れが腸管バリアの破綻をおこし、それに乗じてシウリ菌が血中に入り、膵臓に移動し、自己免疫性膵炎を発症すると、考えています。

腸管の炎症とプロバイオティクス、L-カルニチン

プロバイオティクスは、直接的、間接的にNF-kBの誘導に対し防御効果を有し、IKB-αの低下を遅らせます。そうすることで、プロバイオティクスはNF-kBの活性化を阻害し、TNF-αとその他の炎症性サイトカインの発現を阻害します。加うるに、SODとカタラーゼのような抗酸化酵素を産生することにより、抗ROSとして作用し、腸管の炎症を抑え、腸管バリアを保護します。次に、L-カルニチン(リジンとメチオニンから体内で生合成されるビタミン様栄養素)は、酸化ストレスの活性因子であるmyeloperoxidaseとmalondialdehyde値を減少させ、抗酸化作用を有します。L-カルニチンは、SODをを強く調整し、glutathione値の減少を防ぎ、lipid peroxidesの蓄積を阻害します。それゆえ、ROSの形成と活性化を抑制し、NF-kB経路の阻害をもたらし、腸管の炎症を抑え、腸管バリアの損傷を防ぎます。これらは、単独でも効果があるが、プロバイオティクスや酪酸塩を併用することにより、効果が高まると考えられます。更なる研究が期待されます。

References

Sahar K Heqazy, et al. Effect of probiotics on pro-inflammatory cytokines and NF-kB activation in ulcerative colitis. World J Gastroenterol. 2010 Sep7

Silvia Resta-Lenert, et al. Probiotics and commensals reverse TNF-α and IFN-y-induced dysfunction in human intestinal cells. Gastro.2005,12.015

Mahsa Moeinian ,et al. Synergistic effect of probiotics, butyrate and L-carnitine in treatment of IBD. Journal of Medical Hypotheses and Ideas. Vol7, Issue2, July2013

 


腸管バリア機能障害と炎症性腸疾患への食物繊維、酪酸塩、L-カルニチンの効果について その二 栄養医学ブログ 藤井毅彦

2023-02-20 16:07:57 | 健康・病気

腸管バリア障害と栄養因子(食品成分)

腸管バリアを保護したり、腸管細菌叢を改善する食品成分が、腸管バリアが細菌や有害物質が血中に漏れないように防御して、それらを含む血液が腎臓に炎症を起らさないようにし、慢性腎不全を予防したり、遅延できる可能性が考えられます。なお、食物繊維の摂取は、腸管バリアを構成する腸管接着バリア構造の損傷と腸管組織の炎症状態を軽減できると考えられます。

腸管粘膜バリア機能が弱まると老化が促進され、腸漏れ(リーキーガット)が体の様々な不調をもたらします。腸管バリア機能が、加齢、ストレス、炎症性腸疾患、自己免疫疾患などの影響で機能しなくなったとき、乳酸菌や発酵食品が腸管バリア機能をサポートする、と報告されています。また、腸管は粘膜で覆われており、粘膜を構成する粘液の主成分ムチンは、腸では主に杯細胞で産生され、病原菌や毒素から腸管を守っています。

炎症性腸疾患とその抑制栄養成分

Mahsa Moeinian博士らの研究によると、酪酸塩は、結腸細胞での酪酸菌の発酵により産生され、潰瘍性大腸炎やクローン病患者の結腸内は酪酸塩を作る酪酸菌が少ないため、結腸粘膜層の粘液の産生が減少しています。また、酪酸菌のサプリメントは、大腸内で酪酸になり、腸内環境を整え、酪酸塩は、IkB-α、もしくはIkB-βのリン酸化を抑制することにより、IkBkinaseに影響を与えます。このことは、NF-kB経路の刺激を減少させ、反応性酸素値を低下させます。さらに、炎症の間、生ずるTNF-αの上昇を防ぎ、silencer of death domain protein(TRADD)と結び付いたTNF-レセプターというアダプター蛋白質を分離させます。ちなみに、TRADDは、最終的にリボゾーム不活化蛋白質と因子2(TRAF2)と結び付いたTNF-レセプターを活性化します。これらの活性化された蛋白質は、IKKとNF-kBを刺激し、腸管の炎症を抑えます。なお、研究の積み重ねにより、腸管バリアの損傷を防ぐ栄養医学的対策が期待されます。

