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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 469 現状報告 ①

2017年03月08日 | 1985 年 



転身で大きくのしかかる期待と責任。高木豊を襲った異変とは何?

「おかしい…」・・一塁へ走りながら高木は自問自答するように呟いていた。2月25日の紅白戦でジャストミートしたつもりの打球が失速し凡打に。3打数無安打。バットの振りの鈍さを高木自身が気づいた。確かにキャンプも終盤で疲れが溜まり体調は万全ではない。だがこの男にはそれを補って余りある程の野球センスがあった筈。「今年は違う…」普段は滅多に弱音を吐かない高木が弱気になっていた。「二塁と遊撃でこんなに運動量が違うとは思わなかった。走者の足がやたらと速く感じるんだよ。守りでこんなに精神的に追い込まれるとは…」と吐露する。

近藤監督はチームの活性化と戦力アップを目的に大胆なコンバートを敢行した。遊撃手の山下と二塁手の高木、更に三塁手の田代と一塁手のレオンを入れ替えて内野陣を再編した。ところが打線のリードオフマンで守りの要でもある高木に異変が起きた。ゴロを捕球して一塁への送球するまでの " 間 " が高木の感覚を狂わせた。捕球してから一塁手を目で確認していたら間に合わない。常に一塁の位置を頭に入れて置かなければ駄目なのだ。事実、名遊撃手と誉れ高い山下はかつて「僕はベースの位置を体で覚えている。だから一塁手を見て送球していない。ただベース上に向けて投げているだけ。捕球できるかどうか、は一塁手の責任」と平然と言ってのけていた。

近藤監督は高木を昨季までのリードオフマンから今季は三番に据える予定である。しかし今のままではその目論見も瓦解しかねない。「俺みたいな小柄な選手には重過ぎる責任だよ」と高木は小さく笑ったがその目は笑っていなかった。「こんな筈ではなかった」と異変を確実に感じ取っている。近藤監督は「慣れれば大丈夫。僕は全く心配していない。三番・遊撃をこなしてくれる事で山下も生き返るし打線も高木の後ろにレオン・ホワイト・田代と続くクリーンアップは広島や巨人にもひけを取らない」と心配はしていない。昨年、初の盗塁王を獲得し今シーズンは首位打者も狙っている高木。しかしコンバートと三番への転身が全てを無くす危険をはらんでいる。



山内監督は適任と言い本人もやる気いっぱい。『一番・田尾』の跡目に浮上した中尾

山内監督は田尾が抜けた一番にシート打撃では平野を指名した。昨季30盗塁を記録したスイッチヒッターは数字的には大本命なのだが山内監督は「う~ん」と納得していない。一昨年、近藤監督(現・横浜大洋監督)が開幕30試合ほど " 一番・平野 " を試したが「まだ無理だった(近藤監督)」と撤回した過去がある。プレーボールの声と共に打席に入る一番打者に求められるのは「高打率・選球眼・俊足」と言われている。現時点での平野がクリアしているのは俊足のみ。昨季の田尾の出塁率 3割7分に対して平野は3割3分。出塁できなければ俊足は宝の持ち腐れである。そこに最近浮上してきたのが中尾の一番抜擢構想である。

昨季、右肩を痛めて欠場するまでは76試合に出場して打率 322 ・12本塁打。出塁率も3割9分 と平野は勿論の事、田尾をも上回っていた。「中尾が一番を打ったら史上最高の一番打者になるんじゃないか。3割・30本塁打だって夢じゃない」「本人に聞いたら『やってみたい』と言っていた。考える価値はある(山内監督)」と。本人が乗り気で監督も適任と判断しているが現段階では現実味はなくキャンプではただの一度もテストすらしていない。痛めた右肩の回復具合の確認が最優先課題でキャンプでは守り中心の練習を送っている。仮に怪我が回復しても捕手は怪我が多いポジションであり1年を通して一番打者を務める事は難しい。

ただでさえ中尾は怪我に弱い。プロ入り以来、中尾は一度として全試合に出場できた事がない。1年目は116試合、2年目以降は119試合、92試合、昨季は76試合にとどまった。シーズン中に一度や二度は痛みを理由に戦列を離れている。そのせいもあって中尾の控えとして田尾を放出してまでして大石を西武から獲得した。せっかく中尾を一番に抜擢しても怪我で欠場となったら平野を使わざるを得ない。そうなるなら最初から平野を起用した方がチームとしても平野本人の為にも影響を最小限に抑える事ができる。山内監督が決断できない理由もそこにある。中日を襲った田尾放出ショックはまだまだ尾を引きそうな気配である。

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