面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「ブンミおじさんの森」

2011年04月19日 | 映画
タイ東北部のある村に、腎臓の病を患うブンミ(タナパット・サーイセイマー)、19年前に死んだブンミの妻の妹ジェン(ジェンチラー・ポンパス)とトン(サックダー・ケァウブアディー)がやってくる。
ブンミは毎日、使用人ジャーイに助けられながら人工透析を行っていた。
ある夜、ブンミとジェン、トンが食卓を囲んでいると、ブンミの妻フエイ(ナッタカーン・アパイウォン)が現われる。
さらに、数年前に行方不明になったブンミの息子ブンソンの声も聞こえてくる。
フエイもブンソンも、ブンミとは“違う世界”に生きていた…


死を悟り森へと“還る”ブンミおじさんの姿は、悟りとも違う独特の透明感を湛えている。
自然が奏でる音に包まれながら、ゆったりと流れる時間に身を委ねて、自分も大自然の一部へと溶け込ませながら人生を終えることができたら、このうえない幸せかもしれない。

子供の頃、週末になると父親と共に山に登っていたが、自然に包まれることの楽しさを理解することはできなかった。
それからン十年。
自然の中にたたずむと、そこはかとなく幸福感に包まれるようになったのは、自分がどんどん“自然”から離れていっているからかもしれない。
“自然”に近い子供が成長と共に“自然”から離れ、“人工”の衣装を身にまとっていくということが、大人になるということなのだろう。


大自然の中で精霊たちとの交流が生まれる奇跡を、長回しのカメラで効果的に描くアジアン・スピリチュアル・ワールド。
静かにゆったりとスクリーンの中に身を沈めて、哲学的な気分に浸るのも、映画の楽しみ方のひとつ。


ブンミおじさんの森
2010年/イギリス=タイ=ドイツ他  監督・脚本:アピチャッポン・ウィーラセタクン
出演:タナパット・サーイセイマー、ジェンチラー・ポンパス、サックダー・ケァウブアディー、ナッタカーン・アパイウォン