References

Sahar K Heqazy, et al. Effect of probiotics on pro-inflammatory cytokines and NF-kB activation in ulcerative colitis. World J Gastroenterol. 2010 Sep7

Silvia Resta-Lenert , et al. Probiotics and commensals reverse TNF-α and IFN-y-induced dysfunction  in human intestinal epithelial cells. Gastro. 2005, 12.015

Mahsa Moeinian , et al. Synergistic effect of probiotics, butyrate and L-carnitine in treatment of IBD. Journal of Medical Hypotheses and Ideas. Vol7,Issue2,July2013

 

 

 


腸管バリア機能障害と炎症性腸疾患に対する、食物繊維、プロバイオテイクス、酪酸塩、L-カルニチン併用の相乗効果について 栄養医学ブログ、日本ビタミンC研究会 藤井毅彦

2023-02-19 15:41:32 | 栄養医学、ニュートリシィオナル サイエン

慢性腎不全と食物繊維

腸管粘膜バリア機能は、加齢、ストレス、炎症性腸疾患などで体力が低下し、そのバリア機能が傷害されます。広島大学鈴木卓弥博士らによると、慢性腎不全時の腸管バリア損傷と食物繊維による腸管バリア保護作用には、腸管のタイトジャンクションバリアを損傷する因子と保護する栄養因子が複合的に関わると考えられます。主要な腸管細菌代謝物の短鎖脂肪酸は腸管タイトジャンクションバリアを保護したり、強化することが知られ。また、慢性腎不全患者の糞便中の酪酸(酪酸菌が腸内で産生する善玉菌)が減少することが報告されています。さらに、慢性腎不全マウスにおいて、短鎖脂肪酸(酢酸、酪酸、プロピオン酸など)の低下が腸管バリアの脆弱化に部分的に関与し、そのJ脆弱化により、腸管粘膜から細菌や毒素などが血中に移動し、肝膿瘍や慢性腎不全、その他の疾患を誘発すると考えられます。そして、腸管内での食物繊維による短鎖脂肪酸の増加は、腸管バリア保護効果の一端を担っていると考えられます。なお、慢性腎不全の病因は複合的ですが、腸管バリアの損傷や全身性の慢性炎症状態も重要な要因と考えられます。

炎症性サイトカインとプロバイオティクス、酪酸塩、L-カルニチン

Sahar K Heqazy博士、Silvia Resta-Lenert博士、それにMahsa Moeinitan博士らの研究によると、炎症性サイトカインのNF-kBやTNF-α、それに酸化ストレスが、腸での炎症の誘導において、とても重要な役割を果たすことがわかってきました。研究により、プロバイオティクス、酪酸塩、L-カルニチンが、NF-kB、TNF-αを含む、主たる炎症性サイトカインを減少さすことにより、腸での炎症を制御できる可能性があることが、わかってきました。プロバイオティクス、酪酸塩、L-カルニチンは、抗酸化酵素を刺激し、IkBkinaseを阻害します。また、いろんなメカニズムによる炎症に対し、これらの栄養因子を併用摂取することにより、炎症の軽減と炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)の緩和作用において、相乗的効果を有する可能性があります。今まで行き詰まっていた炎症性腸疾患の予防と治療に、光明が差す可能性があります。さらなる研究が俟たれます。

References

Sahar K Heqazy, et al. Effect of probiotics on pro-inflammatory cytokines and NF-kB activation in ulcerative colitis. World J Gastroenterol. 2010 Sep 7

