医科栄養学・栄養医学ブログ

医学部で医科栄養学を学んだ経験と最新の栄養医学をこのブログに反映したいと、考えています。

大腸ガンと酪酸菌などプロバイオティクスの効果について 栄養医学ブログ 日本ビタミンC研究会 藤井毅彦

2015-07-10 14:26:26 | 健康・病気

酪酸菌を始め、納豆菌や乳酸菌の大腸がんや潰瘍性大腸炎に対する効果が研究され、希望のある結果が内外で報告されています。今までマイナーであった酪酸菌が、腸管内で水溶性食物繊維を餌にして、酪酸を産生し、その酪酸が、制御性T細胞(炎症やアレルギーを抑える免疫細胞)への分化誘導に重要なFoxp3遺伝子の発現を高め、その制御性T細胞が潰瘍性大腸炎や大腸ガンを抑制するという研究が報告されています。

腸内ではビフィズス菌や乳酸菌がメインの善玉菌ですが、弱点は、胃酸などで分解し、大腸まで到達しづらく、その欠点をカバーするため有胞子性乳酸菌が開発されています。酪酸菌や納豆菌は、強い菌で無事大腸まで到達し、乳酸菌やビフィズス菌の増殖しやすい環境にする性質があります。その結果、腸管バリア機能を守り、病原菌や腸内で発生した毒素の体内への侵入を防ぐ働きもあることが、次第に分かってきました。また、腸内のビフィズス菌は、プレバイオティクスを餌にして、糖トランスポータ酢酸を作り、その酢酸が腸管上皮のバリア機能を向上させ、人々をいろんな疾患から守ってくれている、と考えられています。

酪酸菌や納豆菌、それに乳酸菌、ビフィズス菌などのプロバイオティクスは、それぞれ助け合い、腸管で生長し、ガンや潰瘍性大腸炎を始め、二型糖尿病、心臓病、自閉症などの疾患になるのを防いでいる、と最近の米国の研究では報告されています。また、プロバイオティクスのガンのリスクを減らすメカニズムは、腸管細胞の染色体へのダメージを防ぎ、腸管内の有害な酵素活性を防ぎ、潜在的に有害な細菌の生長をコントロールし、結腸細胞との有益な相互作用をなし、免疫システムを刺激し、そして、結腸細胞に及ぼす有益な効果を有する生成物などを産生することです。また、重要なことですが、野菜や果物に含まれている食物繊維(プレバイオティクス)は、乳酸菌やビフィズス菌の餌となり、それらの生長を促し、腸管内の酪酸(結腸細胞の生長と調節に重要な化合物)値を高めます。

米国の疫学的研究によると、大腸ガンと高脂肪食の間の結び付きが報告され、このことは、結腸での胆汁酸値の上昇によると、考えられております。腸管での胆汁の分解産物は、結腸の細胞群に対し、毒性を有する可能性があり、結腸細胞の増殖と発ガンの可能性を高めます。プロバイオティクスによる腸管細菌叢のコントロールは、酵素7a-dehydroxylase(これらの毒性物質を作る酵素)の活性にプロバイオティクスは、この酵素に結合することにより、胆汁酸塩の毒性を低下させる可能性があります。したがって、大腸ガンの予防には、高脂肪食を減らし、プロバイオティクス食品(納豆、無脂肪のヨーグルト、漬物、発酵食品など)やプレバイオティクス食品(野菜、果物、海草、豆類など)を常日頃、摂取することが重要です。不足分は、プロバイオティクスサプリメントで補うことです。そして、今や、爆発的に増加している大腸ガンも、我々、日本人の祖先が工夫して開発したプロバイオティクスやプレバイオティクスの多く含まれる日本食を、今一度見直す時期に来た、と思います。そして、更なるロングスパンの研究が期待されます。

