H's monologue

動き始めた未来の地図は君の中にある

使命の道に怖れなく どれほどの闇が覆い尽くそうと
信じた道を歩こう

『サパイラ』の歩き方 その2 訳注が充実

2019-10-21 | 身体診察

 前回の版もそうだったのですが,第2版では各分担翻訳や監訳の先生方による訳注が充実しています。 どんなときに訳注をつけるか?翻訳書なので,もとの本文を読むだけでは理解が難しそうな部分ということになります。少なくともが私が「訳注」をつけた基準は,自分で読んでも十分理解できず,周辺情報を調べてみてやっと理解できたような場合でしょうか。それとサパイラではしばしば見られる皮肉を込めた反語的な表現で,顔面通りに通り読んでも補足しないと理解しにくいだろうと判断した場合などです。

 

それぞれ担当した先生方によってもこだわりがあって,○○徴候といった人名のついた所見では,冠名の元となった医師について詳細に説明してある場合があります。訳注にも翻訳者の個性がでていて思わずニヤリとさせられることもしばしばです。

 

また実は「ど〜でもいいかも」といった情報もあります。例えば19章静脈で私が訳注を追加した部分がそうです。頸静脈の見え方を解説した図19−2で,3人の人名(ピタゴラス氏,スカーレット嬢,マスタード大佐)が挙げてあります。ピタゴラスはご存知のように古代ギリシアの数学者です。この後,頸静脈の高さの説明に「ピタゴラスの定理」を使って解説があるので,それにちなんで使ったのでしょう。では「スカーレット嬢,マスタード大佐」って誰よ?と思いますよね。私はこれが気になって仕方がありませんでした。それでネットで散々調べてみて「英国発症の有名な古典的傑作ボードゲームの登場人物である」と突き止めました。こんなの別になくても本文を読むのに何の支障もありません。でもちょっと面白いと思って訳注に追加したのでした。

 

これは,ほんの一例です。もっとも凄いのは10章「眼」です。訳注の総数,なんと125!総ページ数が多い26章「神経」で訳注が91ですから,これは凄い分量です。内科医にも分かるように眼科的な細かいことまで補足解説がされています。こんなことまで!といったことにも解説が追加されています。

訳注を探して拾い読みするだけでも,各章それぞれ担当された先生方のこだわりが伺い知ることができて面白いですよ。

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『サパイラ』の歩き方 その1

2019-10-19 | 身体診察

発売までの数日,これまで関わってきて面白いと思ったところを少しづつ拾って紹介したいと思います。

まずはじめに,編集のNさんにご許可いただいたので『サパイラ 第2版』の監訳の序を載せます。前版とどこが違うの・・というご質問への一部お答えになると思います。総ページ数は,約100頁増のなんと975頁!少し厚くなりました。それでお値段据え置き・・お得です(笑)。

こうして並べると,日本語版の今回の表紙や帯は色使いとかセンスが良くてカッコいいなあ〜と思います。

 

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<第2版監訳の序>

時が経つのは本当に早い。初めて原書4版の翻訳を打 診されてからはや10年が経つ。日本語版初版が刊行されてからもすでに6年が経過した。

日本語版初版の刊行後に,様々なご意見が私に届いた。多くの場合「身体診察の深みを知ることができた。 難しいけれど少しづつ取り組んでみようと思う」といったポジティブな言葉が多かった。少なくとも翻訳することによって,これまで本書の存在を知らなかった先生方にも届いたことが分かり報われた気持ちであった。

私の病院では米国内科学会の重鎮の一人である George Meyer先生を,毎年教育回診に招いている。本書の初版が刊行された後にそのことを報告したとき,先生の反応は「お前,あの本を訳したのか!?」という驚きの言葉であった。続くお褒めの言葉は,翻訳に携わった先生方を代表して頂いた最大の名誉に感じられたものである。