Silvia Resta-Lenert, et al. Probiotics and commensals reverse TNF-α and IFN-y-induced dysfunction in human intestinal epithelital cells. Gastro.2005,12.015 

Mahsa Moeinian, et al. synergistic effect of probiotics, butyrate and L-carnitine in treatment of IBD. Journal of Medical Hypotheses and Ideas.Vol7,Issue2,July2013

鈴木卓弥, 腸管タイトジャンクションバリアの重要性と食品成分による制御,milk Science.vol69,no.3 2020

 

 

 

 

 

 

 

 

 


ガンの炎症反応に対するビタミンCの作用について 栄養医学ブログ 日本ビタミンC研究会 藤井毅彦

2023-02-10 14:25:55 | 健康・病気

ガンへの効果を確認するため、炎症指数の変化が参考になります。ガン患者へのビタミンC点滴療法では、その効果は炎症反応をどれだけ抑制したかを調べると、ビタミンC点滴の効果が確認できます。

モルモットでの研究によると、ガンの成長は、ガンの内部ビタミンC濃度がmM(ミリモル)レベルに達した時、著しく低下しました。なお、炎症と酸化ストレスは、T-細胞機能不全に伴う炎症システムの調節低下の原因になります。このことは、ガン、感染、それに自己免疫疾患などで説明可能です。ガンや他の炎症では、T-細胞受容体ゼータチェインは、T-細胞とナチュラルキラー細胞の不能性が改善されるのを切り裂きます。

また、いくつかの研究では、慢性の炎症は、骨髄性サプレサー細胞により生ずる活性酸素種の高濃度に対する免疫抑制機構の誘導に抑制的になります。臨床的にこのことが起ると、ガン患者の予後は悲惨なものになります。in vitroの組織培養実験では、ビタミンCによってT-細胞受容体の開裂の逆転が示され、ビタミンCによる治療結果は、T-細胞とNK細胞の免疫機能を高めます。このように、基礎研究でも、ビタミンCのガンへの効果が証明されています。更なる研究が待たれます。

References

Nina Mikirova, et al. Effect of high-dose intravenous vitaminC on inflammation  in cancer patient. Journal of Translational Medicine. 2012, 10:189

Coussens  LM, et al.Inflammation and cancer.Nature.2002,420;860-867

 


ガンの炎症指数(CRP)の改善とビタミンC療法の効果について その二 日本ビタミンC研究会 藤井毅彦

2023-02-02 16:11:38 | 健康・病気

前回に引き続いて、ガンの炎症指数(CRP)とビタミンCの関係について考えていきたい、と思います。リオルダン博士によると、炎症は前立腺ガンにおいて根源的で、慢性炎症は、前立腺ガンの化学的予防と治療への指針となると考えられ、炎症のプロセスは、組織学的には良性の前立腺の増殖の進行に役割を演じます。急性と慢性の炎症性浸潤は、良性前立腺肥大(BPH)の男性から得られた前立腺組織の標本で通常見られ、より高い炎症値は、さらに大きくなった前立腺で観察されます。

このように、ガンの診断と炎症マーカーは深い関係にあり、ガンのビタミンC療法による点滴の場合、その効果を確認するのに大変参考になる、と博士は述べています。また、ビタミンC点滴の場合、50g/回、あるいは70g/回を点滴するかは、腫瘍マーカーのデータやQOLをチェックしながら、臨機応変に点滴量を調整することも重要、と考えられます。更なる臨床データの積み重ねが待たれます。

References

Nina Mkirova, et al. Effect of high-dose intravenous vitaminC on inflammation in cancer patients. Journal of Translational Medicine. 2012, 10:189

Roxburgh CS, et al. Role of systemic inflammatory response in predicting survival in patients  with primary operable cancer. Future Oncol. 2010, 6:149-163