References
Gut Bacteria and colorectal cancer: CancerActive
Atsushi Hayashi, et al:iA single strain of clostridum butyricum induces intestinal IL-10 producing macrophages to suppress active experimental colitis in mice. Cell Host & Microbe. volume 13,12 June 2013
べん野 義巳; 大腸内細菌叢の多様性解析とプロバイオティクスの機能。理化学研究所
Butyrate production from dietary fibre and production against large bowel cancer in a rat model: BMJ Open Gastroenterology.Gut 1993;34: 366-391

 

 


実験的潰瘍性大腸炎に対する酪酸菌の効果について 栄養医学ブログ 日本ビタミンC研究会 藤井毅彦

2015-07-04 10:35:41 | 健康・病気

毎年、爆発的に増えている潰瘍性大腸炎に対する酪酸菌の効果については、そのメカニズムが解明され、注目されています。日本での研究によると、酪酸菌摂取により大腸内では、食物繊維を餌として酪酸が産生され、酪酸が制御性T細胞(炎症やアレルギーを抑える免疫細胞)の分化・誘導に必要なFoxp3遺伝子の発現を高め、それにより分化・誘導された制御性T細胞が潰瘍性大腸炎を抑制するというメカニズムです。ところで、今回は、実験的潰瘍性大腸炎に対する酪酸菌の効果について考えていきたい、と思います。そもそも潰瘍性大腸炎は、原因が複合している場合が多く、病態が複雑ですので、それらに対する治療法の一つとして、酪酸菌の効果を考え、また、食物繊維の摂取量によりその効果は違い、食物繊維の摂取量が多い程、その効果は強くなると考えます。

ノースカロライナセントラル大学のTomas T Ding博士と他の研究機関の共同研究によると、oxazoloneで実験的潰瘍性大腸炎になったラットにプロバイオティクスの酪酸菌clostridium butyricm(CGMCC0313)を摂取させると、mesalamine(抗潰瘍性大腸薬)、あるいは酪酸塩と同等か、それ以上の効果がありました。更にIL-23と腫瘍壊死因子(TNF-α)の血清値の低下をもたらしました。ラットの腸管細菌叢は、mesalamineと酪酸塩グループよりclostridium butyricum(酪酸菌の一種、CGMCC0313)を投与したグループでは、早く回復するようでした。また、ぺプタイドと関係したcalcitonin遺伝子の発現値は、酪酸塩を投与したラットグループでは結腸組織では上昇しましたが、酪酸菌CGMCC0313とmesalamineグループでは上昇せず、酪酸塩の投与後の結腸の感受性が見られました。このような結果から、ラットでの実験的潰瘍性大腸炎モデルでは、プロバイオテイクスの酪酸菌clostridium butyricm(CGMCC0313)は、少なくともmesalamineと同等の治療効果を有すると考えられ、mesalamineに比べて副作用も格段に少ないので、酪酸菌の潰瘍性大腸炎への適用が期待されていますが、更なる研究が望まれます。なお、日本や米国では、酪酸菌のサプリメントがドラッグストアやネットで販売されているようです。納豆菌や有胞子乳酸菌、ビフィズス菌、食物繊維などと併用摂取すれば、効果は強くなると考えますが、個人差もあるかもしれません。

ところで、潰瘍性大腸炎では、metronidazole(抗菌剤)は、テトラサイクリンと共に、フソバクテリウムバリウム菌の大腸内での感染による潰瘍性大腸炎の治療に用いられ、効果が確認されています。また、TNF-αの分泌過剰による潰瘍性大腸炎症候群では、抗TNF-α剤などが効果を有しておりますが、ビタミンCやビタミンD3にも抗TNF-α作用がある、と報告されています。その他に、ウコンやクルクミン(ウコンの成分)、青黛(染料の藍の一種)なども潰瘍性大腸炎への効果が報告されています。

Reference
Hai-Qiang Zhang, Tomas T Ding, et al: Therapeutic effects of Clostridium butyricum on experimental colitis induced by oxzolone in rats. World Journal of Gastroenterology. 2009 Apr 21;15(15):1821-1828