そして今回の改訂である。原書が改訂されたと知り, 早速入手してチェックした。真っ先に調べたのは不謹慎だが,医学的な内容ではなく本書の大きな特徴である「独特の毒舌,ユーモア」の部分がどう変わったかだった。これは私の個人的な好みであり,医学的な意味合いからは離れる。この点に関して初版以降,オリエント先生の改訂が加えられて「毒の部分」はかなり薄まったように思う。時代の流れかもしれないが正直一抹の寂しさは感じる。一方で,サパイラばりにオリエント先生のこだわりが如実に表れた部分もある。序論の最後に「歴史的幕間」というタイトルで「プロイセン王国における Geheim rath」に関する詳しい記載(1章 28頁参照) があるが,これなどはまさに面目躍如である。EBM至上(実はこれには異論もあるはずだが)の時代への強烈な警鐘を鳴らすために相当な分量が追加されている。サパイラ節は薄まったかもしれないが,まったく同じ方向性の「オリエント節」が炸裂している。細かな部分で多くの情報がアップデートされても根本となる精神は揺るがない。そして,何よりオリエント先生の身体診察に対する想いが序文に新たに付け加えられた次の一文に表れている。

「筆者(訳注:オリエント)は,一時期埃をかぶった本棚に追いやられたとしても,何千年も時間をかけて作り上げられた遺産は守っていくべきだと信じている。

翻訳書の存在価値はどこにあるだろうか。内容を正確に伝えつつも原書の味わいを失くさず,しかもわかりやすい日本語にすること,これが理想的な翻訳書だと私は考える。本書の英語は,ときにネイティブにとってさえ難解なところがあり,加えてサパイラ先生は強烈な皮肉屋で,文章を額面通りにとれず前後の文脈から判断して反語的な意味を持たせている場合があった。米国の医療制度や文化的背景に関する知識がなければ,理解が難しい内容もあった。そんなときに役立つのが,多数挿入された訳注である。第2版でも大いに助けになるはずだ。 さらに今回特筆すべきは「第10章 眼」である。これまで翻訳は内科医が中心だったこともあり,専門外である「眼」について不完全な部分があったのは否めない。こ の点に関して,10章の翻訳(および監訳)を今回お願いした石岡まさみ先生の尽力により,格段のレベルアップがなされた。膨大な数の訳注が,多くの読者の理解に役に立つだろう。先生には謹んで深謝申し上げたい。

今回の改訂にあたっては医学書院の西村僚一氏を始め として編集制作の方々の多大な尽力があった。第4版と 第5版の差分について単語ひとつに至るまで違いが分かるよう膨大な下準備をしてくれた。おかげで翻訳作業を 大幅にスピードアップすることができた。この表には出ない多大な労力なくして,第2版の完成はなかった。深く感謝したい。最後に,日本語版初版を購入して下さった多くの皆さんにも感謝したい。皆さんの評価の結果, こうして第2版をまた届けることが可能となった。また多くの先生方に届くことを節に願う。そして今回も身体 診察に対する意識が,我が国でさらに盛り上がる一助に なれば監訳者一同望外の喜びである。

2019年9月            
残暑厳しい日に監訳者を代表して
須藤 博

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サパイラ 第2版 完成!!!

2019-10-18 | 身体診察

原書5版が出版されて約1年半,ついに『サパイラ 第2版』完成です!

医学書院編集室のNさんが持ってきて下さいました。今回の改訂では,編集・製作の皆さんの尽力,そして翻訳にあたった多くの先生方のご協力で,前回よりはずっと早くここまでたどりつくことができました。感謝しかありません。

1000ページ近い大冊のこの本の編集を,ほぼひとりで担当されたNさんの労をねぎらって祝杯をあげました。

10月25日に発売予定です。皆様,どうぞお手にとって下さい。今後,”Sneak peak” として内容などを少しご紹介するつもりです。

 

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箱根登山電車を応援します!

