面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「婚前特急」

2011年04月28日 | 映画
24歳のOL・池下チエ(吉高由里子)は、5人の男と付き合っている。
仕事の愚痴を言うのは包容力のあるバツイチ・西尾みのる(加瀬亮)、旅行に行くのは年上の美容室3店舗のオーナー・三宅正良(榎木孝明)、スカッとしたいときはバイク乗りの金持ちお坊ちゃん・出口道雄(青木崇高)、癒されたいときは年下の大学生・野村健二(吉村卓也)、そしてもう一人は、何となく一緒にいると楽なので付き合っているパン工場の工員・田無タクミ(浜野謙太)。
自分の“ニーズ”に合わせてそれぞれの彼氏が持つ利点を活用し、時間を有効に、常に楽しく過ごしていた。

チエの話は何でも親身になって聞いてくれ、深く理解してくれている親友の浜口トシコ(杏)が、長年付き合っている彼氏の子供を身ごもり、結婚することになってビックリ!
チエはトシコから結婚を勧められるが、まだその気にはなれない。
しかし結婚式でトシコ夫妻の幸せそうな姿を見たチエは、とりあえず彼氏をひとりに絞ってみようと、自分の彼氏たちを査定することにした。
まずは男たちのメリットとデメリットを手帳に書き出して査定をはじめたところで、トシコから査定の結果、残った男との結婚を勧められる。
チエも、最後に残った人が自分の“ほんとうの相手”かもしれないと思う。

査定の結果チエは、デメリットだらけでメリットは「楽」しかない田無と別れることにした。
田無が働いているパン工場を訪ね、いきなり別れ話を切り出すと、思いもかけない言葉が返ってくる。
「俺たち、付き合ってないじゃん。」
あ。え?何?え?私たち、付き合ってなかったの??そしてたたみ掛けるように田無が言う。
「今までどおりカラダだけの関係でいよう♪」
はぁ?え?もしかして田無にワタシがフラれたことになった???
思いも寄らない展開に愕然としたチエは、田無への復讐を誓う。
「思い切り自分に惚れさせてフッてやる!」


限られた時間を有効に使って楽しい人生を送るためには、男をひとりに絞るなんてもったいない!
そう言い放つチエは、自由気ままに自分の好きなように振る舞い、相手を振り回しているように見えるが、その実しょっちゅう相手に振り回されている。
チエの中に“核”になるものが無く、自分の好きなようにしているようではあるが、その行動といえば、ただその時の気分でふらふらと“彼氏”たちの間を漂っているに過ぎない。

「自分」が無いチエは、ワガママ放題に見えながら実はただギャーギャー喚いているだけで、自らの力で決めた方へ歩いていこうとしているわけではない。
常に「どうしたらいいか」分からないまま、“彼氏”たちの間を右往左往している。
だからこそ、ぐいぐい押されると弱い。
というより、抵抗する術を持たないため、そのまま相手に押されてしまう。
そして実は、どんどん自分の思うままに行動する相手に引っ張られる方が性に合っているだろう。
我々「年寄り」が普通に考えればありえないラストも、チエの性格を考えると納得できる。


途中で結婚の要諦がさりげなく示され、ラストが予見できるのだが、これはおそらく既婚・未婚によって捉え方が異なり、予見も変わるだろう。
また男女の性別の違いによっても、チエの行動に対する捉え方は大きく異なることだろう。
映画を観た人との語らいが楽しい、全く肩肘張らずに笑って観ていられる、軽いタッチのラブ・コメディ。


婚前特急
2011年/日本  監督:前田弘二
出演:吉高由里子、浜野謙太、杏、榎木孝明、加瀬亮、石橋杏奈、青木崇高、吉村卓也