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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 632 奇妙な三角関係 ➌

2020年04月22日 | 1976 年 



松前総長の遠大な構想の旗手へ
「東海大学は高校・大学と一貫した教育を方針としている。東海大の付属校の生徒は推薦で大学へ進むことが普通です。他の大学へ進学する生徒以外はもう東海大学に入学したのも同然なのです」11月24日の会見で松前総長は断言した。何としても原親子を東海大学に迎えたいと考えている松前総長とはどのような人物なのか?松前重義氏は東北大学出の元通信院総裁で元衆議院議員、現在は社会党の顧問である。今年にロッキード事件が起きた後に社会党・江田三郎氏、公明党・矢野絢也氏、民社党・佐々木良作氏らと『新しい日本を考える会』を結成し座長を務める一種の政界フィクサー的存在である。

その松前総長には政治とは別に東海大学を更に大きく格式のある総合大学にしたい夢がある。その一環で先頃、最後の学部として医学部を創設したのもその為である。またスポーツによる建校という精神から東海大学が所属する首都大学リーグの一層の繁栄にも力を注いでいる。「松前氏は5年ほど前から貢氏を大学野球部に誘っていた。また忙しい中、暇を見つけてはリーグの本拠地の駒沢球場へ行き試合を観戦し将来的には駒沢球場を3万人収容のものへ作り替える構想もあるらしい」と担当記者。先ずは貢氏を監督に迎えてチームを強化し、ゆくゆくは全国各地の有力選手を入学させて大学野球界に旋風を巻き起こす野望を持っている。

その第一歩として原親子は何としても手放したくない。「東海大学から原家にそれ相応の支度金が出た筈ですよ。プロへ行けば5千万円の契約金は確実な選手だけに当たり前の話だと思います」と某球団スカウト。例え将来はプロ野球で身を立てるにしても大学教育を受けてからでも遅くはないという原家との考えとも一致する。松前総長は「原君が野球選手として生きていくのか、或いは学苑の徒として才を伸ばすかは分かりませんよ。なのにどうして皆さんは学業半ばの青年に今プロへ行くのが原君にとって最良の選択だと書き立てるのですか?」とマスコミに対して苦言を呈した。



ポスト王貞治へ天性のスター性と素質
巨人軍の原選手獲得熱は想像を絶するものがある。そこまで固執する理由とは何か?正力オーナーが提唱する「巨人百年の大計」によれば原選手は何が何でも獲得しなければならない人材であるのだ。将来の巨人軍を背負って立つだけの力と素質を持っている。ドラフト制がなければ例え何億円を積んでも入団して欲しいと公言する。過去、田淵や山口、江川など欲しい選手を獲得できなかった。それだけに自由獲得対象となった原選手をどんな手段を駆使してでも獲りたいと思っても不思議ではない。やがては現役から退くであろう王選手の後釜が何としても必要なのだ。

「長嶋君が引退した時に第一の危機が訪れた。しかしまだ王君がいた。その王君が引退したらどうするか。それは4年も5年も先の事だろうが巨人軍は常に長期的視点でチーム作りをしている」と正力オーナーは言う。ポスト王を一日でも早く確保する必要がある。長嶋監督は原選手について「原君は僕の高校時代と比べても遥かに素晴らしい選手。しかも天性のスター性を兼ね備えている。ポスト長嶋、ポスト王として数十年に一人の逸材ですよ」と熱く語る。原選手を三塁手に起用し遊撃手の篠塚選手と三遊間コンビを組ませ、これに王・張本らのベテランを絡ませれば黄金時代を続けられるという計画である。

原選手が大学に進学しても4年後には今と同じく獲得に動くがドラフト制度がある以上は巨人に入団する確率は十二分の一。巨人が原選手を確実に獲得できるのは自由競争になった今を除いてはないのだ。それだけに巨人軍としては道義的に世間から非難を浴びようが形振り構わず獲得に動いているのだ。ドラフト会議前のスカウト会議で一応は指名して交渉権を得るのが良いのでは、という意見も出た。しかし出来レースではと痛くもない腹を探られるので、自由獲得選手になってから交渉に入るのが得策であるとして指名は見送られた。ドラフト会議後の正力オーナーの「手は打ってある」という発言はこうした球団内の意思決定の経緯を指していたのだ。

更に一部スポーツ紙が記事にしたアマチュア球界の大物・X氏にはドラフト会議前に下交渉の依頼は確かにしていた節は有る。ただし巷間言われているような密約とか謀略の類ではなかった。密約とは松前総長の長男・達郎氏(九州東海大学長)が来年の参議院選挙に出馬する際には読売グループがバックアップするというもの。しかしこれは現実的ではない。大手マスコミがいち政治家を応援するなど有りえない話だが、いかに巨人軍が原選手を欲しがっているかを誇張してそんな噂話が独り歩きしたようだ。巨人は松前総長の断にもかかわらず12月の総選挙後に正力オーナーと松前総長の会談に望みを賭けている。果たして逆転満塁サヨナラホームランなるか注目である。

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