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納戸の奥に眠っている箱を久しぶりに出してみると…
買い集めていた45年前の週刊ベースボールを読み返しています

# 531 電撃退団 ③

2018年05月16日 | 1985 年 



西武監督を電撃的に辞任した後、沈黙を保ってきた広岡達朗氏が初めて口を開いた。吉田阪神の来季、王巨人の逆襲への道、西武次期監督問題。そのひとつひとつに、この人らしい論理がある。三度、野に下った稀代の名将が熱く語る

西武での4年間、男の野望に燃えた4年でした
聞き手…色々とご苦労様でした。一段落して今の心境はいかがですか?
広 岡…秋晴れですよ(笑)。確かに西武退団時はフロント陣と意思の疎通を欠いた所がありましたが、今はもう…。西武にお世話になった
      4年間は大満足でした。理想的な環境を提供してもらい、自分でも100%以上に働けたと感謝しています

聞き手…充実していたと。後悔は無いと
広 岡…選手にも恵まれ4年間で三度も優勝できて満足しています。それもこれも充分に練習できる環境設備を用意してくれた西武球団の
      お蔭だと思っています。最後に僕自身が体調を崩したのは大誤算でしたが(苦笑)

聞き手…西武の監督時代を振り返って先ずは監督就任のいきさつから教えて下さい
広 岡…昭和54年、クラウンライターを西武が買収したと発表した時、私は後楽園球場の事務室で巨人軍関係者と一緒にニュースを
      見ていたんです。「えっ、あの西武がプロ野球界に参入するのか」と巨人軍関係者が驚いていたのを憶えています。それは
      参入を歓迎する驚きではなく、明らかに警戒心を抱いているのが分かりました。あぁ、西武とは巨人軍が緊張するくらいの
      組織なのだと思いました。それからですね西武を意識したのは

聞き手…評論家を経てその西武の監督に就任する事になるのですね
広 岡…年齢的にも監督を務めるのは最後だと考えていましたから、どの球団を選ぶか慎重になりました
聞き手…西武以外にも監督就任要請はあったのですか?
広 岡…3球団から話はありました。最終的に西武か阪神かとの選択になりました。周囲は男になるには巨人を倒せる阪神を推す人が
      多かったですね。最後と決めた仕事ですから思い通りに仕事をするには充分な設備投資が必要不可欠。それに応えてくれたのが
      西武でした。西武を巨人や阪神を凌駕するチームに育て上げればパ・リーグ全体も発展すると思い決断しました

聞き手…いきなり1年目に優勝して、お見事でした
広 岡…あの優勝は森(ヘッドコーチ)の功績が大きかったですね。監督就任が決まるや、森とホテルに籠って敵・味方の分析をしました。
      元々前年があと1勝で優勝というチームでしたから、少し肉付けをすればいけるという自信はありましたけど、セ・リーグ育ちの
      人間に負けてたまるか、という他球団の意気込みは凄かったですけどね

聞き手…初期の1~2年は田淵や大田らのベテラン選手を上手く使いましたね
広 岡…野球選手は試合に出てナンボやから、怠けていたら絶対に使わなかった。田淵や大田はキャンプからオープン戦の頃までは
     「今日はいいですわ」と言ってノンビリ構えていましたが、試合に出してくれないと分かると自分から動き出しましたね

聞き手…世間では超・管理野球と批判されましたが
広 岡…すぐ管理野球と批判するけどチームを潤滑に動かす為のルールを決めているだけで、これは日本だけの話ではない。個人主義の
      大リーグだって遅刻をしたら罰金〇〇ドル、言い訳をすれば更に◆◆ドルは当たり前ですよ


吉田阪神は正攻法野球。来季の大崩れはないと思う
聞き手…監督になる可能性もあった阪神と日本シリーズで戦ったのも何かの因縁ですかね?
広 岡…やるからには勝ちたかったですけど、阪神がその気になったら太刀打ち出来ないと思っていました。阪神は主力が30歳前後で
      選手として脂が乗ってる時期。しかもクリーンアップの破壊力はご承知の通り。まともに戦ったら勝てませんよ。シリーズ前の
      ミーティングでも選手達には簡単に勝てる相手ではないとクギを刺しました。ただ日本シリーズは特別な試合だから相手も緊張して
      平常心じゃない。だから1つ負けたとしても気落ちする必要はない。悪い点を修正すれば道は開けると言いました。選手・スタッフ
      全員が自分の仕事をこなせば恐れることはない、と試合に臨みました

聞き手…2勝2敗で第5戦の小野投手の先発起用は捨てゲームだと言われましたが
広 岡…いいえ、予定通りです。ポイントは第6戦でしたね。初回にいきなり高橋直投手が長崎選手に満塁本塁打を打たれてジ・エンド。
      勝負事の特徴で、ひとつ崩れるとドーと流れが相手に行ってしまう

聞き手…バース対策は充分でしたか?
広 岡…投手は厄介な人種でね。いくらデータを示して説明しても、いざマウンド上で打者と向かい合うと数字よりも自分の皮膚感覚を優先して
      しまう。こうすれば打ち取れるというスコアラーが進言する攻め方をしなくなる

聞き手…吉田監督も広岡さんと同じように大リーグの野球を勉強した後に監督に復帰した人ですが、どのような印象ですか?
広 岡…あれだけ個性の強い集団を纏め上げた手腕は評価できますね。シーズン前から阪神投手陣は弱体と言われてましたが、僕は違った
      印象を持っていました。確かに先発投手陣に不安はありましたが、中継ぎは充実していて抑えはもっと堅固だと評価していました。
      ああした投手起用を進言したのが米田コーチか土井コーチかは分かりませんが、その進言を受け入れた吉田監督は素晴らしいと
      思いますね。大リーグで監督業を学んできた成果だと思います

聞き手…攻撃面はどうでしょうか?
広 岡…世間ではバース・掛布・岡田のクリーンアップばかりに注目が集まっていますが、手堅い戦法を取っていますね。犠牲バント数などは
      西武の倍くらいあった。バントを軽視する人がいますがバントほど難しい戦法はありません。相手のバントシフトの間隙をついて進塁
      させるなければいけないわけですから

聞き手…吉田監督は現役時代と変わりましたか?
広 岡…いや、現役時代から隙あらば思い切ったことをする所は同じですね。今回のシリーズでも岡田が死球を喰らった後しばらく痛そうに
      してましたけど、すぐに走りましたよね。ああいう抜け目のない野球を昔からするんです吉田君は

聞き手…阪神の黄金時代が到来したとの声がもっぱらですが
広 岡…今年は全員がその気になって一丸となって勝ち取った。勝つ時は全体のバランスがきちんと取れている。その要がクリーンアップ、
      特にバースだった。阪神の落とし穴はバースが封じられた時。阪神の強みはクリーンアップであり、弱みでもある。3人が揃ってこそで
      バランスが崩れると普通のクリーンアップになってしまう。まぁバースはなかなかクレバーな選手なので大崩はしないと思います

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