2019-10-15 | 戻り鉄

 今回の台風19号によって箱根は2日間で1000mm超という驚異的な降水量だったようです。少ないながら情報が明らかになるにつれ,箱根の各所で大きな被害を受けていることが分かってきました。箱根は比較的近いため,気軽にリラックスするのによく出かける大好きな場所です。特に登山電車は乗ってよし眺めてよし,小さな車両が急勾配,急カーブを音をきしませて頑張って走るところが大好きでした。撮り鉄という程ではありませんが,出かけた折には必ずカメラに収めてきました。

そんな登山電車があちこちで甚大な被害を受けて全線不通となっています。少なくとも年内復旧の目処は立たないようです。大変心が痛みます。乗るたびに,よくこんな狭い山中に鉄道を引いたなあと思っていました。逆にそんな場所だからこそ復旧工事は困難を極めることは容易に想像できます。関係各位はそれこそ必死の努力を始めておられることと思います。頑張って下さい。復旧したら乗りに行くことはもちろん,こんな時だからこそ,時間が許せば箱根を訪れて応援したいと思います(まあ自分にはお金を落とすことくらいしかできませんが)。 

 

 

スイッチバックがあるので有名な大平台温泉で次回の大船GIMを「温泉カンファレンス」として春頃から計画していました。念願の「箱根で温泉カンファ」です。今後の状況次第ですが,こんな時だからこそ予定どおり開催するつもりです。

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雑誌『総合診療』10月号から

2019-10-06 | 臨床研修

今日届いた雑誌『総合診療』10月号が面白くて一気に読みました。「教えて!医師のためのビジネス・スキル」という特集で,自分はビジネス・スキルなんてからきし知識がありませんが,すごく勉強になりました。

 

冒頭にあった尾藤誠司先生の総論には特に感銘を受けました。イントロに書かれたQ&Aで『患者さんが医師に語った「言葉」が「病歴」に置き換えられる時,得られるものと失われるものは何か?』 という質問は,いつも私も考え続けていることだったので,そのまま引き込まれるように読み進めました。患者さんの「言葉」を「病歴」として整理することによって,言葉が「治療や診断」に役立つ情報になるが,同時にそれは言葉の元になった「体験」や「言葉の意味」が失われる部分がある,というところには深く納得させられました。

さらに,ご実家が美容院だった尾藤先生が子供の頃に見てきたお母様の美容師としての仕事ぶりと,医師の仕事を対比させて,似ているところ,異なるところを述べておられます。美容師という仕事を身近で見て「プロフェッショナル」ということがどういうことかを考えるきっかけになったとのことです。

その後につづく内容は,ひとつひとつが「そのとおりだなあ」と思うことばかり。自分が漠然と今まで思ってきたことを「明確に文章化された」ような感じがして非常に感銘を受けました。

 

 特に印象に残った文章の覚え書き。

 ・専門技術サービスの醍醐味は,自分たちが持つ専門的知識や技能が,まず「人それぞれ」を排除し,「誰にも共通する1つの解」の存在を信じながらも,あえて今自分が立っている現場においては「人それぞれ」として考え,最適解からズレた「落としどころ」を探っていくことなのだと私は考えている。

・「”あれか,これか”ではなく,”あれも,これも”という視座を持つこと

・「患者に何かを伝える時,そこに少しだけウソをしのばせること」について,私は自覚的であり続けたいと思っている。私が患者さんに「きっと良くなりますよ」と言う時,そこにはウソがしのばせてある。

・大切なことは,その伝え方にウソがしのばせてあることを自覚しながら,プロフェッショナルの覚悟とともに表現することだと思う。

 特に「プロフェッショナルの覚悟とともに,ウソをしのばせること」(下線須藤)という表現は心から同意します。この文章を読んだだけでも,今月号を読んだ意味があったと思いました。

 

他にも中西重清先生の「外来待ち時間」や,研修医の働き方改革の実践とか,普段じっくり考えないような内容が盛り沢山でした。

 

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