H's monologue

動き始めた未来の地図は君の中にある

使命の道に怖れなく どれほどの闇が覆い尽くそうと
信じた道を歩こう

『サパイラ』の歩き方 その1

2019-10-19 | 身体診察

発売までの数日,これまで関わってきて面白いと思ったところを少しづつ拾って紹介したいと思います。

まずはじめに,編集のNさんにご許可いただいたので『サパイラ 第2版』の監訳の序を載せます。前版とどこが違うの・・というご質問への一部お答えになると思います。総ページ数は,約100頁増のなんと975頁!少し厚くなりました。それでお値段据え置き・・お得です(笑)。

こうして並べると,日本語版の今回の表紙や帯は色使いとかセンスが良くてカッコいいなあ〜と思います。

 

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<第2版監訳の序>

時が経つのは本当に早い。初めて原書4版の翻訳を打 診されてからはや10年が経つ。日本語版初版が刊行されてからもすでに6年が経過した。

日本語版初版の刊行後に,様々なご意見が私に届いた。多くの場合「身体診察の深みを知ることができた。 難しいけれど少しづつ取り組んでみようと思う」といったポジティブな言葉が多かった。少なくとも翻訳することによって,これまで本書の存在を知らなかった先生方にも届いたことが分かり報われた気持ちであった。

私の病院では米国内科学会の重鎮の一人である George Meyer先生を,毎年教育回診に招いている。本書の初版が刊行された後にそのことを報告したとき,先生の反応は「お前,あの本を訳したのか!?」という驚きの言葉であった。続くお褒めの言葉は,翻訳に携わった先生方を代表して頂いた最大の名誉に感じられたものである。

そして今回の改訂である。原書が改訂されたと知り, 早速入手してチェックした。真っ先に調べたのは不謹慎だが,医学的な内容ではなく本書の大きな特徴である「独特の毒舌,ユーモア」の部分がどう変わったかだった。これは私の個人的な好みであり,医学的な意味合いからは離れる。この点に関して初版以降,オリエント先生の改訂が加えられて「毒の部分」はかなり薄まったように思う。時代の流れかもしれないが正直一抹の寂しさは感じる。一方で,サパイラばりにオリエント先生のこだわりが如実に表れた部分もある。序論の最後に「歴史的幕間」というタイトルで「プロイセン王国における Geheim rath」に関する詳しい記載(1章 28頁参照) があるが,これなどはまさに面目躍如である。EBM至上(実はこれには異論もあるはずだが)の時代への強烈な警鐘を鳴らすために相当な分量が追加されている。サパイラ節は薄まったかもしれないが,まったく同じ方向性の「オリエント節」が炸裂している。細かな部分で多くの情報がアップデートされても根本となる精神は揺るがない。そして,何よりオリエント先生の身体診察に対する想いが序文に新たに付け加えられた次の一文に表れている。

「筆者(訳注:オリエント)は,一時期埃をかぶった本棚に追いやられたとしても,何千年も時間をかけて作り上げられた遺産は守っていくべきだと信じている。

翻訳書の存在価値はどこにあるだろうか。内容を正確に伝えつつも原書の味わいを失くさず,しかもわかりやすい日本語にすること,これが理想的な翻訳書だと私は考える。本書の英語は,ときにネイティブにとってさえ難解なところがあり,加えてサパイラ先生は強烈な皮肉屋で,文章を額面通りにとれず前後の文脈から判断して反語的な意味を持たせている場合があった。米国の医療制度や文化的背景に関する知識がなければ,理解が難しい内容もあった。そんなときに役立つのが,多数挿入された訳注である。第2版でも大いに助けになるはずだ。 さらに今回特筆すべきは「第10章 眼」である。これまで翻訳は内科医が中心だったこともあり,専門外である「眼」について不完全な部分があったのは否めない。こ の点に関して,10章の翻訳(および監訳)を今回お願いした石岡まさみ先生の尽力により,格段のレベルアップがなされた。膨大な数の訳注が,多くの読者の理解に役に立つだろう。先生には謹んで深謝申し上げたい。

今回の改訂にあたっては医学書院の西村僚一氏を始め として編集制作の方々の多大な尽力があった。第4版と 第5版の差分について単語ひとつに至るまで違いが分かるよう膨大な下準備をしてくれた。おかげで翻訳作業を 大幅にスピードアップすることができた。この表には出ない多大な労力なくして,第2版の完成はなかった。深く感謝したい。最後に,日本語版初版を購入して下さった多くの皆さんにも感謝したい。皆さんの評価の結果, こうして第2版をまた届けることが可能となった。また多くの先生方に届くことを節に願う。そして今回も身体 診察に対する意識が,我が国でさらに盛り上がる一助に なれば監訳者一同望外の喜びである。

2019年9月            
残暑厳しい日に監訳者を代表して
須藤 博

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